祓い屋女中記
@Kunoki_Yuzuko
第一章
第一話 初めまして
ここは特別警務部隊。
この部隊は街に
警務部隊の隊員達はこの世のものではない存在を見ることは出来るが、祓ったり鎮めたりなどは出来ないので、特別仕様の刀を用いて退治や、陰陽師と連携して任務を遂行している。
そして、その特殊な仕事を担う隊員達が住居としても職場としても利用している宿舎内会議室。
そこに毎朝行われる会議時間の一時間前に全員が召集された。
議長を務めるのは警務部隊ナンバー2の副部隊長
ただならぬ雰囲気である。
その隣では、警務部隊ナンバー1のムキムキゴリラの様な総部隊長
やはりただならぬ雰囲気である。
そんな張り詰めた空気の中、御二方の目の前、全隊員の一番前に座っている美男子が、ふわーっと気の抜けるような欠伸をした。
第一番部隊隊長
ギロリと樋口副部隊長の目が向けられる。
「おい翔悟、お前仮にも第一部隊長なんだ。そんなだらしない姿を晒すな。」
「なんですかー?こんな朝っぱらから人を叩き起こして文句つけるなんてぇ。それこそ副部隊長としてどうなんですかねー?会議の時間くらい守ったらどうデスカァー?」
間伸びした、人を小馬鹿にするような言い方だ。
こんな調子で織田隊長は樋口副部隊長にくだらない喧嘩をふっかける。もはや日課と言って良いほど毎度毎度ちょっかいをかけるおかげで毎日隊舎内には樋口の雷がゴロゴロと落ちている。
「っなんだと……?」
隊員たちはまるで鬼を見たかのようにひぃっと震え上がってしまっている。
そんな中慣れた様子の今野総隊長がいつも通り仲裁に入る。実は今野と樋口、織田は年齢は違えど同郷の幼馴染みなのだ。幼い頃からこんなくだらないやりとりを繰り返して来ていたのだろう。
「まぁまぁ、ゆうじも翔悟もそう苛つかずに!な!」
先程までの神妙な顔付きから打って変わって明るくにこやかな顔で声をかけるが、樋口は爆発しそうになった怒りを抑え、代わりに静かな怒気を含めた声で言い返す。
「……今野さん、少し黙っててくれないか?ん?」
「……ごめんなさい。泣」
ゴリラの目にも涙だ。
(((いや俺らの総隊長よっっっわ!)))
「あのぉ~、そろそろ何故僕らが早くから召集されたのか教えてくださいませんか?」
もうグダグダになって話が逸れてしまいそうな空気を察した隠密部隊長
そして樋口は1つ大きなため息をつき、
「今日からな、新しく女中が来る。」
と、重大な発表をまるで今日からトイレットペーパーをシングルからダブルにしましたと言うように、さらっと告げた。
「「「……エ?」」」
会議室内がシーンと静かになった。
そもそも女中って何だっけ?あれ、ここってそういう制度あったっけ?と、久しぶりに聞いた名称に僅かながら混乱している者もいる。
「こんな大事なことを今野総隊長様が今朝方寝起きに言ってきたんだよ……。」
「……すまん。」
今野は申し訳なさそうに大きな体を縮こませる。
先程から畳を見つめていたのは、樋口に怒られて顔を上げられなかったためだ。
叱られてしょんぼりする小さい子供のように見える。
隊員達の哀れみの目やら生温かい目が今野に向けられる中、翔悟が気だるげに聞く。
「それで?その女中はいつ到着するんですか?」
「もう宿舎前に来る頃だ。今野さんと俺とで連れてくるからお前らはここで大人しく待っとけよ。」
「「「は~い」」」
春の日差しが降りそそぐ宿舎の大きな門前に、ポニーテールの少女が荷物を抱えて一人立っている。
背は少し低めだが胸はなかなかに・・・いやなんとも可愛らしい少女だ。
何やら少しソワソワとしているようにも見える。
そして彼女は茶色の柔らかそうな前髪からのぞくクリッとした大きな瞳を閉じ、深呼吸をする。
さぁ、門を叩こうと意気込んだ時、独りでに開いた。
『わ!自動式!?』
「残念ながら手動だ。」
樋口が開けてくれたようだ。
(少しアホっぽいな……。)
心の中で失礼なことを考えている。
「やぁ!君が今日からここで女中をしてくれる子かな!?」
冷たそうな印象の樋口とは逆に、あの夢のランドにでも居そうな、きっとゴリラっぽい陽気なキャラになりそうな挨拶をしてくる今野。
まるで月と太陽のように真逆に見える男が二人立っている。
『はい!初めまして!
ハキハキと挨拶をし、にっこり笑う顔には可愛らしいえくぼが見えた。
(お!なかなか良い子そうじゃないか!)
(隊員共が変に浮かれなきゃ良いけどな。)
二人が何やらコソコソ話していると、
『あの、お二方は総隊長さんと副総隊長さんでしょうか?』
真っ直ぐな瞳で見上げてくる。
「そうだぞ!俺が総隊長 今野 吉美だ!よろしくな!」
「俺は樋口 悠次郎だ。なんで俺らだとわかったんだ?」
『何となくそうかと思いまして!よろしくお願いします!』
何となくで
アホっぽいというだけでなく、何だか少し不思議な雰囲気を纏っているような、何故だかあまり真っ直ぐ見られたくないような、そんな感じがした樋口だった。
「とりあえず全隊員が会議室で待ってるから案内する。」
『はい!』
会議室までは雪華と今野が軽く談笑しながら歩き、樋口は少し様子を伺っている。
一応中西に彼女の素性やら家族関係やらも調査させようと考えていた。
機密事項を預かることもある部隊なのだ。
信用できるかどうか詳細な情報を集めておくに越したことはないだろう。
一方、会議室内では隊員達による女中予測が飛び交っていた。
「いや~、今までと同じくきっとおばちゃんだろうなぁ。」
「そうだよなー、若い女の子なんて来たところですぐ辞めちまうもんなー……」
「いや!今回は可愛い女の子が来ると思う!!」
「いや来ない来ない。今まで来た若い子っていうか、おばちゃんもだけど、織田隊長のせいでみ~んな辞めたじゃないか。」
そうなのである。
あの第一部隊長はとんでもなく綺麗な顔とは裏腹に、とんでもなく性格が歪んでいるのだ。
初めて来た女中には洗礼という嫌がらせを仕掛け、楽しむところがる。なんとも暇な人だ。
そのおかげか、最近だといつ女中を入れていたかわからないくらい前で採用が止まっている。
「こんな特殊なところでやっていけるか試してんだよ。文句あるか?ん⁇」
とても可愛い笑顔を浮かべながら隊員にドラゴンスリーパーをかける。
かけられた側はもうすぐ堕ちそうだ。あの世に。
会議室でギャーギャーと騒いでいると、スパーン!と勢いよく障子が開いた。
「おい!大人しくしてろと言っただろ!」
そして額に血管を浮かべた樋口が入ってくる。
隊員たちはすぐさま居直して整列したが、技をかけられた隊員は深い眠りについたようだ。お休みなさい。南無。
それを横目で見て樋口は軽く息を吐き紹介する。
「今日からここで女中を勤める八瀬だ。」
今野と樋口の後ろからぴょこっと現れた少女は眠りについた隊員を一瞥してから、何も見ていないかのようなそぶりでニコニコと笑顔で挨拶をした。
『初めまして、今日からここで女中として働きます
このおかしな状況の中で、普通に挨拶できるなんてなかなか肝が据わっている子のようだ。
そして、隊員達は予想以上にとんでもなく可愛い子が来たこと(しかも巨にゅ・・・)に雄叫びを上げ、咽び泣き、喜んだ。
「「「ウオォォォーーー!?」」」
「お前らうるせーぞ!」
樋口が耳を押さえながら怒鳴る。予想通り隊員達は浮かれている。ウッキウキだ。猿山に群がる猿とはこのこと。
雪華もキラキラとした瞳にワクワクとした表情も浮かべている。
(なんだかとっても面白そう!動物園みたい!)
やはりなかなか肝が据わっているというより、少し、いやだいぶ変わっている・・・ただ単に樋口の思うようにアホなのかもしれない……。
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