引きこもり怒鳴る
「そんな身勝手なことを言ってるのか、早苗は」
親戚がでっかいため息をつく。ススムの母親は早苗と言うらしい。
「反社っていわゆるヤのつく仕事の人でしょ、ダメよ絶対。なんとかして追い返さないと」
猫恐怖症のほうも納得してくれた。
「きょう会ったのはたまたまなんです。だけど、同じ動物病院に犬を連れてきているということは、この近くに住んでいるのは間違いないと思います。犬なら歩いて動物病院に連れていけるので」
「そうね……アユムは?」
「フリースクールに行っています。小学校でいじめに遭って、とてもとても行きたくないようだったので」
「そうなの? それじゃあ私たちがプレッシャーをかけたのは間違いだったのね」
予想外に話の通りがいい。話せばわかるというやつだ。
その親戚相手に問答無用で子供を預けたのが、ススムの母なのだが。
「とにかく時間がないんです。いつ来るかわからない。怯えているわけにもいかないし」
「わかった。なんとかしよう――」
親戚がそう答えて、わたしとススムが力強く頷いたそのとき、玄関チャイムが鳴った。びくっとする。
インターフォンから、
「あおいちゃん? いるんでしょ? アユムもいるんでしょ? 開けてよ。るぅ君も一緒なのよ」
と、甘ったるい声を出して、なにも知らない諸悪の根源が登場した。
ススムが毅然と立ち上がる。親戚ふたりもそうだ。わたしも立ち上がった。
「なんでこの家の場所がわかった」
「あおいちゃんのバッグに、スマホで探せるやつ入れておいたの」
慌ててバッグを漁る。本当にタグが入っていた。やり方が完全に反社である。
「帰ってくれないか、早苗。ススムはちゃんとアユムの幸せを考えて頑張っている。お前たちの割り込むところじゃない」
「だってアユムは私とるぅ君の子よ?」
「だとしてもあんなやり方卑怯です!」
思わずわたしは怒鳴った。インターフォンのむこうで、ススムの母親は目を丸くしている。
「わたしは子供を育てたことはないです、それにススムと結婚してアユムくんがいるのにビックリしました。でもわたしとススムとアユムくんは家族です。そこに、いまさら家族みたいな顔をして割り込んでくる無責任な人間を参加させたくない!」
「……なあ早苗さん、これ帰ったほういいんじゃね? アユムも諦めたほうがいいんじゃね?」
画面に映り込んでいる坊主頭の男性がそう言う。おそらくこれが出所してきた反社会勢力のひとだろう。
「るぅ君なんでそんなこと言うの? 一緒に幸せになろうって言ったらいいよって言ってくれたじゃない」
「だってさあ……俺正直不安だよ。知らない人と暮らすの。俺と暮らしたせいで不幸せにしたらアユムが可哀想だし」
どうやらこの人は思っていたよりまともな考え方をする人のようだった。とりあえず中に入れて、話し合いをしましょう、と猫恐怖症の親戚が提案した。
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