引きこもり110番する

 東京というのはすごいなあ。フリースクールが悩めるほどたくさんある。田舎にはそんなものはないので不登校からの引きこもり待ったなしだぞ。そう思いながら会議に参加した。


 とりあえずアユムくん本人の希望としては最後に行った、動物がたくさんいるところがいい、とのことだった。確かに先生はなんとなく悪そうだったが通っている子供たちはとてもなついていたし、みんな元気そうだった。


 最初に行ったブラザーがいっぱいいるカトリックのところも楽しそうだったし、2番目に行った厳しいしつけの伴うところもそれはそれで良さそうだったが、結局動物には勝てないのであった。


 というわけで月曜日、わたしはアユムくんと動物がたくさんいるフリースクールに向かった。玄関では相変わらずでっかいイグアナがのんびりとバナナを食べていた。


 ここはモヒカン先生がほぼ1人でやっているらしい。いろいろと書類を書いて、もらっておいたパンフレットの月謝を確認して入会費を支払い、よろしくお願いしますと頭を下げた。


「篠山歩くんかあ。アユムくん、よろしくね」


「はい!」


「無理に頑張らなくていいんだよ、そのまんまでいいんだ。動物はみんな無理に頑張らないでそのまんまでしょ? 人間だって動物なんだよ」


「……はい」


「勉強は苦手なのかな?」


「いえ。好きです、得意です」


「そっか、じゃあ一緒にいっぱい勉強しような」


 モヒカン先生は大変よい先生のようだ。明日から来たいときはいつでもおいで、と言われた。


 それはそれとして、学校もどうにかしなくてはいけないのではないだろうか、などと考えつつ、マンションにアユムくんと二人で帰ってきた。

 スマホを確認すると、ススムからメッセージが来ていた。


「親戚から連絡が来てる これからマンションに行くらしい」


 なんですと?


 居留守を使えばいいかメッセージを送ろうとしたところで、ドアがドンドン叩かれた。チャイムを鳴らせばいいのに、と思う。


「部屋に入っていくとこは見てたんだぞ。出てこい!」


 どうしよう。警察? うん警察だ、こういうことをする相手には警察だ。急いで110番する。何があったか聞かれ、我が家の家族関係を脅かそうとする親戚が玄関のドアを叩いている、と伝えると、さすが東京である、あっという間におまわりさんが駆けつけた。チビ太を保護したときのコワモテのおまわりさんの声で、

「警察です」と言うのが聞こえた。


「私は悪いことなんかしていない! むしろここの家の連中が子供を学校に行かせないほうが罪なんじゃないか! 義務教育の義務に逆らってるんだからな!」


「詳しい話は署でお聞きします。落ち着いて」


 親戚は警察に連れていかれた。少しして婦警さんが玄関チャイムを鳴らしたのでドアを開ける。


 ふと見るとアユムくんは顔を真っ赤にして、ぽろぽろと涙をこぼしていた。

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