宵を旅する列車
坂綺知永
1話 雪が降ったら・・・(1)
「ゲホッ」
夜。雪が降りしきる、ある県立病院の一部屋にいる青白い表情をしている女性は、咳き込んでいる。
この女性の名前は川瀬 麗花(かわせ れいか)。令和の世でも治せない病気を患い、2年くらい入院している。
そのため、病院で生活しており、外に出たことはあまりない。
看護師、同じく入院している患者と話すことが多いだけ。
家族はお見舞いに来て、彼女の様子、会話をするが言葉数が少ない。
閉塞感を感じている彼女だが、ネット上ではかなりの友人と会話しており、その気分を晴らしていた。
麗花は、朝、気分転換のため院内を歩いていた。
そこに廊下で屯ろしていた二人の看護師の会話内容を聞いていた。
少しだけだが、聞こえた内容の事が気になり、今。
パソコンを開き、あるサイトを検索していた。
「この噂は本当なのかわからないけれど、もしかしたらと言うことが起きたら・・・私は・・・」
とつぶやき、何かを書き込み、エンターキーを押した。
すると、横に、人影が現れ、その気配に気づいた、麗花は素っ頓狂な声を出した。
「だ、誰ですか?!」
その男性は、彼女の口元に優しく人差し指を立て、微笑んだ。
「こんばんは。川瀬さま。この度は”ご予約”ありがとうございました。今回担当いたします、”ユウト”と申します。」
ベッドの横で跪き礼をする男性_ユウトを見て、麗花は、きょとんとしていた。
すぐに我に返り。
「”ご予約”って、あの”噂”は本当だったので・・・?」
「”噂”になっているんですね。」影にこもる声で笑った。
「まぁ、そうですね。麗花さま、今回のご予約の内容、こちらで確認いたしましたが、あの内容でよろしいのですね?」
「えぇ。お願いします。ユ、ユウトさん?」
「はい。何かご質問ありましたら今、お伺いいたします。」
「あの、以前どこかでお会いした事がありませんか?」
「?何故でしょうか?」
「どこかでお会いしたような記憶がありまして・・・」
ユウトのすらっとした立ち姿を見ながら麗花はどこか懐かしんでいた。
「いえ。今回が初めてだと。思います。」
「そうですか」
バッサリと言われた彼女は落ち込んだ。
「麗花さま、落ち込んでいるところ申し訳ございません。
次に進ませていただきます。」
「はい・・・」
「では、”列車”にご乗車ください。近くの駅に、私どもの特別な列車をご用意させていただきました。」
「え・・・?」
「あ」
思いついたようにユウトは、黒い鞄から、白い布を取り出し、彼女を覆った。
「え?ユウトさん?何を?」
彼は右手で指パッチンをし、その布をどかした。
麗花の服は病院着からおしゃれな私服に変わっていた。
「これ、私が持っている服。実家にあるはずなのにどうして?」
目が点になっている彼女に、ただ微笑むユウト。
「さぁ。参りましょうか麗花さま。」
病院から外に出た彼女は、深呼吸をした。
「麗花さま?」
「久しぶりなの。ここから外に出るのは本当に約2年ぶり。だからつい。すみません。」
月に照らされながらくしゃっと笑う麗花を見て、ユウトはドキッとしていた。
「ユウトさん?」
「いえ、何も。」
「そうですか。さ、連れて行ってください。列車に。」
「わかりました。」
病院の近くの駅ー桜港駅へ。
そこに到着すると、そこにいたのは、麗花と同い年の女性一人。
その女性は麗花を見るなり、どう声をかければいいかわからず戸惑っていた。
「舞。」
ドキッとした彼女ー皆渡 舞は、麗花をもう一度見た。
「麗花。だよね。」
「そうだよ。」
ホッとした、舞は、彼女に抱きついた。
「も、もう、驚いたんだからね。いきなり、黒い燕尾服を着た”ユウト”と名乗る人にここに連れてこられて約30分待っていたら麗花がユウトさんに連れられて来ているんだもん。」
「ごめんごめん。病院で聞いた噂を・・・いや、私が頼んだんだ。ユウトさんが”特別列車に乗れるのは2人”って言うから。呼びたい人で思いついたのは、舞、あなただったの。それで、ユウトさんにお願いしたんだ。」
「も、もう・・・。」
「ご歓談中失礼します。麗花さま。耳元を拝借。」
「ええ。」
『嘘をついてどうします?』
『嘘。いや、もし舞がこの噂の列車のこと知っていたら・・・嫌がると思うんですよ・・・。』
『・・そうでしたか。わかりました。明かすのは、タイミングを見て私が話してもよろしいですか?一応、契約の中に書いておりましたが。』
『ええ。醒めない夢はよろしくないですからね。』
「麗花、何話しているの?」
「何も。ユウトさん。列車に案内してください。」
「承知いたしました。では、こちらに。」
桜港駅には、白く長い列車が停車していた。(約5両くらいの長さ)
「え・・・えぇ・・・」
二人は腰抜かしていた。
「お二方。腰抜かしているところ申し訳ございませんが、中へお進みください。発車時刻過ぎております。」
「わかりました。」
ユウトは二人が列車の中に入ったことを確認した後、運転士にサインを出し乗車した。
ユウトは走る列車の中で、契約内容、麗花からの願い事が書かれた依頼の内容を確認し、作業を開始した。
客室では、舞と麗花が向かい合って座っていた。
舞は、不安な表情を浮かべている。
麗花は、震える手をぎゅっと握っている。
無言の客室をよそに、列車はゆっくりと桜港駅を発車した。
外は猛吹雪になっていたが、それをよそに白い列車は突き進んで夜に溶け込んでいた。
第一話(2)に続く。
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