6.シミュレーター訓練
「今日はシミュレーター訓練だ!各班分かれてbot戦から始めろ!」
今日の訓練は、昨日の身体を鍛えるものではなかった。聞いた所によると、曜日を決めて訓練しているらしい。
「おい白翼。お前の実力、こいつらに見せてやれ」
「ん?まあいいけれど」
身長差的には大人と子供。見下ろしてくる3人が、びしっと畏まった敬礼をしてくる。
「まあそう固くならないで。今日はまだ少し眠いし」
今はフルコンディションでは戦えそうにない。とりあえずはbot相手だし、手を抜きながらやろうかな。
シミュレーターは筒型で、中に入ると全面モニターが起動する。UIも汎用型で、操作系統も癖がない。非常に扱いやすい機体を模したシミュレーターだ。
「さて、と。始めますか」
=*=対BOT訓練起動。出撃シークエンスを開始します=*=
状態表示ライトが緑色に点灯していく。アナウンスがカウントダウンを始め、聴覚は駆動音を模した音に遮られる。
=*=射出3秒前、2……1……。戦闘シミュレーションを開始=*=
モニターが映し出す背景が急激に動く。あわててブースターを吹かすと、その直後には宙へと投げ出されていた。
「左右ブースター良好。実際よりも操作感度が高い?いや、操作ラグがないだけか」
理論値の動きを返してくるシミュレーターは、リアルの方に慣れている私からすれば違和感の塊だった。
『調整しようか?』
「ウィズ、できるの?」
『こんなローテクプログラムなんてちょちょいのちょいだよ』
UIの表示がバグり、文字化けが発生する。コードが画面を走っていき、UIの色が可愛らしいピンクに変わる。
「ウィズ。UIは戻して」
『お気に召さない?私カラーなんだけど』
「ええ、不快」
『そんな言わなくてもいいじゃん~』
UIは戻るもまだ一部文字化けしたままだ。システムに無理やり介入したせいだろうか。直るかな……。弁償とか言われたらどうしよう。
「っと危ない」
『ミナミ、上だよ!』
「わかってる」
botの攻撃がさらに勢いを増してきた。
「まったく、いやらしい攻撃ばかり」
『このシミュレーター作ったのだれよ!あっミサイル充填完了だよ!』
「ロックオン……遅い……マニュアル起動」
『無茶だよ、人間って腕は2本しかないんだよ?』
「余裕」
=*=撃墜数既定値オーバー。最終戦闘に移行=*=
システムアナウンスの声で正気に戻る。敵botの生成が止まり、ヴァーチャル戦場に静寂が訪れる。
『おいおい、俺の出番か?今日はやけに早いな』
=*=BOT設定レベル最大。隊長ウミヘビです=*=
無線機越しに聞こえてくるのは、間違いなく彼だ。自分を最強レベルとして学習させるなんて、ナルシストがすぎる。
「でも関係ない。敵を排除するだけ」
『……!?強制パージ信号?両肩の武装が!』
「ん、邪魔」
肩のミサイルポッドを外し、機体を軽くする。
目も覚めてきたし、そろそろ肩慣らしといこうかな。
○☓△□
「おい嘘だろ」
「あの新人、何者だよ」
下のフロアで騒ぎ立てる者共を見下ろしながら、私はコーヒーを啜る。
「失礼します、セリーナお嬢様」
「待ちなさい。今いいところなのよ」
モニターに表示されているのは、新人傭兵ミナミのシミュレーター映像と、彼女の操る機体ステータスだ。
「VORXの操作性をわざと下げてこれよ。まったく恐ろしい逸材ね」
「……」
「驚きで言葉も出ないみたいね」
呆けている側仕えの彼女を攻める気にもならない。
対多数戦闘のシミュレーションだというのに、彼女の被弾は未だにゼロだ。
現隊長でウミヘビの名を持つ彼でも、損害微小くらいにはなるだろう。そんな模擬戦闘を繰り返してなお、ミナミの機体には傷ひとつつかなかった。
「でもやっぱり、違和感があるのよね」
「ミナミと言いましたか。彼女のですか?」
「ええ」
ウミヘビから聞いた話が本当であるのならば、彼女こそ本物の『白翼』だ。
「まるで本来のちからを発揮してないような、なにかを隠している?」
傭兵界隈に身をおいてまだ日が経っていないため、私は傭兵事情に疎い。そんな私でも聞いたことがある『白翼』と畏怖された伝説の傭兵。
総力をつぎ込んで調査しても数えるくらいの記録しか存在しない『白翼』ではあるものの、戦闘ログはいくつか残っているものだ。
そこに映るのは手のつけられらない化け物。近づけばその重量級ショットガンと高性能ブレードで。離れれば肩と背中から無数に広がるミサイルで。
故に白翼。ミサイルの軌跡にて生まれた翼。それこそが彼女の象徴だ。
と聞いていたはずなのに、目の前のミナミはミサイルをためらいなくパージした。
確かに軽量化によってウミヘビコピーの変則的な動きに対応しているところはあるが、やはり1ファンとしては……
「セリーナお嬢様。お時間です」
「わかっているわ」
「後ほど結果を連絡させていただきましょうか」
「いいえ、結構よ」
決着は、すぐについた。対bot1001体相手に、損害腕アーマー微小傷。彼女が名のしれぬパイロットであれば、きっとこの場で不正を疑われ糾弾されていただろう。
「教えてもらうまでもなかったわね」
残りのコーヒーを飲み干して、テーブルに置く。まだ山積みの仕事が残っている。早く終わらせなければ、今日も寝る時間に間に合わなくなってしまう。
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