2.敵機排除
『救って欲しい?』
そりゃそうだ。こんな窮地から救ってくれるものがいるのだとしたら、悪魔であっても頭を垂れて祈りを捧げる。
『そりゃ結構。でも私は悪魔じゃないんだよね』
「じゃあいったい……」
『それは後で。ほら、私に命令して。救えって』
「ど、どういうこと?」
『良いから早く!!地面とごっつんこしたいの?』
「わ、私を助けて!!!」
『ありがと』
急に無線機越しの声がハッキリと聞こえた。
『マスター登録、命令受領。マスターID仮取得成功、制御系掌握完了。機体OS更新済み、チェックオールグリーン。よし、行けるよ』
「……あなたまさか」
『そのまさかのまさかだよ!』
墜落していく輸送機が、大きく揺れる。大気を焼く新たな熱源。高性能物質の塊。人型の鎧。
『そのままの体勢でいてね。ズレるとグシャってなるから』
「グ、グシャ……?」
大人しくそのままでいると、声の主がブーストを吹きながら私の真上まで飛んでくる。
『試算結果良し、腕部ブースター微調整、落下重力想定内、うん、完璧だね』
「ちょっと待ってなにする気!?」
『もうここまで来たらやめられないよ!それではコクピットに1名様ごあんな〜い!』
私の自由落下に上から覆いかぶさってくる重量物。気がつくと背中にクッション性のある何かを感じた。
『座席に収まったみたいだね。ベルトするね!』
拘束具のようなベルトが座席から飛び出てきて勝手に閉まる。
『それじゃあ、耐えてねニンゲンさん』
「えっ……うぐっっ」
機体が急に減速する。重力に逆らい、ブースターがフル稼働。つまりは物理法則に従ったGが私の体にかかる。
「わぁ、タフだねぇニンゲンさん。一般人なら気絶してる試算だったのに」
「はは、慣れてるからね」
『へぇ、珍しく当たりかな。それじゃあこれにも耐えてね!』
一瞬の浮遊感の後、座席に身体が押し付けられる。前方への急速ブーストに加えて、ところどころ水平方向にもGがかかる。
「意外と多いなぁ。私じゃなかったら即撃墜コースでしょこれ」
「試算と機体制御に会話まで、あなた相当高度なAIね」
「まあね。うちのお嬢が技術者たちを拉致監禁ゲフンゲフン、誘致して創り上げた結晶だからね!」
「テスト機とは聞いてたけれど、まさかこんなにうるさいのが載っているなんて」
「逆に聞いてもいい?」
「ん?」
「そんなAIちゃんがニンゲンが死なないギリギリのGで調整してる負荷の下で余裕そうなあなたは何者?」
会話中も、敵の射撃を掻い潜る機体によってGがかかり続けている。
「ちょっと慣れてるだけだよ」
嘘ではない。
「おかしいなぁ。AIちゃんの試算ではニンゲンなら意識失いながらゲロ吐いて身体中から液という液を垂れ流しててもおかしくないんだけどなぁ」
「えっと、そういう趣味?」
「違うよ!?敵が完全に隠れているせいで必要以上に回避行動を取らざるを得ないんだよ!被弾ゼロなところを評価してほしいな!」
「まあ確かに、被弾はしてないけど」
現行AIですら、この山脈を被弾無しで通り抜けるのは困難だろう。牽制弾すら喰らっていないのは、流石の一言に尽きる。
「さあここを抜けたらあとは……っとまずっ!」
今まで以上に水平方向に引っ張られる。
「まあ、そうだよね」
『そこのテストパイロットに告ぐ。死にたくなければ降伏して今すぐ機体を受け渡せ』
谷間を抜けた湖。そこを通り抜ければお嬢の管理区域というところで、一体の機体が立ちはだかる。
「ねえAI、受け渡した際の私の生存率は?」
「コンマ何桁まで聞きたい?」
「整数部分だけでいい」
「ゼロだね」
だろうな。敵側の機体に乗れる人物を残しておくわけがない。ある程度情報を聞き出されたうえで処分されるだろう。
「あの機体に勝てる算段は」
「あるわけないよ!こっちは武装してないんだよ!?ああもうどうしよう!!!!!!」
「はぁ……」
結局はこうなるのか。私は操縦桿を握る。大体の操作はAIの自動操縦中に見て覚えた。
「ちょ、何してるの!?」
「少し黙ってて」
マニュアルモード設定。アシストボリュームミュート。操作アシスト切断。操作感度最大。
機体の重みが、操縦桿を通して私に伝わってくる。
「目標、目の前の敵機一体。行動開始」
ここからはワタシの時間だ。
○☓△□
何度リトライしても、機体制御が私の方へ帰ってこない。どうやらとんでもないパイロットを引き入れてしまったらしい。
「ああもう!物理キーは卑怯だよ!!!」
私は情報集合体。物理的な干渉を直接行うことはできない。
「というより何者?」
私の意を介さずに動く機体を見てそうつぶやく。少しつたなくはあるものの、敵の掃射を避け続けている。初めて乗ったようには見えない。それにあの耐G力。ベテランパイロットの域すらも超えている。
「でも武器がなきゃ敵を倒すなんて……」
こんなことになるのなら、道中で適当な敵を殴り飛ばしてくるんだった。掛かる負荷でニンゲンさんが気絶していたかもしれないけれど、ここを切り抜ける装備位はできたはずだ。
「ああもう!だからって強制遮断はやめてよ!」
愚痴りながら、通常ルートではなくバックアップルートで機体制御に介入を試みる。時間こそはかかるもののこれなら……
そう考えていた私に、機体接近のアラームが鳴り響く。
『ちょこまかと鬱陶しい!両断してくれるわ!』
NDES社製X7ブレードが迫ってくる。高機能物質すら紙のように切断する、現行ブレード装備で最も採用実績の多い傑作武装だ。
「回避回避!……諦めた?」
パイロットは微動だにしない。
否、口角が少し上がった。
横入力下回り込みに加え腕の微細操作。AI顔負けの精密動作と瞬発力。機体への理解も常人のそれではない。
『ちっ、腕の強制パージを押されたか』
急いで距離を取った敵機だが、その右腕はこちらの機体が握っている。右腕からブレードを外し、腕部装備へとインストールする。
「武器ゲット。じゃあこっちのターン」
突然の前ブースト。リミッターはいつの間にか外れており、アラートが鳴り響く。
ニンゲンの負荷限界を超えた速度で懐に飛び込んだ機体は、相手の反応よりも早く縦に両断した。
断末魔すらない。中の人間ごと文字通り真っ二つにしたのだろう。
「あ、まずい眠い」
「えっちょっとまって危な!」
ギリギリで機体制御を取り戻し、意識を失ったコクピットのニンゲンに気を使いながら機体を地面に下ろす。
スヤスヤと眠る顔は年相応の少女のものだ。その白髪と病的なまでの肌の白さは箱入り娘と言いたいが、先程のマニュアル戦闘と耐Gを見るに……
『人造人間』
存在しないという話になったはずだ。机上の空論であって、現実的ではない。もし器ができたとしても…それに耐えうる精神は用意できない。再計算してもその結論が出てくる。
ではこの少女は何者か。
寝ているままでは答えは出ないだろう。私は機体を再掌握し、管理区域へと飛び立った。
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