第3話 お仕事初日、いざ大神殿へ

 面接で合格をもらった翌日の早朝。私は鼻歌を歌いながら神殿へと向かっていた。


 昨日は、間借りしていたお宅に帰ってから、聖女専属侍女への就職が決まったことを伝えると、一家の皆さんはとても喜んでくれて、夕食には合格祝いのパーティーまで開いてもらえた。


 実家では滅多に食べられない、ジューシーな鶏肉のグリルやクリームたっぷりのケーキなどが出され、私はもちろん遠慮などすることなく、お腹がいっぱいになるまで堪能した。


 そして今朝、ご一家にお世話になったお礼の手紙を残して出発してきたのだ。


 本当にいい方々だった。初めてのお給金をいただいたら、皆さんにも贈り物をしよう。あ、実家に仕事が決まったと手紙で報告しないと。


 そんなことを考えながら歩いているうちに、我が職場、アルテシア大神殿に到着した。


「おはようございます。本日から聖女様の専属侍女として雇っていただくことになった、レティシア・オルトンと申しますが……」


「ああ、オルトンさんね。こちらへお願いします」


 入り口にいた神官に声をかけると、奥の部屋へと連れて行かれた。


「こちら、聖女様の侍女の制服ですので、まずは着替えていただけますか。私はその間に前任の侍女を連れてきますので」


 そう淡々と述べて、神官は部屋を出て行った。


 求人に応募する時は深く考えていなかったが、前任者ということは、専属侍女を辞めることになったということだろう。異動なのか自己都合なのか、はたまたクビなのかは分からないが……。


 モヤモヤしながら着替え、部屋にあった姿見で身嗜みを整える。侍女の制服はメイド服のような仕立てで、淡い水色に染められており、清楚な印象だ。


 私は亜麻色の髪を手櫛で梳かし、明るい翠色の瞳を細めて笑顔を作る。


 身嗜み、よし!


 鏡に向かって指差し確認していると、ノックの音が響いた。


「前任の聖女様専属侍女のアンナです。お仕事の引き継ぎにまいりました」


 アンナと名乗った女性は、三十代半ばくらいの年齢だろうか。真面目で責任感の強そうな、まさに聖女様の侍女に相応しそうな容貌だ。


 私がアンナさんを部屋に通して挨拶をすると、さっそく仕事の説明が始まった。


「では、まず神殿内を案内しますわね」


 仕事内容の引き継ぎは、実際に大神殿の中を回りながら行われた。神殿内はとても広いので、歩き回るだけでも大変だ。


 聖女様がお祈りをされる祈祷の間や、湯浴みをされる湯殿、図書室や厨房などを巡り、聖女様のお部屋に入ったりもした。


 ちなみに、私の部屋は聖女様との続き部屋だそうだ。室内を見させてもらったが、必要最低限の内装で、質素でこじんまりとしながらも、なかなか快適そうだった。ここで新しい生活を始めるのだと思うとわくわくした。


「……説明は以上になりますが、何か質問はありますか?」


「丁寧にご説明いただいたので大丈夫です。……でも、あの、アンナさんはもうお辞めになってしまうんですか?」


 私はずっと気になっていたことを尋ねてみた。


「ええ、聖女様に王宮でのお勤めを勧められて、そちらに転職することになったのよ」


 ……ん? それはやんわりとしたクビ宣告だろうか……。


「聖女様はなぜそんなことを……?」


「私が、聖女様のご様子が以前と少し違って心配をしていたら、あなたは察しが良くて有能だから、もっと大勢の役に立てる仕事をするべきだと仰っていただいたのよ」


「そうだったのですね。私も、アンナさんの王宮でのご活躍を祈ってます」


「ありがとう。あなたも頑張ってね。それじゃ、もう聖女様も部屋にお戻りでしょうから、ご挨拶に伺ってそのままお仕事をお願いしますね」


 そう言って、アンナさんは退室した。


 アンナさんの話では、クビになった訳ではなさそうだが、なんだか引っかかる気もする。


 でもまあ、一人で考えていても仕方ない。私は私で、聖女様に信頼していただけるよう、真面目に職務を全うするのみだ。


 私はフンッと気合いを入れて、聖女様のお部屋へと向かった。

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