姉弟と彩寧のホームパーティー

第3話 ささやかなホームパーティー――姉と彩寧

 僕が彼女、彩寧、もしくは当時の「委員長」との仲を回復させるのに四日かかった。どう見ても女を連れ込んでるようにしか見えなかったあの状況で、よくぞ仲直りできたものだと僕は自分をほめた。よくやったぞ僕。

 彼女はあの確か中一の夏頃だったか、ホオズキ市での出来事以来姉の存在を知っていたし、僕ら姉弟がお互いに極度のブラコンでシスコンであることにもかなり早い段階で勘づいていた。なのでこれからも姉がちょくちょく面倒ごとや厄介ごとを起こす可能性を見越して早いうちに姉と面通ししてやることにした。


 どうすればいいか色々考えてみたが、結局僕と姉が暮らす狭いアパートに彩寧を招いて三人してご飯を食べることにする。僕と姉で料理を作って彩寧にふるまうのだ。ところが姉は「ゆーくんと一緒に料理を作るなんて初めてっ。まるで新婚さんみたいいいい」などと調子の狂う発言を連発してはしゃぎ、僕は本当に調子が狂った。とか何とか言いつつ、どこで覚えたのか姉は意外と料理の手際が良かった。


 彩寧を交えた三人でのちょっとしたホームパーティーは大成功だった。意外だったのは彩寧と姉がすっかり意気投合したことだ。姉の天真爛漫というかあけすけな面が逆に彼女には好ましいものと映ったらしい。姉はことさらに僕が極度のシスコンであることを強調して彩寧を笑わせ、僕を焦らせた。


「だから、嫌なことがあったらあたしに言ってね、あーちゃん。こいつ、あたしには絶対逆らえないんだから」


「嬉しいです! その時はよろしくお願いしますっ! 頼りにしてます!」


「よしよし、こいつと破局してもあたしが大事にしてあげるからねえ」


「もう泣きそうです私い。お姉さまと呼んでいいですかー」


 うわあ、なんか僕知らない世界に目覚めそう。


 ともあれ彩寧と姉もうまくやっていけそうなんで心配いらないな、と一安心した僕。ただ、彼女としては僕の部屋で二人っきりになれない不満があるようだけど。これは彩寧の部屋に行けばいいか。あ、でもそうすると姉は一人っきりになるのか。それは姉がかわいそうだ。

 だがそう思うのが極度のシスコンの表れであることを僕は自覚していなかった。


「今日はすごく楽しかった。お姉さんとっても面白い方ね」


 彩寧を家まで送って夜道を歩いていると、そう彩寧は言ってくすりと笑った。


「まあ、面白いと言えば面白いか。でも弟の僕としてはわがまますぎてほんと困ったやつなんだよなあ」


「ふっ、でもそんなところも可愛い?」


「まさか、迷惑なだけだよ。ほんと全く」


 僕が吐き捨てると彩寧はまた笑って僕の腕に腕を絡ませてくる。酔っていたからだろうか。こんなことは初めてだった。その温かくて柔らかな感触が嬉しい。だが一瞬、ほんの一瞬、これが姉だったらと思う僕がいた。


「お姉さんとならうまくやっていけると思う……」


「そうか、よかった」


 なぜだろう、僕は大いにほっとしていた。しかし、この腕の違和感に戸惑いを覚える。違う。姉のものとは明らかに違う。

 彩寧の僕の腕を掴む手に力が入った。


 このあと僕たちは軽いおしゃべりをしながら彩寧の家へ到着する。その会話は僕にはどこか空々しかった。


 彩寧の実家の前で彩寧は大胆にもキスをせがんだ。なぜだろう、僕は一瞬躊躇した。唇に彩寧のとは違う誰かの感触が甦る。それはまるで夢の記憶。それでも僕はせがまれるまま彩寧にキスをして、彩寧が扉の向こうに消えるのを確認すると踵を返した。訳も判らぬ一抹の寂しさが抜けない。僕はこの理解しがたい感情を持て余しつつ帰宅する。そこに姉が待っているかと思うと僕の心は軽くなった。

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