空色杯9

mirailive05

空いっぱいの光りの花

 一年前に死んじゃった、近くに住んでたおじいちゃん。


 ぜんぜんしゃべらなくていつも怒ったような顔で、近所の人には恐がられてたけど、ぼくは大好きだった。花火職人って言うかっこいい仕事をしてたから。


 ぼくはときどきおじいちゃんの家の前にいく。そうするとおじいちゃんは入ってこいと声をかけてくれる。


「ぼんは花火は好きか」


「うん、大好き!」


「そうか」


「いつも夏に川の所でやるおじいちゃんの花火がいちばん好き!」


 なぜかおじいちゃんは、ぷいっと横を向いてしまった。なんか耳のところが赤かった。


「でも……」


「なんだ」


「ずうっと見えてればいいのに」


「消えるからいいんだよ、花火は」


 そう言っておじいちゃんは、ぼくの頭をわしわしなでた。


 かさかさで変な匂いがしたけど、びっくりするくらい優しい手だった。 


 でも、おじいちゃんは死んじゃった。もういないんだ。


 花火大会の夜の川は人でいっぱいで、背の低いぼくにはあまり空が見えなかった。


 ひょいとお父さんが肩に乗せてくれた。


 打ち上がったたくさんのキラキラさらさらな光。


 おじいちゃんのいない川の近くでぼくはそっとつぶやいた。


「綺麗な花火……」

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