人間の外枠が見えなくなる眼鏡

苦贅幸成


 人間の外枠が見えなくなる眼鏡。


 その眼鏡をかけると、人間の中身が見える。


 煤で汚れた灰色の布きれ、暖かな光、空気中の塵を引き寄せるピンクの引力、白く柔らかな羽毛の塊。


 何も見えない人間もいる。

 そこに存在しているはずなのに、外枠だけで、中身がないから。

 さながら透明人間だ。


 鏡は見たくない。

 もしそこに、醜いものがあったら、あるいは、何もなかったとしたら。


 立ち直れない傷を負いそうだ。


 それならそれでいい。


 私という人間を、中身からぶっ壊して、他人の役に立つ中身に作り直す。


 そうすれば、誰か、私の中身を愛してくれるだろうか。


 誰が私なんかの中身を見ようと思うのか。

 わからない。

 けれど、もし、私の中身を見て欲しいと思う相手に出会ったときは、おはようとか、こんにちはとか、そういう挨拶といっしょに、私はこう言いたいと思うはずだ。



 「眼鏡をかけて」








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人間の外枠が見えなくなる眼鏡 苦贅幸成 @kuzeikousei4

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