第17話 エルマはデリーをからかう
わたくしはデリーの様子を見て、思わず微笑みましたが
これを見たデリーは
「なに笑ってるんだ」
と言います。
「困った顔が可愛いと思い笑ってしまいました」
とわたくしは答えますが
「盗賊団の団長に、かわいいとか言うな。それに一応は人質だぞ」
と少し不満そうです。
「そうでしたね」
わたくしは、答えますが
「人質と言っても、大事な客でもあるから別にいいが」
と人質であり、客であるとも言います。
「一体どちらなのですか?」
わたくしはどちらなのか尋ねますと
「両方だ、両方。帝国を脅すには殺すわけにもいかない。
かと言って飢え死にや病気で死なれても困る。だから丁重に扱うだけだ」
と答えますと、デリーの頬は少し染まっています。
わたくしはこれを見て
「あとは団長様のものにするためですよね?」
とデリーをからかいます。
「ああ、そ、それもあるが、お、俺のものにするにしても、ど、どっちにしろ丁重に扱うだけだ!」
とデリーはさらに顔を赤くしますが、ブリードからわたくしを奪うと言った割に、初心な感じがしますね。
「ブリードから奪うと言った割には、初々しい反応ですね」
わたくしがこう言いますと
「ばか、余計なことを……」
と真っ赤な顔をして、顔を横に向けます。
「実は女性に弱いのですか?」
わたくしはデリーの反応が面白くなり、さらにからかってみます。
「よ、弱いわけがあるか!お、女なんて、何人も抱いてるぞ!」
デリーは女性を何人も抱いていると言いますが、口調から経験はないように思えます。
もっとも、わたくしも経験はありません。
しかし、経験のないわたくしから見ても、デリーが女性を抱いたことがないのはわかります。
「そうですか。なら、今夜にでもわたくしも抱いてください」
わたくしはデリーの反応が面白く、ニヤニヤしながら抱いてくださいとからかいます。
「何度も言うが、おまえは人質だ、手を出すわけないだろ!それに、抱くとしてもブリードから奪ってからだ」
デリーは人質なので、手を出さず、さらにわたくしを抱くのはブリードから奪ってからと言います。
「しかし、わたくしがここにいるということは既に奪っていませんか?」
わたくしは、デリーに指摘します。
「そうとも言えるが……奴が取り返しに来るはずだ。だから、それまでにおまえを俺の女にするんだよ!」
デリーは半分怒ったように言います。
盗賊団の団長というのは、もっと粗雑な感じだと思いましたが、こんなことで照れてむしろかわいいですね。
「ふふふふ、ではそれまでにわたくしを落としてくださいな」
わたくしは笑いながら、デリーにこう言います。
「ああ、そうだな。奴が取り返しに来ても、俺の女になってれば諦めるだろうからな」
デリーは自信満々でこう言いますが、わたくしはデリーに落とされる気などまったくありません。
ただ、先ほど見せたかわいさに、思わず惹かれてしまいましたが……。
「さて、飯も食ったし、おまえを部屋に連れて行く」
デリーは部屋に連れていくと言いますが、先程からわたくしのことをおまえと呼んでいます。
わたくしはそれが少し不満で
「先程からおまえと言いますが、わたくしにはエルマというれっきとした名前がありますので」
と言います。
「そうだな、公爵令嬢をおまえというのは礼儀がなってないか、すまなかった」
デリーは謝罪しますが、人質にした時点で礼儀なんてありませんよね。
とはいえ、丁重に扱って頂くのならば、ひとまずは大人しくしておきましょう。
「団長、失礼します。人質の部屋の準備が出来ました」
わたくしとデリーが話していますと、部下がデリーに部屋の準備が出来たと報告します。
「そうか、では部屋に案内するが、逃げ出すなよ」
デリーはこう言いますが、さすがのわたくしでも大勢を相手するのは無理です。
それに逃げ出すにもここがどこだかわかりません。
あえて遠回りをしたのか、実際に街から遠い場所なのかはわかりません。
体感的ではありますが、1時間近く山の中を馬車に乗っていたようですので、
歩いて脱出できるようなところでもなさそうです。
なので、ブリードとアストリアが助けに来るまでは、大人しくしておきましょう。
「逃げることはいたしませんので、案内のほどお願いします」
「そうか、俺の後について来るんだ」
デリーが立ち上がりましたので、わたくしも立ち上がります。
スカートを整えますと、わたくしはデリーと、部屋に案内する部下の後をついていきます。
通路は薄暗く、こちらはあまり整備されていないようで、足元は洞窟のままで段差もあります。
「ここは整備してないから、足元に気をつけるんだ」
デリーはこう言いますが
「そういうのならば、手を取ってエスコートしてください」
と再びからかうように言います。
「ば、ばか言え、人質をエスコートするわけないだろ。縄で縛らないだけでもありがたく思え」
デリーは強気に言っていますが、口調は相変わらず照れているようで、思わず笑いそうになりますが堪えます。
「そう言いますが、手を取ることぐらいしませんとわたくしをブリードから奪うことはできませんよ?」
わたくしはさらにこう続けますが、女性の手を取り、エスコートをするのが紳士です。
「そ、それもそうだな。ほ、ほら、手を取れよ」
わたくしに言われ、デリーは手を差し出したので、わたくしはその手を取ります。
その手はブリードと比べたら小さく、緊張からなのか少し汗をかいています。
(やはり、初心ですね)
わたくしは心の中で笑います。
「あくまでも足元が悪いからであって、今だけだからな!」
「わかっていますよ」
デリーは誤魔化すように言いますが、手の汗で誤魔化せていません。
わたくしは手にかいた汗を少し気にしつつも、デリーの手を握り、部屋に案内されました。
わたくしの手を取るデリーは、部屋に着くまで無言でした。
「ほら、ここがエルマの部屋だ」
案内された部屋はベッドとタンスと明かりがあり、奥にもう一つ扉がある狭い部屋です。
「狭いですね」
わたくしが狭いと言いますと
「贅沢を言うな、牢屋でないだけいいと思え」
デリーは呆れ気味に返します。
「それもそうですね」
立場を考えれば、そこまで悪い扱いではありませんね。
「貴族が使うようなベッドや家具じゃないが、すぐに使える部屋はここしかなかったからな」
デリーはこう説明します。
「ベッドがあれば十分です」
見るからに安いベッドですが、それでもちゃんと寝具はあります。
わたくしは、縛られ、地面で寝ると思っていたので十分です。
「そうか、それじゃ大人しくしてるんだぞ」
「わかりました」
わたくしは部屋に入れられますが、押し込まれるというよりは、案内されベッドに座ります。
「いいか、逃げるんじゃないぞ。もっとも、出口は1つしかないから逃げようはないけどな」
「わたくしも大勢の男を相手するほど愚かではありませんから」
デリーが言うとおり、出口が1つしかなく、逃げようがありません。
「それもそうだな。俺は行くが、見張りはつけておくからな」
デリーは見張りの部下に命令をします。
わたくしはベッドに座りますが、洞窟内の気温は高くないですが、湿度があります。
なので、肌がべたついて不快なので、一度洗い流したいと思います。
あと、お手洗いもどうなっているのか、気になります。
「ところで、お風呂とお手洗いはどうなっています?」
わたくしは、デリーにお風呂とお手洗いがどうなっているか尋ねます。
「奥のドアがトイレだ。風呂は温泉が湧いてるが、女が入れる時間は決まっている。
時間は後で教えるが、入りたい時は見張りに言え」
デリーはわたくしに教えますが、奥のドアはお手洗いでした。
また、お風呂も温泉が湧いており、入浴ができるので安心しました。
「わかりました」
わたくしは頭を下げました。
「人質が頭を下げるな。あと、何度も言うが大人しくしてろよ」
デリーは少し戸惑っていますが、何度も大人しくしろと言うので
「しつこいですね、何度も言わなくてもわかっています」
と少し不機嫌になります。
「念のためだ、不機嫌になるなよ。それじゃ、俺は行くぞ」
デリーはわたくしが不機嫌になり、戸惑いながら去っていきますと、部下が扉を閉め、鍵をかけます。
そして、ドアには格子があり、外が見えます。
わたくしはベッドから立ち上がりますと、格子から外の様子をそっと覗いてみます。
見張りは体格のいい男性ですが、1人だけなので倒すことはできます。
ただ、デリーが言うとおり出口は1つですし、大勢の盗賊がいますので逃げるのは素直に諦めます。
その代わり、ブリードとアストリアが助けに来るはずですので、それを待ちます。
いつ助けに来るかわかりませんが、2人を信じ、わたくしはそれまで大人しくすることにします。
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