ストームグラス
夏目
第1話
九月一日 憂鬱を含んだ冬晴れのような雲ひとつ無い空が広がっていた。
まだ辛うじて午前中だと言うのに、夕方を目前にしたようなその空は小学生の頃、仮病で早退し一人で帰った時を思い出させ、晴天が私の気持ちを曇らせた。
ただでさえ仕事に向かう電車を待っているのだからせめて自分を左右する情景は明るく、水飛沫をあげるような雰囲気であって欲しいものだ。
私は、少し自分の機嫌を取ろうと片道1000円の特急券と駅弁を買い旅行気分を味わう事にした。
私が住んでいる駅から職場までは片道2時間かかる。なぜこんなに時間をかけて通勤しているのかいつも疑問でならなかったが、自分で選んだ仕事だし、給料も悪くないからお陰様で通勤に特急が使えて優越に浸れるからいい。と思う事にしている。
私は観光地に住んでいる。観光地と言っても城があるだけで、それに肖った寂れた商店街と土産屋、商業施設がある程度の中途半端な所だ。
でもそれが好きだった。観光地に住んでいる人なら分かると思うが、どこかお店に入ろうものなら軒並み観光地価格で馬鹿みたいな価格設定。そんな店で燥いで買い物をして金を落とす観光客を嘲笑の目で見るのが好きで、全国から人が集まるせいかひらけて感じるが、どこか閉鎖的な地域の繋がりを感じる独特の雰囲気が好きだった。
この場所に定着し始めたのは、私は料理人で某有名ホテルのコミ(下っ端のコック)として就職したところからだ。
自分で言うのもあれだが東京生まれ東京育ちの生粋のシティーボーイの私にとっては、正直全く乗り気ではなかった。観光地なんて正直言って田舎だし、2、3日遊ぶなら良いだろうが、住むなんて、ましてや仕事をするなんて信じたくもなかった。
そんな環境に定着するなんて理由があるに決まっている。私はそこでかけがえのないものを見つけた。
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