第22話 何かいるな……イモ。中に入らず、ちょっと待ってくれ

ネズミ獣が消えた後の地面には、魔石の他に赤黒い物体が散らばっていた。これはネズミ獣のドロップ品、ネズミ肉だな。


「お? おにいちゃん。見て見て!」


地面からキラキラ光る物体を拾い上げたイモが、俺の元へ差し出した。


「なんだ? これもネズミ獣の肉か?」


キラキラ黄金に輝く肉。ということは、今の集団にレアモンスター。黄金ネズミ獣が混じっていたか。


レアモンスターは得られる経験値が格段に多い。


──────

■Dジョブ:暗黒魔導士(SSR) LV10(↑3UP)

・スキル :暗黒の霧:暗黒の霧(五感異常、攻撃減少、防御減少、敏捷減少、魔攻減少、魔防減少)

・スキル:暗黒抵抗

・スキル:暗黒強化(New):暗黒スキルの威力上昇。

・EXS:プリンボディ

──────


結果。俺のLVは3上がり、一気にLV10の大台。

ベテラン探索者として新たなスキル暗黒強化を習得した。


しかし……攻略読本にはレアモンスターとの遭遇は非常に稀であると書かれているが……


自宅ダンジョンでの遭遇はこれで2回。いや、イモの最初の撃破を合わせると3回目となる。


……あきらかに運が良すぎる。

ただの運なのか? 何か原因があるのか?

考えても分からない上に、運が良いに越したことはない。


「それで、このお肉どーするの? いっぱい落ちてるよ?」


■ネズミ肉:あまり美味しくない。


攻略読本によれば食べるのに問題はないようだが……進んで食べようとは思わない。


「黄金ネズミ肉だけ持って帰ろう。後は放置で」


「えー。もったいないお化けが出るよー?」


確かに食べられるお肉を拾わず行くのはいささか心は痛むが……

現実問題、肉は重くかさばる。俺の背負うリュックの容量。この先の探索を考えれば持ち運ぶのは無理である。


「そっかー。しかたないか」


ネズミ肉を入れては俺のリュックが臭くなりそうというのは副次的理由にすぎない。


その後、分かれ道を曲がったり直進したりした俺たちは、小さな部屋の入口に辿り着いた。


天井が薄く光り灯りに不自由はないはずのダンジョンだが、見える室内の天井は暗い。


ガサガサ


暗闇の室内から音がする。


「何かいるな……イモ。中に入らず、ちょっと待ってくれ」


「はーい。イモ。いつでも電撃いけるからねー」


明らかに怪しくモンスターが潜んでいると思われる室内。無闇に突入する愚はおかさない。


「発動。暗黒の霧」


突き出す右手の平から闇黒の霧を放出する。

勢いよく室内に流れ込んだ暗黒霧は、みるみる室内一杯にまで広がって行った。


室内に隠れ潜んでいるなら、室内丸ごと暗黒の霧で満たしてしまえば良いというわけで。まずは先制のデバフで戦闘力を低下させる。突入するのは、その後だ。


「げっ?!」


暗黒の霧の扱いに慣れてきたのか、俺は闇黒の霧が触れた存在をぼんやり感知できるようになっていた。


暗黒の霧に感じる生体反応。その数……50を超える無数。しかも、この形。この大きさ……この小部屋はゴキブリ獣の巣!


「イ、イモ! 室内にありったけの電撃を頼む! 相手は50以上のゴキだ!」


「おー。いっぱい? そういうことならー」


イモは左右の両腕を突き出すと。


「ダブル連鎖電撃!」


バリバリバリー


イモの左右の指先から室内に2条の光が走る。壁面に着弾した電撃が無数に拡散。室内の壁、天井を走り抜けていった。


げっ……電撃の光で明るく照らし出される室内の様子。

その壁や天井、全てに真っ黒な物体が張り付いていた。


この部屋だけ天井が薄暗いのは、これが原因か。


室内を荒れ狂う電撃が治まったあと。天井の明かりに照らされた床には、無数の魔石と怪しい肉が残されていた。


■ゴキブリ肉:毒はない。それ以外はノーコメント。


これは……今流行の昆虫食というやつか? だとしても100パーセント攻略読本だというのに味について記載がないのはどういうわけか? 編集者ならしっかり食べて判定して欲しいものである。


「おおう。おにいちゃん。またピカピカ発見だよ!」


室内を見て回るイモは、金色に輝く魔石と板のような物を持っていた。


あれは前回も拾ったG鋼板。しかも金色ということは、うじゃうじゃ居た中に黄金ゴキブリ獣が混じっていたわけだ。


「とりあえず入れるねー」


イモは俺のリュックに黄金G鋼板を詰めこんだ。


キモイ。やめてほしいがレアモンスターのドロップ品。まさか捨てるという選択肢はありえず、これが肉でなくて良かったというべきか……


「おにいちゃん。それでこの落ちてるお肉はどうするのー?」


どうもするはずがない。無視である。


──────

■Dジョブ:暗黒魔導士(SSR) LV13(↑3UP)

・スキル :暗黒の霧:暗黒の霧(五感異常、攻撃防御敏捷魔攻魔防減少、毒、腐食、恐怖)


・スキル:暗黒抵抗

・スキル:暗黒強化

・EXS:プリンボディ

──────


やばいことに俺のLVが上がりまくっている。

ダンジョンに入り始めてまだ3日。これは最速LVアップの新記録ではないだろうか? 公表するつもりはないが。


LVアップによって暗黒の霧のデバフ効果はさらに増加。ついには時間経過で相手のHPを削るスリップダメージまで有するようになっていた。


毒 (New)時間経過によりHPが減少する

腐食(New)時間経過により装備耐久が減少する

恐怖(New)怯えすくみ行動できなくなる


暗黒魔導士は能力低下と状態異常。2種のデバフをあわせもつというが……こういうことか。


そしてジョブLVの上昇にあわせて俺の身体能力も強化される。後衛魔法系ジョブが主に伸びるのは魔法関係の能力だが、肉体頑強度、いわゆるHPなども増加していく。


そのおかげか、以前ゴキブリ獣に噛まれて痛みの続く俺の左腕は、いつの間にか痛みのなくなるまでに回復していた。


「なにこれー? おにいちゃん。これなに?」


イモの声に見て見れば……

なぜ小部屋にこれほど大量のゴキブリ獣が発生したか? その原因たる存在が室内中央に浮かんでいた。


漆黒の風が渦巻く小さな竜巻。モンスターゲート。


「イモは見るのは初めてか。これがモンスターゲート。ここからモンスターが出てくるんだぞ?」


「へー。これ。イモが中に入るとどうなるの?」


モンスターが無限にあふれ出るモンスターゲート。

おそらくはモンスターが溢れる異世界につながるワープホールではないか? そのような仮説が有力であるが──


「分からない。だが、絶対に入らないように。ふりじゃないぞ? 絶対だからな?」


仮説を実証しようとモンスターゲートに送り込んだ探査機械。さらには無謀にも実際に入って行った研究者も。そのどれもがゲートから帰って来なかったという。


「うー。怖い。分かったよ」


「よし。それじゃ今日はこれで戻るか」

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