3章。品川ダンジョン。

第18話 探索者間のトラブルはご法度である。

掲示板 【ダンジョン】探索者初心者スレpart220


102:名無しの探索者さん

はえーやっとLV2なったわ


103:名無しの探索者さん

おめ! はよLV5なって初心者脱出したいね


104:名無しの探索者さん

もう養殖場でスライム獣つんつんするの飽きた……


105:名無しの探索者さん

LV2あれば狩場行けるだろ

養殖場なんてジョブ取ったら行く必要ないぞ


106:名無しの探索者さん

えー? 俺さあLV11あるんやけど?

これって高いの? きょとん


107:名無しの探索者さん

>>106

LV11って初心者ちゃうやん

スレタイ読めよw


108:名無しの探索者さん

>>107

えー? だって俺まだダンジョン入って1日やから初心者やん? LV11やけどwww


110:名無しの探索者さん

すみません質問いいですか?

俺は明日初めてダンジョン1階の狩場行こうと思うのですが

狩場での注意点とかありますか?


111:名無しの探索者さん

狩場っても地下1階なら何とでもなるよ

危なければ回りの人が助けてくれるし


112:名無しの探索者さん

狩場の獲物は早いもの勝ちだから

クロスボウか何か飛び道具があれば便利だよ


113:名無しの探索者さん

混雑してても他人の獲物の横取りだけはやめとけよ?

もめてもろくなことならん


114:名無しの探索者さん

横取りって何やねんw

ダンジョンは弱肉強食や

取られるほうが悪いやろアホらし


115:名無しの探索者さん

さっきから1人うざい荒らしがいるなあ


116:名無しの探索者さん

どうせどっかのボンボンでしょ

パーティに寄生してLV上げただけのカスがえらそうに


117:名無しの探索者さん

は? 自分で倒してLV上げたってのwww

しょーもないイチャモンやめろや


118:名無しの探索者さん

みなさんありがとうございます

お金がなくてクロスボウは無理ですが何か考えてみます


119:名無しの探索者さん

お金がなくてww

お前もう探索者降りろ


120:名無しの探索者さん

>>106>>108>>114>>117>>119

お前同じやつだろ? 荒らしは帰れカスが


121:名無しの探索者さん

探索者年齢が引き下げられたし

これからはこんな荒らしが増えるだろ



月曜日。1週間の始まりである。

玄関で待ち合わせた後、俺は高校へ。イモは中学へ。途中まで一緒に通学する。


「おにいちゃん。今日は品川ダンジョンに行くの?」


「ああ。帰りは遅くなるから先に食べて良いぞ」


「あーい。なんか狩場ではクロスボウが便利らしいよ。それと横取り? それが駄目らしいよー?」


「ん? イモ詳しいな。だが心配は不要だ。お兄ちゃんは100パーセント攻略読本で予習済み。任せておけ」


加えて念のため掲示板でも情報を集めてある。妙な荒らしに煽られはしたが、まあ所詮は掲示板の落書き。気にしても仕方がないというわけで……


授業も終わり放課後。帰宅部である俺は電車に乗り、品川ダンジョンへ向かう。


品川駅を降りてダンジョン入口のロビーへ。すでに初回登録は済ませているため受付に立ち寄る必要はない。カードをタッチしてゲートを通り抜けた俺は地下1階へと降りた。


学校帰りということもあってバットはないが、俺のLVは6あるのだから何とでもなるだろう。リュックから包丁だけを取り出し俺はダンジョン奥へと進んでいく。


すでにジョブを獲得した今、モンスター養殖場に用はない。


モンスター養殖場の入口を通り過ぎ、さらにダンジョンの奥。看板の案内に従いドアを開け入った先。


大きな広間に渦巻く2つのモンスターゲート。そして、その周囲に集まる多くの探索者の姿が見えた。


ここがモンスター狩場。


品川ダンジョン地下2階までのモンスターゲートは、全てダンジョン協会が制圧済みである。


しかし、モンスターゲートの全てを檻で封鎖したのでは、探索者が実戦を経験する場が、魔石を得る場が存在しなくなる。


そのため、あえて探索者相手にモンスターゲートを開放しているのが、ここモンスター狩場。ゲートからモンスターが現れるたび、探索者が我先に駆け寄り退治する。


攻略読本にも公共ダンジョン地下1階の狩場は混雑すると書かれていたが……ざっと見たところ狩場の探索者は30人を超える数。なかなかの繁盛ぶりである。


俺は狩場の空いている場所に陣取ると、包丁を構えモンスターの出現に備える。


そうこうするうち2つのモンスターゲートからポヨーンと飛び出したのは合計12匹のスライム獣。


しめた! 雑魚である。


暗黒魔導士は肉体能力に劣るとあるが、スライム獣ごとき包丁1本あれば十分。近くで跳ね飛ぶスライム獣へ包丁片手に駆け寄る俺の目の前で。


グサリ。スライム獣にボルトが突き刺さる。


基本的にモンスターは自分を攻撃した相手を狙うもの。ゲーム脳でいうならヘイトシステム。


ボルトを受けたスライム獣は俺を無視して、クロスボウを放った男の元へ跳ね飛んで行ってしまった。


「悪い悪い。でも早い者勝ちだからさあ」


無念ではあるが、クロスボウ男の言うとおり。


一見、無秩序に見えるモンスター狩場だが、探索者の間には暗黙のルールが存在する。それは最初にモンスターにダメージを与えた者が討伐の権利を得るということ。


クロスボウから警棒に持ち替えた男がスライム獣と戦う姿を見ながら、俺は元いた位置へすごすご退散する。


あくまで探索者間での暗黙のルールであるが……守らなければ自分が不利となる。


なぜならダンジョンにおける絶対のルール。探索者間のトラブルはご法度である。に反する行為となるからだ。


ダンジョンは命を賭けた戦場。1つのミスが生死を分けるだけに、狩場にトラブルを起こす者がいたのでは探索者全員が危険にさらされる。


そのためトラブルメーカーであると告発されたなら、ダンジョン協会の調査が入ることとなる。ダンジョン各所の監視カメラや探索者への聞き取り調査の結果、真にトラブルメーカーであると判定されたなら、探索者証を剥奪された上、刑事罰に問われることもあるという。


しかし……周りを見ればクロスボウや弓矢を構える者。ナイフや鉄球を投げる者。掲示板でも話にあったとおり、多くの探索者が遠距離から攻撃できる手段を備えていた。


対する俺の武器は右手の包丁1本のみ。

獲物は早い者勝ちとなれば、遠距離から攻撃できる者が有利となるのは自明の理。俺の不利は否めない。


そんな探索者のなかでも注目すべき者が1人。


ボカーン。


ゲートを飛び出るスライム獣に炎の矢が命中。その1撃でモンスターは煙となり消えていく。


あれは攻略読本にある攻撃魔法。ファイア・アローか。


攻撃魔法を操るジョブとなれば、Rの魔法使いかSRの黒魔法使い。SSRの黒魔導士などあるが……


いずれにしてもR以上の希少なジョブを持つ探索者。


「おめーすげーな。俺とパーティ組まね?」

「いやいや。ワイとパーティを組むべきぞ」

「うーん。パーティか。どうすっぺかな」


魔法に目を止めたのは俺だけではないようで、周囲の探索者が集まりパーティ勧誘がはじまっていた。


ま、俺には関係のない話。攻撃魔法使いが美少女であるならともかく、ただの少年では興味はない。


俺の興味は魔法で狩りをするという、その狩りの手段にあった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る