第6話 これは探索者協会はボロ儲けである。
そうこうするうち、モンスターゲートから次のモンスターが現れた。
「おっ!? これはお前ら新人では厳しいな……ちょっと下がっていろ」
新しく現れたのは、体長1メートル50はあるイモ虫に似たモンスター。
100パーセント攻略読本によれば、名称はイモ虫獣。弾力ある表皮は打撃と電撃に強く、吐き出す液体は強酸性の効力を持つとある。
檻から離れる俺を目がけて、イモ虫獣の口から強酸が吐き出される。
「うおっ?!」
幸い距離があったため、あえなく目の前の床に落ちる強酸。ブシューと音を立て床から煙を発していた。
現れるモンスターによっては、檻の中といっても油断はできないか……
「よし。離れたな。それじゃ」
ポチリ。職員が壁のボタンを押すと、壁面に設置されたロボットアームが動き出す。照射されるレーザーサイトがイモ虫獣を捉えると、アーム先端のクロスボウから一斉にボルトが射出された。
ドスッ ドスッ ドスッ
「ブギョー」
ボルトが貫通したイモ虫獣は奇妙な悲鳴を上げ、その身体を消滅させていく。
打ち終えたクロスボウには新たなボルトが装填され、落ちた魔石とボルトはバキュームポンプが回収する。
……なるほど。養殖するべき魔物は自動で沸き出るわけで……これは探索者協会はボロ儲けである。
「いやいや。維持するのが大変なんだぜ。さっきのイモ虫獣を見たろ? あいつら酸で檻を壊しやがるしよ」
確かにあの酸は危険であった。
「それでも1階はまだ良いけどよ? 2階とかもう、イノシシ獣とかウシ獣とかさあ。あいつら力あるからすぐに檻が壊されるんだぜ?」
それでも地下2階までは養殖場を完備しているというが、地下3階。モンスターの抵抗の激しさに養殖場の建設は難航しているという。
「まあそれでもダンジョンさまさまってやつよ。ほら。次が出て来るぞ」
続いてモンスターゲートから飛び出したのは、ネズミ獣。
戦闘力としては普通のネズミと変わらない。唯一変わるのは、人肉を主食とする点のみである。
「あの……こいつら檻から出てきているのですが?」
現れたネズミ獣は10匹。その小さな身体を生かして檻の隙間をすり抜けると、俺の身体に飛びついていた。
「デカブツを逃がさないためには檻の強度が大事だからな。そのぶん小物が逃げるのは仕方ないだろ?」
なるほど。言わんとすることは分かるが……ジョブを持たない素人にはネズミ獣であっても強敵。
俺は首筋目がけて飛びつくネズミ獣の前に右腕を差し込み必死に身を守る。小さなネズミとはいえ、頸動脈をかみ切られようものなら普通に死ぬ。
ガブリ。
痛い。なんとか首は守ったが、俺は右腕に噛みつかれていた。
「ふんぬ」
右腕を思い切り振り回し、噛みついたネズミ獣を地面に叩きつける。
ガブリ。ガブリ。痛い。
足に噛みついた2匹のネズミ獣を殴りつけ、叩き落として踏みつけ蹴とばし包丁槍で突き殺す。
「ぜーぜー……」
モンスター養殖場……危険すぎるだろう。
どこがリスクなしなのか? 危うくネズミ獣に殺されるところだったではないか。
「おいおい。こんな雑魚に苦労してるようじゃ、ジョブを得たとしてもダンジョンじゃやっていけないぜ?」
ナイフを構える職員の足元には、血を流した4匹のネズミ獣が転がり落ちていた。
なるほど……ナイフか。
俺が準備した武器はバットに包丁を括り付けたお手製の包丁槍。リーチがある分、ネズミ獣のような小型モンスターに懐に入り込まれては対処に困るという。
そのため、攻略読本にもナイフを1本持ち込むよう書かれていたが……我が家にこれ以上に持ちだせる包丁は存在しない。
「怪我したか? お前は今日はここまでにしておけ」
ネズミ獣に咬まれた右腕と右足と左足が痛い。服の上からとはいえ、咬まれた場所はうっすら血が滲んていた。
それでも、今日の俺の目的はジョブを獲得すること。
室内では他の探索者が無難にネズミ獣を仕留めているなか、探索者試験100点満点の俺が何の収穫もなく帰るわけにはいかない。
「駄目だ。俺たち職員には探索者の安全を守る義務がある。これ以上の続行は許可できない。帰れ」
無念……俺はモンスター養殖場を追い出されてしまった。
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