第5話 【モンスター養殖場】

【モンスター養殖場】


広い室内には、俺の他に4人の探索者。

そして、室内中央に縦横5メートルほどの鋼鉄製の檻が設置されていた。


照明が設置され明かるい室内にもかかわらず、檻内には漆黒の空気が渦巻く。


突如、檻内の漆黒のうずに光が走る。

同時。渦内から5体のモンスターが飛び出した。


体長1メートルほどのアメーバーにも似たモンスター。100パーセント攻略読本の知識によれば、こいつはスライム獣。


ゲル状の身体で対象を包み込み捕食する。最も弱いであろうモンスターと書かれているが……


ベテラン探索者ならともかく、初心者が5体のスライム獣を相手取っては無傷ですまない。


室内に人の姿を見たスライム獣。

さっそく消化するべく飛びつくが──


ボヨーン ガキーン


スライム獣の現れた場所は、鋼鉄の檻の中。

あえなく鋼鉄の檻に跳ね返され、床に崩れ落ちていた。


「お、スライム獣とはラッキーだな。やつら檻の中じゃ何もできねーからな。さっそく処理してみな」


室内。壁際に待機していた職員がアドバイスする。

ならばと俺は右手のバットを両手で握り、先端の包丁を檻へと差し込んだ。


ズブリ。スライム獣の身体に包丁が突き刺さる。


初めて退治するのがスライム獣というのは確かにラッキーである。相手が謎生物なら突き刺すにも気楽で良い。罪悪感を抱かず、殺れるというものだから。


グルリ。突き刺した包丁を更に奥へとねじり込む。

ブシャアッ。音と共にスライム獣の身体が破裂した。


コロンと澄んだ音を立て魔石が転がり落ちるのを余所に、俺は続けてもう1匹のスライム獣を始末する。


「ひゅー! いいねえ。迷わず2匹。いや、普通なかなかやれないもんよ。モンスターとはいえ生き物を殺すってね」


当然。俺はダンジョン探索者試験100点満点の城 弾正じょう だんじょう。まあ、モンスター養殖場の設備のおかげではあるが……


地に落ち破裂したスライム獣は紫の煙と変わり、俺の身体にまとわり吸い込まれていく。


つっ! これがモンスターを倒して得られる魔力……慣れないうちは苦しいと聞くが……確かに。だが……これでダンジョンジョブが手に入るなら。



3年前。ダンジョンにおける人類とモンスターの初遭遇。死したモンスターを溢れる紫煙しえん。魔力を吸収したその時から、人類は新たな進化へ足を踏み出した。


モンスターの魔力を吸収することで腕力が向上した者、動体視力が向上した者などのほか、炎を生み出す者。風を巻き起こす者など。従来の常識では考えられない超常現象。いわゆる魔法を使える者まで現れた。


これらモンスターを倒して得られる能力は人によって異なり、得られる能力を称してダンジョンにおける職業ジョブダンジョンジョブと呼んだ。


まあ、長いので一般的にはディージョブ、もしくは単にジョブとだけ呼ばれることが多いが……


紫煙の魔力は全て俺の身体に消えていく。


ジョブを獲得した瞬間。【戦士】【魔法使い】【市民】といった自分のジョブ名。その能力を本能で理解できるというが……俺の身体に変化はなし。か。


「やったっす! おいらDジョブを手にいれたっす!」


「おう。やったな。おめでとう!」


俺と同じく室内でモンスターを相手取る探索者の1人が喜び跳ねていた。


おのれ……


100パーセント攻略読本によれば、ジョブを得るにはある程度の数のモンスターを退治。その魔力を取り込む必要があるという。


獲得したジョブは魔力を取り込むことでLVアップ。それぞれ戦士であれば筋力増加、魔法使いであれば炎の弾を生み出すファイアボールを習得するなど、ジョブに応じた成長をするという。


よって、ダンジョン探索にジョブは必須。本格的な探索は、必ずジョブを獲得してから行うよう書かれていた。


しかし、ジョブを得るにもモンスターを多数退治する必要があるわけで……当初はジョブの獲得前に死傷する者が多発したという。


その対策として作られた施設が、ここモンスター養殖場である。


ダンジョンを徘徊するモンスターは一体どこから現れるのか?

ダンジョン黎明期になされた議論であるが、その答えは簡単。


ダンジョンに存在する黒い渦。

その渦の中からモンスターが現れるのを目撃することで解決した。


以降、モンスターの現れる黒い渦をモンスターゲートと呼称。モンスターゲートを鋼鉄の檻で囲い込むことで、モンスターは檻に捕らわれた状態となって現れる。


後は簡単。檻に囚われたモンスターを殺すだけである。


「しねー!」


ズブリ。ブシュー。


俺は再び現れたスライム獣に包丁槍を突き刺し始末する。


チャリ-ン


地面に転がり落ちる魔石。


「知ってるだろうが、この養殖場の魔石は持ち帰り禁止だからな?」


職員のボタン操作によって、床に引かれたバキュームポンプが散らばる魔石を吸い込み、壁際のボックスへ収納する。


なるほど。なかなかによくできた養殖場である。


探索者はギフトを得ると同時にモンスター相手の実戦をリスクなく経験。探索協会は労なく魔石を回収できるというわけだ。

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