第2話 晴れて俺は今日からダンジョン探索者となったのだ。
ひととおり「必勝! ダンジョン探索資格。100パーセント合格読本」を読み終えた今日。ダンジョンン探索資格習得に向けた筆記試験の当日である。
「行って来る」
「おにいちゃん。いってらっしゃーい」
イモに見送られたどり着いた繁華街のビル。その一室が今日の試験会場である。
ガチャリ
受付を終えて入る室内。ズラリと席に座るのは、おっさん、少年、おっさん、少年、少女。
過半数である少年少女のうち大半は、髪を染め鼻にピアスをしたヤバそうな連中。
なるほど。社会に居場所のない東横キッズにとってダンジョンは一発逆転絶好の機会。社会への不満を拳に乗せてモンスターにぶつけるだけでお金を稼げ、自分の居場所も確保出来るのだから挑戦しない手はない。
最悪、モンスターに殺されたとしても自己責任。日本社会へのダメージはないのだから誰にとっても損はないこの施策。現在16歳までと引き下げられたダンジョン探索資格だが、近いうちさらに年齢が引き下げられても不思議はない。
残る半数のおっさんたちはAIの進化によって職を失った者たち。人手があぶれるとなれば、年をとった中高年の首が切られるのは仕方がない。
そのような東横キッズやおっさん連中でも合格できるのがダンジョン探索資格。
「はい。試験終了です。みなさん自分の名前はきちんと書きましたね? もう1度確認してくださいよ? 名前が書けていないと失格ですからね? いいですね?」
参考書など必要なく、名前さえ書けば合格できるのが実情というわけで……わざわざ通販で参考書を買った俺の努力は何だったのか?
無駄に勉強を頑張った俺の自己採点は100点満点。合格間違いなしの手応えとともに俺は試験会場を後にした。
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ピンポーン
「ちーっす。郵便っす」
「どうも。ご苦労さまです」
ようやく届いた書面には大きく合格の2文字。晴れて俺は今日からダンジョン探索者となったのだ。
「おにいちゃん……合格したんだ?」
「やれやれ……少し本気を出してしまったかな?」
実際のところ日本国籍があり、名前が書けるならほぼ合格できるという話であったが……
「おー。すごいすごいすごーい!」
わざわざイモに教えることもない。人間、褒められて悪い気はしないものだからして、イモには黙って俺を褒めるマシーンになってもらうとしよう。
イモが万歳三唱する横で、俺は封筒からプラスチックのカードを取り出した。見た目は交通系カードやクレジットカードにそっくりである。
「なにそれ?」
「これが探索者の証。探索者カードだ」
表面には俺の名前。
「へー。でもダンジョンランクって何も書いてないね?」
ダンジョンランクは、ダンジョンで稼いだ金額により決定される探索者の世界ランキング。当然、探索者になりたての俺は1円も稼いでいないのだからランキングの表示はない。
「なんだー」
イモが残念がるのも無理はない。俺のテスト結果。おそらくだが100点満点のパーフェクト解答。特別にランキング100位あたりからスタートしても良いものを……ダンジョン協会とやらも頭の固い連中である。
「でも、おにいちゃん。本当にダンジョンに行くの? 危なくないかなー?」
「ふっ。イモよ。お兄ちゃんを甘く見てもらっては困るぞ?」
俺は試験帰りに本屋で購入した1冊の本をイモに突きつける。
「何これ? 必勝! はじめてのダンジョン探索。100パーセント攻略読本?」
100パーセント攻略読本シリーズ第2弾。
ダンジョン探索の事前準備から、低階層に現れるモンスターの特徴、実際の立ち回りなどが記された貴重な攻略本である。
「うーん。本当にこんな本で大丈夫なのかなー?」
「大丈夫。まれに誤植があるだけだ」
「それって駄目じゃないかなー……?」
間違いなど誰にもあることだからして、細かいことを気にしてはいけないのである。
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土曜日。学校も休日とあっていよいよ今日が記念すべきダンジョンデビューの日である。
「行ってくる」
「おにいちゃん。帰りが遅い時はダンジョン遭難申請するからね」
「いやいや。それは止めてくれ」
申請するだけで100万円。加えて探索経費が丸ごと要求されるのだ。お金を稼ぎに行って、逆に借金を増やしては本末転倒である。
「だって戻らないとお母さん心配するよー? お母さんに言ってもいい?」
それは困る。何せ俺が探索者になったことは母に内緒である。
仮にも死傷者数ナンバー1の職業。いくら一攫千金とはいえ、危険な職業には反対するだろう。心配をかけるのは間違いないうえ、下手すれば自分の稼ぎが足りないのが原因と考え、エロエロ勤務まっしぐら。無理せず早めに戻るとしよう。
「いってらっしゃーい。お土産忘れないでねー」
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