驚愕の自宅ダンジョン。いきなりチート暗黒魔導士デバフ無双で貧乏兄妹もふもふ暮らし。

１章。Dジョブ。迷宮職業。ダンジョンジョブ。

第1話 ダンジョンランカーになれば億万長者だからな。

俺の名前は、城　弾正（じょう　だんじょう）。

１７歳の高校２年生。

今。俺はお金に困っている。

我が家は母に妹の３人家族。児童手当があるとはいえ来年には妹が高校生。その翌年には俺が大学に進学するとなれば……

デパートで働く母の稼ぎ。１家３人を養うには、決して多いとはいえない。

まだ時間があるとはいえ、入学にはまとまった資金が必要。制服代や教科書代。授業料など出費はかさむ一方である。

政府の実施する少子化対策はどうなったのか？　などと愚痴っていても始まらない。俺は授業の終了後、放課後はコンビニでアルバイトをしているのだが……もっと稼げるアルバイトが必要。

なぜならば──

日ごろの疲れからかリビングで眠る母。ジャケットがしわになってはマズイとハンガーにかけようと脱がせる際、ポケットからすべり落ちる１枚の明細書。

【消費者金融ボッタム：返済残高：３００万円】

学費どころの問題ではない。俺は我が家の借金を知ってしまったからだ。

そして、明細書と一緒にあった１枚の名刺。

【エロエロ映像企画：スカウト部長：絵呂井】

いってはなんだが母は美人である。スカウトした奴はなかなかに見る目があるといえるだろう。

などと呑気を言っている場合ではない。幸いにもまだ出演したわけではないようだが、このまま放置したのでは借金返済のためエロエロ映像出演を決断しかねない。

それはマズイ。

いや。もちろんエロエロ産業は大事であるが、だからといって自分の母が出演するとなれば話は別。何とか阻止したいところであるが……我が家にお金が必要なのも確かな事実。いくら理想を語ろうがお金がないことには何も始まらない。

……要はだ。お金があれば全て解決。そういうことである。

しかし……学生である俺に、今以上に稼げるアルバイトがあるのだろうか？

あるのである。

──とある雑誌に掲載された記事。

特集！　ダンジョンランカー来栖（くるす）くん。その素顔にせまる。

１面に写る少年は、俺より少し年上となる２０歳の大学生。

にもかかわらず、その年収たるや億を超えるという。

いったいダンジョンランカーとは何なのか？

それはダンジョンを探索、攻略する者たち。

そのランキング上位の者を指す言葉である。

そして、ダンジョンとは何なのか？

３年前。突如、世界各地の地下に出現した未知の遺跡。

内部は未知の生命体。モンスターが生息する危険地帯。

当初は軍隊により封鎖されていたものの、モンスターの死体から回収される宝石。魔石がエネルギーの塊であることが判明。状況は一変する。

環境に優しい２１世紀のエネルギーとして米国主導の下、国際機関である世界ダンジョン協会が発足。

ダンジョン協会の発行する探索者ライセンスを取得した者は、民間人であってもダンジョン探索が可能になるとあって、オイルマネーならぬ魔石マネー。世界中、一攫千金を目指したダンジョン探索ブームが到来していた。

当然、日本も世界ダンジョン協会の加盟国。探索者ライセンスを取得した満１８歳以上の者は、ダンダジョン探索が可能となっていた。

そしてつい先日。今年の春からダンジョンへ入場可能となる年齢が、満１５歳以上と引き下げが行われていた。しかも未成年であっても探索者となるに親の同意すら必要ないという。

それだけダンジョン資源の有用性が高まっているのか？

それとも国として探索者を増やしたい理由があるのか？

単純に東横キッズをダンジョンに放り込みたいだけなのか？

理由は不明なれど政府もたまには良いことをするもの。すでに１７歳である俺は探索者ライセンスを取得できる年齢。となればダンジョンを探索するしかないのである。

後はモンスターを退治して、魔石を集めて売りさばく。ただそれだけで我が家の借金は完済。学費で悩むこともなくなり、母もエロエロ勤務の必要がなくなる。まさに良いことずくめ。完全無欠にパーフェクトな人生計画の完成である。

そうと決まれば俺はダンジョンについて記した参考書を通信販売で注文する。

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ピンポーン

「ちーっす。宅配っす」

「どうも。ご苦労さまです」

ようやく届いたか。

「おにいちゃん。通販で何を買ったの？　食べ物？　食べ物だよねっ！　イモにもちょうだい！」

小包を手にリビングに戻る俺を目ざとく見つけるのは、俺の妹でその名もズバリ、城 妹子（じょう　いもこ）。１４才の中学３年生。

名付けたのは今は亡きクソ親父。

いや、実のところ亡くなったかどうかは分からないが……あの野郎。とんでもないクソ親父であった。

遣隋使で有名な小野妹子（おののいもこ）と同じ名前とはいえ、クソ親父にそんな殊勝な考えがあるはずもない。単に妹だから妹子。そう名付けたに決まっている上、そもそもが小野妹子は男性である。

幸いにもイモという響きが可愛いと本人は気に入っているようであり結果オーライなのが幸いであるが……あの野郎。とんでもないクソ親父であった。

働きもしないで酒に酔って暴力を振るうのが日常茶飯事。そう考えれば我が家の借金にも納得はいく。あれは間違いなくクソ親父が残した借金。いったいぜんたい母はどうしてあのようなクソ親父と結婚したのか……

そんなクソ親父だが、１年前に忽然とその姿を消していた。

酔って川にでも落ちたのかと消防団による捜索が行われるも、行方は分からないまま現在にいたっている。

薄情なようだが、このまま見つからない方が良い。姿を消したままの方が、俺とイモにとっては幸せというものである。

「イモか。残念だが食べ物じゃないぞ。見て見ろ」

小包を解いた中から現れたのは１冊の本。

必勝！　ダンジョン探索者ライセンス１００パーセント合格読本。こいつを読むだけで筆記試験に合格できるという必勝本。

「えー！？　おにいちゃん。ダンジョン探索者になるの？」

「ああ。ダンジョンランカーになれば億万長者だからな」

そう言って、俺はダンジョンランカー来栖くんが特集された雑誌を叩いてみせる。

「えー？　だって……危ないし無理じゃない？」

「いったい何が無理なのか？」

いっちょ前に雑誌の表紙を飾ってはいるが、奴とて俺と同じ学生。まあ、高校生と大学生の違いはあるが、奴に可能であるなら俺にも可能なはずである。

「そうなのかなー？」

そうなのである。

「というわけで今から勉強する。イモ。邪魔するなよ？」

「はーい。億万長者になったら、イモにたくさんお菓子を買ってね！」

兄として妹の前で弱みは見せられない。イモにはああ言ったが、実際はそんな単純なものではない。

一攫千金が狙えるとあって、多くの者がダンジョンに殺到した結果。今や日本の死傷者数トップとなるのがダンジョン探索者。現在の日本で一番危険な仕事といって良いだろう。

そのため世間ではダンジョンは危険であると。政府は無知な国民を騙して使い捨てる人殺し政権だと、ダンジョン閉鎖を訴える抗議デモが行われていると聞くが……冗談ではない。

ダンジョンが閉鎖されたのでは借金は返済できず、我が家はエロエロ落ちか首を吊るかの二者択一。であれば家族のため、兄としてやらねばならない時がある。

誰しも危険は承知の上でダンジョンに入るのだから、弱者に残された一攫千金のジャパンドリーム。無関係な人間は口を挟まないでもらいたい。