第5話
夜が明け日が昇る。俺とミーラは別々の部屋で寝た。今日は俺もまだ行っていない駐屯地を見に行き、その後村へ向かうそういう予定だ。
「おはようございます。」
「おはよう。」
後ろからの不意の挨拶に驚く。彼女はミーラ。白のセミロングの髪が光の反射で昨日よりも眩しく見える。彼女が着ている服は昨日から変わってコンクリート色の迷彩服だ。同じく俺の今着ている服も灰色の迷彩服。ここが空軍基地だからグレーの迷彩服しか見当たらなかった他の基地には青や緑の物があるはずだ。
「朝ご飯は何を作りましょうか?」
「いや、食べ慣れた缶詰にしよう。」
戦闘糧食は美味しい。異論は認めない。もうあの調味料だけを食べているような料理には気をつけよう。しかし俺も共犯とはいえどうやったらあんな料理が作れるんだ……。何か解決策を考えないと。
「そうですか、分かりました。」
ミーラは分かってくれた。彼女の表情は全く分かっていなさそうだがとにかく理解してくれた。
時間は更に過ぎて駐屯地へハンヴィーと共に行く。夜では見えなかった景色も見えて彼女は驚きの連続の最中にいる。ここは緯度が低いのか暑い。砂浜沿いの道を走ると海風が窓から心地よく吹いてくる。風を切っていると駐屯地の門が前方に見えてきた。
「これが駐屯地というものですか?。」
「そうここは平時のときの陸軍の拠点。それが駐屯地。」
「?よく分からないですけどここに村のみんなを救う武器があるのですか。」
彼女の頭がオーバーヒートしてしまった。彼女が知るはずの無い知識だから仕方が無い。まぁミーラには言わなくていいだろう。ミーラはめまぐるしく変わる環境についていけていない。一体いつ慣れるだろう?案外三日も経てば慣れる気もする。
「あるよ。一緒に探してほしい。この前見せたAk-47と同じだから頑張ろう。」
俺と彼女は突撃銃がどこにあるか探す。その途中にこんな物も見つけた。黒光りする砲身。地面につけられたサークル状の支持板。L16 81mm迫撃砲である。これで軽く何百万円と飛んでいくのが兵器の恐ろしいところだ。
「haくゲきホう、ですか。発音が難しいです。」
「迫撃砲。みたいな発音かな。どう?」
「はくげきほう。こうですか。」
たどたどしい彼女の発音。こんなくだらない事でも話せる相手がいるのは良い事だ。本当に嬉しい。
「……。もうそんなに笑わないで下さい。」
「違うって、そこを笑った訳ではないから。」
「ではどこを笑ったんですか?」
「いや、一緒にいて楽しいなって。」
…………彼女は黙ってしまった。動きが明らかに不自然でどこかぎこちない。何か悪い事をしてしまったのだろうか?
その後、色んな兵器を見て回った。殆どはただ通り過ぎるだけだったがある部屋で立ち止まる。多くの小銃が並んでいた。ミーラはやっと発見したと凄く嬉しそうにしっぽをふっている。罪悪感が俺をさいなむが言わなくてもいいだろう。
「見つけましたよ、ユータ様。」
「うん良かった。じゃあ村へ向かおうか。」
俺とミーラは手分けをして残りのAkをオスプレイに運んだ。安全装置をかけてマガジンを外した状態でだ。それと弾薬も大きな箱に入れて持っていく事にした。
島の真ん中には山があり、平地は海岸線にある。駐屯地から見える海が太陽からの光を乱反射している。キラキラしていて眩しい。灰色の迷彩服がオスプレイに溶け込んでミーラの白い髪を目立たせる。
「これで最後ですね。」
「よし、出発しよう。ミーラ忘れ物は無い?」
「もちろんです。」
「オッケー、オスプレイは北の村へ護衛を連れて向かえ。」
プロペラが回りだす。そして重力の楔から解き放たれる。独特の轟音と共に空飛ぶ輸送機に身をよだねて、俺と彼女は到着を待った。
雲の上を一機の輸送機と一機の戦闘機が滑る。戦闘機の方は昨日と同じF-15だ。両機共に爆音をたてる。
草原に似つかわしく無い轟音。村人達は誰が来たか直ぐに分かったようだ。彼らは防御陣地を築き始めていた。それは全くの手探りで戦争に従事した事のある老人が昔を思い出しながら若者に指示をしていた。
オスプレイはやがて昨日と全く同じ場所へ着陸した。地面から降着装置へ振動が伝わる。
「これは、これは一体どうされたのですか?」
「残りのAK-47を届けにきました、確かめてください。」
弾薬も銃本体もなるべく多めに渡しておいた。
「なるほど。わざわざありがとうございます。」
村長は頭を下げ礼をした。俺も返す。村長や他の村人と共に最後の確認をしていると村の若者から声をかけられた。
「確かに。これで取引は終了ですね。ありがとうございます。」
「こちらこそ。ありがとうございます。」
「おい、あんたこいつの使い方を俺たちにも教えてくれ頼む。」
話しかけてきたのは俺よりも少し年上の青年だった。俺は少年の部類に入るが、この時代なら彼は大人だろう。赤髪の短髪で目が鋭い。手には昨日渡したAkが有った。持ち方は中々様になっている。使い方を教えた方が彼らの為だろう。
「分かりました。他に誰かこれを使う人はいますか?一遍に教えましょう。」
チラホラと手が挙がる。彼と同じような若者の方が多い。新しい武器に期待しているのか手を挙げた人は真摯に説明を聞いてくれる。俺は彼らに教えられる筈の無いことを教える。使い方まで俺は本当に知っていたのだろうか?名前すら覚えていない俺が覚えているのは武器の事ばかりだ。
一番上手くなったのは始めに頼みに来た赤髪の人だった。僅か数時間の訓練でAkを使いこなしている。俺は彼に名前を尋ねる。
「君の名前は?」
「うん?俺はリベレ。あんたは?」
「俺はユータ。ここには長くいられないからこれからはリベレ、一番上手いあなたが教えて下さい。よろしく。」
リベレは少し照れながらうなずいた。事実、彼が一番上手いことに誰も異議を唱えていない。集弾率の悪いAkであそこまで上手いのは天賦の才なのだろう。
彼は教えるのも上手かった。仲のいい村人同士でチームを組ませて互いに改善させている。皆、命がかかっているから真面目に取り組む。追い詰められたものほど強いとはよく言ったものだ。
草原に発砲音が響き渡る。俺は隣にいたミーラに彼の事を聞いてみた。するとミーラは少し悩んでからこう答える。
「彼はいつも暇さえあれば村長の本を読んでいました。みんな彼とは仲が良いですね、質問すると直ぐに答えてくれましたから。」
「へえー、飲み込みが早いなと思ったけど読書家だったのか。」
ミーラは少し悲しげに答えてくれた。おそらくみんなの身を案じているのだろう。草原に発砲音が響く。上手く行って欲しいと俺も願うばかりだ。
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