第6話 戦う男達
隕石被害から1ヶ月が経った。
つまりはあたしが普通の女の子からかけ離れた体になってから1ヶ月。
この地球外生命体との生活も慣れてきたもので普通に談笑したりもするようになった。
あたしが食べるものでもアモンの口に合わないものもあるらしく、とりあえず昆布のおにぎりとカレーが気に入ったようだ。
過剰に辛いものと納豆を特に嫌がる。
テレビはアニメやドラマなどの物語とニュース番組がお気に入り。
と、まぁアモンもこの地球に馴染んできている。
姿形以外は本当に人間ぽい奴なのだ。
そしてあたし幸村御影の生活は新たな展開を迎えていた。
今日これから向かうのは学校ではなく『警察署』である。
この1ヶ月の間に数回あたしはテレビで報道されてしまった。
エイリアンの憑いた犯罪者と戦う姿を、だ。
警察では歯が立たない犯罪者を相手に暴れる姿を不特定多数の人々に晒されたあたしはたちまちヒーローとして有名人となり、現れた犯罪者がエイリアン憑きであると判断でき次第、あたしのところに連絡がくる。
今日警察署に呼び出されたのは最近やたら相次ぐ強盗団による強奪事件の件だ。
前なら弱い立場にある高齢者や女性宅を狙いがちだった強盗だが、最近は屈強なSPを雇っているような豪邸までも堂々と襲っている。
先日起きた事件では5人のSPが重傷、重体で病院へ搬送されている。
やはり無駄に欲望の強い人間が力を持つとろくなことに使わない。
最初の筋肉鎧野郎といい、この間の刃男といい自分の欲求を満たす為なら他人を平気で傷つけて奪う。壊す。
「誰かあたし以外にも正しくエイリアンと共存する人いないかなぁ」
というあたしの言葉でアモンはいつぞやの少年のことを思い出したようだ。
「そうだ。こないだの少年。あの子はどう?悪い子ではなさそうだったよね?」
そういうアモンの話を聞いてあたしは少年を思い浮かべてみた。
が、巻き込んではかわいそうだという考えに行き着いた。
「上手く力を使って成長すれば困ってる人の助けにはなるかもだけど。命懸けた戦いに巻き込むのはかわいそうかなぁ」
あたしの話にアモンは「そっかぁ」と小さく頷きつつ残念そうだった。
「でも悪い子じゃなかったからなぁ。いい感じに成長して俺たちの力になってくれたらいいよね」
「…もっと大人になってから、だね。力だけの問題じゃないから。まだ子供だし」
アモンの話に返しつつ、自分もまだ17と成人ではないことに気がついたが「力を持った以上仕方ない」と言い聞かせるようにして飲み込んだ。
「どっかにいないかなぁ、一緒に戦える大人」
アモンとあたしのユニゾンの呟きが小さく響いた。
とある路地裏にて。着崩したスーツ姿の男とエイリアン憑きの男が一戦交えていた。
スーツ姿の男は会社を辞めた元サラリーマン、名前を草加部壮介という。
エイリアン憑きのほうは報道されている強盗団の1人である。
「ったく。久しぶりの平日昼間からのパチンコで勝ちまくって気分良かったのによ。てめえみたいのを見つけちまったら…」
草加部が喋りきる前に強盗団の男は更に変異して攻撃に出た。
全身を硬い毛で覆い、獣のような姿となって突進する。
草加部が「見つけちまったら…俺ん中の正義が騒いじまうだろうが!!!」と言いきった瞬間、ボワッと体から青い炎のようなものが吹き出た。
その炎には眼が2つ並んで見えた。変態したエイリアンである。
この草加部壮介という男もエイリアン憑きであった。
「こんな力、使わなきゃ勿体ないよな?会社でリーマン勤務してる場合じゃねー。そうだろ?兄弟!」
「おうよ!ブラザー!!」
暑苦しい草加部の言葉に答えた同じく暑苦しいエイリアン、名前をギラという。
息、相性ピッタリなこのコンビ、既にシンクロ率は100%。
その力はAランクに到る。
硬い毛で守られた獣と化した男が爪と牙を伸ばして襲いかかる。
が、草加部は両手で獣の爪を掴んだ。
「ふん。長くて硬い。危ない爪だな。切ってやろう!」
そういうと青い炎を指先から刃のような形で発した。
爪を焼き切り、さらに牙も切った。
「あが!?っぐぐ…!!爪が牙が!再生が始まらない!?」
本来なら回復、再生できる程度の傷の思わぬダメージに慌てふためく獣の男。
男の硬い毛からムクッと顔を出したエイリアンは悔しげに草加部を睨んだ。
そして恐怖した。
傷口がブスブスと燃えている男にそのエイリアンは逃げるように促した。
憑いているエイリアンがAランクであり、草加部がその力を使いこなしていることに気づいたからである。
だが男は全身の毛を逆立てて無数の針のように変化させて飛びかかった。
「全身ぶち抜いてやらぁ!!」
顔を出していたエイリアンの制止も虚しく、草加部の無数の炎の刃が男の体を焼き切っていく。
「く…そ….」
バラバラになって燃え尽きていく獣の男とエイリアン。
「じゃあな。欲望に負けた哀れな悪党よ」
草加部は燃えかすとなって風に散っていく敵に少しばかりの哀れみを見せた。
「ブラザー、正義が勝つ!だな!!」
ギラの声に「おう!」と答えつつ、はだけて汚れたスーツをパンパンと叩いて背に羽織り、その場を後にした。
一度、引火したら焼き尽くすまで消えない青い炎。
それがエイリアン憑き草加部壮介、ギラの力である。
間もなく彼も警察、国からエイリアン対策室へと招かれる。
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