揚げれば大抵のものは食べられる
~前回のあらすじ~
礼、エリーゼの三番勝負。さっそく司会の座を奪われるトネリコ・ルリカ。
第一戦『』が始まる。
・・・
「わー、詐欺だー」
「では、一品目、お願いしますっ」
トネリコさんの前に一品目の料理が運ばれてくる。
「レー、あれどんな味するんだろうね」
「見た目は美味しそうだけどね」
「ちょちょ、何が運ばれて来たんですかっ」
一品目はカンガルーのステーキ。
てっきり羊の金玉でも出てくるのかと思ったけれど、流石にアイドル、最後の一線は守られているらしい。
「今回の料理、以前調理師だったというスタッフさんが作ってくれたみたいで美味しそうです。あ、今モニターの方にも写真が上がりました」
オーストラリアのご当地モンスターでお馴染みのカンガルー。二足歩行でちょっと人っぽいスタイルだから食べるとなると忌避感がある人も多いかも知れない。
「あれ。思ったよりも良い匂いがします。私てっきり虫とか凄い珍味を食べさせられるのかと思っていました」
それ、フラグですよ。
「ではトネリコさん、スタッフさんが食べさせてくれるので口を開けてください」
あーんと口を開いたトネリコさんにカンガルーが侵入する。
「ん、あれ。美味しいですよ。お肉ですね。あー、これは赤身ですかね。とってもヘルシーな感じがします」
確かにステーキの匂いは美味しそうでこっちのお腹も減って来る。
「僕らはこのトネリコさんのリアクションを見て、一番美味しいものを想像すると」
「なーほど。んー、ちょっと難しそうだね」
「ではトネリコさんには採点してもらいつつ、二品目お願いします」
黒子スタッフさんにより二品目が運ばれて来る。
「うわー、エリあれムリっ」
「ええっ、何が運ばれて来たんですかっ」
二品目は蜂の子のバター醤油炒め。
なるほど、明確に不味いものがある訳でなく、ちょっと珍しい食べ物の中からトネリコさんの好みを当てるという至極真っ当なゲームだったのか。
「ではトネリコさん、お口を開けてください」
「レーさん、エリさん、私は何をたべ……、あ、香ばしい匂いがします」
スタジオの中にもバターの良い匂いが漂っている。昆虫食の中だとかなり美味しいって聞いた事があるけれど、どんな味なんだろう。
「う、エリ無理かも」
「あ。うん、プチッとしました。すごくクリーミーな味で美味しいです。なんだろう、たまごみたいな、いや違うな。食べた事無いなぁ」
「という事で二品目でした。トネリコさんより妹の方がダメージ受けてますね」
ここでコメント欄を見ると。
〈カンガルー、けっこう美味しいよ〉
〈そこまでエグイのは出ない感じかな〉
〈アイドルだからね〉
〈……あ〉
〈あー、虫〉
〈蜂の子、田舎で食べさせられたなぁ。見た目以外はイケるで〉
やはり蜂の子はちょっとアレなリアクションが多い。
「ねえレー。エリもソレやりたい」
「ああ。いいよ」
カンペを妹に渡す。
「じゃあ三つ目おねがいしますっうわああ」
運ばれてきた三品目を見ると妹が悲鳴をあげた。こういうの苦手なんだね。
「まあ見た目は良くは無いけど。いやでも、これは食べた事あるんじゃないかなぁ」
「エリさんっ!? 何が運ばれて来たんですか!」
運ばれて来たのはエスカルゴのオーブン焼き。
安いファミレスでもあるし……うん、改めて外観をしっかり観察するとちょっとクルものがあるけれど。けっこう美味しいんじゃないかな。
「トネリコ、すぐ食べて」
妹が目を瞑ったままトネリコさんを急かす。
「はい、ではあーん……。あ、なるほど。はいはい、これはもう全然イケますよ。もう一つあれば頂いていいです? あ、ありがとうございます……。っふう、ご馳走様です。美味です」
トネリコさんは満足気だ。
「エリちゃん、今のトネリコさんは良い表情してたよ」
「むり。もう四つ目いって」
これは勝ったかもな。
続いて運ばれて来たのがトナカイのソテー。
「またお肉ですね。なんだか本格的にお腹が空いてきました」
すっかり慣れた様子のトネリコさんが口を開けてトナカイのソテーを口に入れる。
「どんな味がするんだろーね」
「動物の形としては、まあ、なんとなく想像できるけど……。食べられる種類なんだなぁ」
牛か鹿と同じカテゴリの動物っぽいけど。
「トネリコ、全国のキッズを敵に回したね」
「え? 普通のお肉ですよ。ちょっと臭みはありますけど、柔らかく煮込んであって、一緒に入ってたベリーがまた美味しくて。はい、ご馳走様です。これも美味でした」
難しいなぁ。どれも美味しそうに食べておられる。シェフの腕が良いのかもしれない。
「むずかしいね、これ。エリ的には、最初のやつかなって思うけど」
「僕は、そうだなぁ。三つ目とかが好きな人も多いのかなって。肉系も手堅いとは思うけど」
「じゃあ最後のやつ……うわ、運んできてくださいっ」
若干引いている妹が呼び込み、五品目が運ばれてくる。
「……」
「……」
兄妹、沈黙。
あー。情報としては知ってたけれど。見た目きついなぁ。
五品目はタランチュラのから揚げ。衣で見た目のインパクトを和らげているのだろうか。
サブモニターに映るエリオットを見れば、しっかりと目を瞑っていたので、カンペを返して貰う。
「あの、お二人とも黙ってどうしたんですか?」
「えーっと。ここで調理担当のスタッフさんからの一言です。味はカニみたいな感じなのでご安心をとの事です。それと、画面をご覧の皆さんの中には苦手な人もいるかと思うので、お気を付けください」
衣から少しはみ出た足が何とも……アレだ。
「そういうの先に言っちゃっていいんですか?」
「多分、配慮かと思われます。トネリコさん、一気にいっちゃってください」
「はい、あーん……。ん? んん? なんか触感が違うというか、なんだろ」
目から取り入れる情報って大切なんだなぁ。カラッと揚げられた衣のサクサクという音が逆に恐ろしい。
「カニとかエビ、みたいな。でもプ二ってしたとこはレバーみたいな……カニ味噌みたいな。衣がまた美味しいですね。……はい、ご馳走様でした。もう一回食べてもいいかもですね」
トネリコさんは何を食べたのかは結局分かっていないらしい。
あのサクサク衣で足とかが解らないようになってるのかもしれないな。
「トネリコすごい。エリ、感動しました」
完食したトネリコさんに妹から拍手が送られる。
「ありがとうございます。あの、そう言われると私は何を食べさせられたのか気になるんですけど」
「ということで、エリちゃんと僕にフリップが渡されたので、ここに番号を書きます。トネリコさん、もう目隠し外して良いですよ」
トネリコさんの疑問を遮りつつ、フリップに何番を書くか悩む。
見た目や食材はともかくとして味はどれも良かったらしく、クイズとしてけっこう難しい。
「はあ、明るい。あれ、なんですか皆さん、なんだか生暖かい視線を私に向けていますけど」
目隠しを外したトネリコさんはスタジオの皆さんから向けられる視線を不思議そうに見つめている。
「うーん、エリはやっぱり、いやでもなー。うん。決めました」
「まあ、これかな」
トネリコさんがタブレットを持ち、僕らの元に戻って来る。
「はい、ということで、司会が私に戻ります。どれも美味しかったんですけど……あ、お二人とも決まったみたいですね。では答えて頂きましょうっ、まずエリさんからどうぞ!」
「エリは、四番のトナカイ!」
あ、食材の方も言っちゃうんだ。
「えっ。私トナカイさん食べちゃったんですか!」
案の定トネリコさんが動揺している。
「理由は、ウシとかウマとかと似たような形してるから。まー、美味しいのかなって」
「……トナカイ。あ、ええ、はい、わかりました。では続いてレーさん」
「僕は三番のエスカルゴだと思います。理由は、トネリコさんの反応が良かったからです」
「お、やっぱりエスカルゴだったんですね。これは実は食べた瞬間から解ってました」
大学生ともなればエスカルゴをつまみにお酒を飲むこともあるのだろう。やはりトネリコさんはエスカルゴは既に経験済みだったようだ。
「それでは私が一番美味しいと思った料理を発表します」
ダララララララララとドラムロールが響き――デデン!
「三番のエスカルゴですっ! レーさん、おめでとうございますっ!」
「お、やった。ありがとうございます」
「えー、トネリコー。エリに合わせてよー」
「いやー、どれも美味しかったんですけど。やっぱり食べた事のある味っていうのが良かったですね。私、エスカルゴはファミレスでも食べるくらい好きなんですよ。サザエとかも好きで……、そういう意味だと最後のから揚げも良かったですけど。あれって結局なんだったんですか?」
「……ふ、トネリコ、アーカイブ配信が楽しみだね」
妹がポツリと言う。
「レーさん?」
「一番目はカンガルーです」
「え? カンガルー? 食べれるんですか?」
「食べたんですよ。で、二番目が蜂の子」
「ああ、あれが蜂の子の味ですか。まあまあ、私、虫だとクモ以外は結構大丈夫なので」
すごいフラグを立てている。
「それでお二人が選んだ三番目がエスカルゴで四番目がトナカイですよね。それであのー?」
「まあ、その。まだ勝負は続くので五番目は後ほどおうちで、と言うことで。エリちゃん、とりあえず約束だからな。食器は自分で洗うように」
「えー。……はいはい、わかったよ。でも、勝負はまだ決まってないからね!」
妹がトネリコさんに振り返り――。
「第二戦目開始の宣言をしろトネリコっ」
「あ、はい、第二戦、開始~」
そうして勝負は続く。
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