世界を歪ませた勇者
ルシア オールウェイズ ハッピー スピカ
第1話 転生者
アプリケーションプログラム
インストール……
残り28%
57%……76%
エラー発生
アプリケーションプログラムのシンクロに失敗
再度インストールを試みます
魂のリンク状態の確認に移行
ビーーー!(緊急警報の音)
適正者の生命維持に極めて深刻なエラーが発生しました
インストールを中断
インストールの強制終了及び生命維持可能状態までの回復見込み確率予測演算開始
生存可能率38%
24時間の監視後再度演算により今後の実験内容の修正を行います……
昔の記憶
幼い頃の折り紙
鶴を折っている
オレは日本人だった。
「ルシファー! ボケっとしてんじやねぇ! 戦闘中だぞ!!」
頭に鳴り響く声が思い出を切り裂く。
うるさいな……。
そんな事分かってるよ。
「めんどくせーなー! 全員ぶっ殺してやる!」
オレは最強の勇者だ。
この世界に来た瞬間全てを失い、そして力を手に入れた。
実年齢15才。日本人。
ゲームが好きな何処にでもいるような高校生だった。
そんなオレがいつもの様にゲームをしていたら突然目の前が真っ白になり気を失ったのだが、気付けばこの世界の勇者として転生していた。
勿論最初はビックリした。
良くアニメなんかで転生モノを見て最強に憧れたりもしたが、実際に体験しないと分からないことが沢山あり過ぎてしばらくは絶望していた。
食べ物が勝手に出てくる現世では考えられない事だが、この世界では自分の力で食べ物を探す事から始まる。最初の一週間で最強なのに餓死しそうになった。
良く知らないがこの世界では何百年も前に世界大戦があり一度世界は滅ぶギリギリの所までいったらしい。
しかも相手は魔王ではなく神様だったと言うのだから人類がよほど悪い事をしていたのだろうとしか思えない。
そして今オレが戦っている相手は神の残した残骸のような者達。
便宜上、使徒と呼んでいる。
奴らは一見すると人間と変わらない見た目なのだが、本質的なモノが違い魔法が使える。
この世界の人間は本来魔法が使えない。
しかし、神の残した使徒は魔法が使える為、人類が普通に戦えば生き残ることは不可能に近い。
人類に残された生き残る術は科学という名の兵器に頼るのみ。
そんな絶望の世界にオレは転生してしまった。
だが魔法VS科学のヒューマンドラマの主人公……ではなかった。
オレは転生者で最強の勇者。
勿論最初からチート状態だ。
オレはこの世界でただ一人魔法が使える人類だったのだ。
本気になればこの世界全域を火の海にすることも可能なレベルの勇者だ……。
手加減をしなければ一瞬だろう。
そんな理由でこの程度の使徒なんて戦いにすらならない。
「白! 結界の構築と展開」
結界の構築展開完了
「黒! 結界内の全対象にドレイン」
結界内の全対象にドレイン成功
使徒の殲滅確認
「マジでめんどくせぇー!!」
オレは空に向かって吠えた。
欲求不満だ。
力があっても使えなければただのゴミ。
補助役の精霊に頼まなければあんな雑魚も倒せない。
白は空間の分野に長けている精霊。
そして黒は魔力エネルギー分野に長けている精霊だ。
「オレのおかげだな! 感謝しろよ!」
こいつはさっきオレに話しかけてきた精霊、青だ。
最初は大人しい感じだったのだが、使役する相手によってアップデートされるらしく荒々しい感じに育ってしまった。
青は知識の分野に長けているのだが、今の話し方からは知識の欠片も感じられない。
まぁ全部オレのせいなんだけどな。
ル「青! 次の予測は?」
青「次は三日後だ!」
今オレはある目的の為に旅をしていた。
この辺りは緑の谷と呼ばれており昔は木々が生い茂り緑に囲まれていたそうだが今は草木も生えておらず断崖絶壁に囲まれて岩だらけだ……。
こんな所で何をしているかって?
食料調達だよ! そう食料調達……。
この一年ぐらいで色々世界を回ったが食べ物がある場所はほとんど無い。
動物もいなければ虫もいない。
この世界での食料は自分で作るしかないのだ。
さっきの使徒から吸収した魔力エネルギーを魔法で変換して食料を作り出す。
問題はこの食料が、クソ不味いってことだ。
力は最強だが料理スキルが無いのか美味しい食べ物が作れないせいで生きる為に仕方なく食べる。
人間の三大欲求の一つが壊滅的な状態だ。
まあ三日後にまた使徒が攻めて来ると青が教えてくれたからしばらくは餓死することも無いか。
待つのも面倒だ、魔法でしばらく時間を早めるか……。
ル「白! 黒! 超重力場を生成して使徒が来るまで時間を遅くしてくれ」
空間の固定完了
魔力エネルギーを水素に変換圧縮
核融合準備完了
重力場生成開始……
ブラックホール完成
青に予測時間までの計測開始の申請
青「その重力場ならあと五分後ぐらいだ。直前にカウントしてやるよ」
ル「青。あとは任せた」
青「へいへい。やっとくよーっと」
オレは待つのが嫌いだ。
何でもかんでも時短する主義だ。
このやり方は青に教えてもらった。
重力場が時間に影響を与えると昔の偉人が発見したんだと……。
超重力下における時間の進み方は通常の重力下のそれとは違う。
ようするにブラックホールの近くは時間がゆっくり流れるってことだ。
別の方法もあり、光の速さ限界まで移動速度を上げると時間の流れが変わるんだが、膨大な魔力エネルギーが必要で体の方が吹っ飛びそうになったからその案は即却下してやった。
他にも何か難しい事を色々教えてくれたが全部はとてもじゃないが覚えきれない情報量だったので、使えそうなものだけ使っている。
その気になれば空も飛べる。
だが、精霊達の補助無しでは飛びすぎてコントロールが出来やしない。勿論魔力も垂れ流しだ。
最強は万能とは程遠い代物ってことだ。
自分一人では何も出来ない。
ある意味最弱なんじゃ……。
ちなみに話しが出来るのは青だけだ。
他の精霊は直接テレパシーでの会話になる。
青は知識の精霊だから人間の構造を良く理解している。その為空気の振動で青の意思を言語化させることも可能というわけだ。
そろそろかな?
五分が長く感じてしまう。
三分で出来る日本のカップラーメンが恋しい。
腹減ったなあ。
青「ルシファー! もうちょいだ。カウント! 三、二、一、重力場解除!!」
ブラックホールの全物質の分解に成功
同時に発生した熱量を魔力エネルギーに変換
魔力エネルギーの回収率98%
ル「白、黒、良くやった! 青! 使徒は?」
青「あと一分ぐらいだ! 安全マージンギリギリだから文句言うなよ!」
ル「上出来だよ! ちょっとだけ憂さ晴らしするから手伝ってくれ」
青「良いけど使徒確認後に三秒だけ待ってろよ! じゃないとこの辺見渡す限り平野になっちまうぞ!」
ウズウズしてきた。
軽く首を回しながら右手を握りしめてからゆっくりと開く。
手の平の上に長い刀をイメージして生成する。
勇者といえば剣だろ?
しかも伝説の武器が
今日は日本刀、正宗だ!
遠くの方に人影が見えた。
ル「来た!」
そう思うと同時に火の玉が飛んでくる。
使徒の魔法だ。
ル「こんなもんがオレ様に通用するかよ!」
仁王立ちで構え左手で火の玉をレジストする。
その瞬間オレを中心に半径二十メートル程の空間が凍りつく。
青「三秒待てって言っただろ!」
ル「今のはしょうがないだろ?」
青「黒! ルシファーのエネルギーの95%を一時保存! ピンチの時は2%だけ解除して二秒間待機」
エネルギーの一時保存完了
ル「よっしゃ! 行くぜー!!」
青「白! 全目標の確認後即結界の構築と展開! 完了までの許容時間コンマ五秒以内!」
青の指示が終わる前にオレはすでに全力で駆け出していた。
使徒は、一、二、三……全部で八体だ!
全目標の確認
結界の展開完了
よしきた! あばれるぞ!!
久々に全力で戦うのが楽しく嬉しくなってきた。
ル「ゔぉぉーーー!!」
雄叫びは辺り一面に響き渡った。
右手の正宗が一瞬光ったように見え、それと同時にオレの後ろには七体の使徒が立っていた。
一体は土の中に逃げたか?
なかなかやるじゃないか……。
後ろを振り返ると同時に七体の使徒はその場に崩れ落ち息絶えていた。
正確にはオレが切り込みながら走り抜け切り殺したのだ。
あと一人は土の中か……。
秒で終わるのも味気無い。
ゆっくりと追い詰めるとするか。
土ってことは生成が得意なはず。
ならこっちも生成術の秘技を見せてやるとするか……。
ル「白! 結界内の目標の座標確認。
黒! 目標補足後座標から半径三メートルの物質を球状にして摘出」
目標補足
座標確認転送
物質の形状変化に失敗
エネルギー不足量65%
再実行しますか?
青「キャンセルだ! ルシファー! 限定解除しないと無理だぜ! それが嫌なら二時間ぐらい詠唱してくれ!」
ル「まったく面倒くせぇなぁ……ならほじくり出してやる! 白! 座標にマーカー付けて左目に転送! それぐらないら出来るだろ!?」
実行可能です
完了しました
青「土の中から魔法反応の増大! デカいのが来るぞ!?」
一瞬辺りの土が盛り上がったかと思うとうねるように回転し始めた。
地面が流砂のように渦巻き土の中に吸い込まれそうになる……が軽く飛び上がり空中へ回避する。
その行動を予測済みかのように今度は流砂全体から無数の鉱物の槍が発射される。
ル「ちっ! ご丁寧にお土産付きかよ」
青「全部はかわせねぇぞ! どうする?」
ル「そんなの簡単……こうするのさ!」
右手の筋肉に魔力を流し込み正宗を一気に振り下ろす。
天変地異かの如く大地が割れ巨大なクレバスが完成する。
刀の風圧でほとんどの槍は散らばり、ゴンという音と共に結界にぶつかり砕け散っていた。
ル「ああぁっ! やっちまった……」
結界内の全目標の殲滅を確認
そうだよなぁ。流石にあれで生き残れるはずねぇよなあ……。
取りあえずドレインで回収しとくか……。
先に倒した使徒のエネルギーも回収し終わりその場に立ち尽くす。
まあ、限定状態ではあるが刀を全力で振り下ろす行為が軽いストレス発散にはなったし良しとしよう。
それにしても限定状態でこれだよ。
巨大なクレバスを見てげんなりする。
本来のオレはこんな性格でも話し方でも無かった。
しかし、こんな生活を続けていると人間変わってしまうものだ。
力があるから戦闘で負ける事は無い。
限定解除して戦うと世界が滅んでしまうから全力は出せないが、強制的に制限することで擬似的な全力を出してストレス発散する方法も覚えたし、精神的にはなんとか安定しているはずだ。
最強の力を持て余す現状に慣れてきてもいる……。
前世のオレと比べて大分攻撃的な性格になってしまったのは致し方無いことだろう。
こんな世界にいたら誰でも中二病みたいになってしまうはずだ……。
自分にそう言い聞かせてなんとかここまでこれたのだから、この世界を存分に楽しみエンジョイする事で精神状態の維持をするのには成功しているということだ。
ちなみにオレ限定でこの世界には三つのルールがある。
一つ。世界を崩壊させてはいけない。
二つ。勇者として常に人類の存続を優先させる。
三つ。十二精霊の回収にてゲームクリア。
二つ目まではそのままの意味だが、三つ目が大変だった。十二精霊とは世界に散らばる精霊の中でも特別な存在で、使徒の魔法の使役に関する情報がほぼ全て集約されているとの事だ。
これらの情報はこの世界に来た直後にチュートリアルで説明を受けた。
ここはゲームの中の世界なのか、システム管理者みたいなやつが教えてくれたのだ。
神と人類の戦争。
神を倒した後も残骸の使徒が生き残っていること。
このままにしておくと神を顕現させる力を持つ使徒が出現する可能性があること。
神を倒してみるってのも面白そうなんだが、所詮人類に倒される神レベルではオレには勝てないと思ったので最終的に戦うことになったら面白いなぁぐらいの気持ちだ。
当面はスタンダードに精霊集めに徹する予定で動いており、すでに三体の精霊は回収に成功している。
残り九体の精霊を探す旅の途中だ。
その為にはまず街の開放によりダンジョンへの侵入経路の確保からスタートしなきゃならねぇ。
今度の街まではまだ四日ほどかかりそうなので食料の調達を優先したのだが、使徒の殲滅もほどほどにしないといけないらしいから面倒くせぇんだよ。
使徒の数が減少しすぎると世界バランスが崩れて今の世界を保てなくなるとかほざいていやがった。
これは魔法に関わる所で、神の力が完全に消えた場合精霊の暴走やらなんやらで結局世界が滅ぶんだとか。
ちなみに十二精霊さえ集められれば使徒の管理と魔法の解析が進められる。
それによって人類は使徒を取り込み魔法が使えるようになるのが最終目標なのだと。やっぱり人類が神様に喧嘩売ったんじゃねぇの?
まあどうでもいいか……。
食料も確保出来たし次の精霊を探しに行くとするか。
オレはしばらくの間緑の谷の先を眺めたが、うんざりしてきたからとりあえず寝ることにした。
夢を見た。
昔の夢。
部屋でゲームをしながらお菓子を食べる夢。
夢のせいなのか味はしない。
いつもそうだ。
肝心な所でポカをやらかす。
夢ならお菓子の味ぐらい楽しませてくれてもいいだろ……。
味が無い事にイライラして目が覚めた。
青「やっとお目覚めかよ。もう昼過ぎだぜ」
ル「別に減るもんじゃねぇしいいだろ? 寝坊ぐらい」
イライラするがじっとしていても始まらねぇ、次の目的地までしばらくは歩くとするかぁ。
走っても良いが腹が減ってしょうがねぇから走りたくねぇんだよなぁ……。
食事さえ美味しく食べられるならどんだけでも走ってやるが……、仕方無しに食べる行為はもはや苦痛でしか無い。
色々試してみたが一番ローコストで確実なのが歩くことだった。
青が言っていたが、精神系の精霊がいればもっと美味いものが食えるらしい。
青はとにかく知識が豊富で演算なんかも得意だが人間の精神や感覚系に関しては全く使い物にならねぇ。
それにしてもこの谷は岩、岩、岩……。
他に何もねぇのか?
ファンタジーの欠片も感じない。
ル「……なぁ、青……」
青「どうした? ルシファー」
ル「ちょっとぐらいなら良いよな?」
青「何がだ?」
ル「それぐらい分かれよ! ちょっとだけなら大丈夫だよなって聞いてんの!」
青「だからー! 何がだってぇーの!?」
もぉーー嫌だ!!
ル「ぜっんぜんイライラが消えねぇんだよ!! お前ぇら全員全力で世界を救ってみろ!」
青「ちょ! 待て! ルシファー!! 早まるな!?」
ル「うるせぇー!! オレ様が二回も前置きしてやったんだ! 黙って世界を守ってりゃあ良いんだよ! うぉぉぉー!!!」
自分の胸の辺りを中心に力が蓄積されていくのが心地良く感じる。
最強の名を欲しいままにできるほどの力。
神の化身と言っても過言ではない。
その力を最大限で放出すれば世界は一瞬で消滅するだろう。
オレはニヤリと笑みを浮かべ両手を前方へかざし叫んだ。
ル「ぶっ壊れろぉー!!!!」
オレの声が届くよりも先に両の手の平から膨大なエネルギーの塊が地平線の果てまで飛んでいった。
そう……地平線の果てまでだ。
辺りの地形は一瞬で消し飛び見る影もなくなっていた。
青「ルーシーファーー!!? お前自分が何やったのか分かってんのか!!?」
青が発狂している。
それもそのはず、たった今世界崩壊の危機だったからだ。
まあ原因はオレのせいなんだがな。
ル「上手くやれたじゃねぇか! お前ら最高だよ!」
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