第21話
「使用人を解雇したのは、どういうことだ?」
「単純に、働きの悪い者に払うお金がもったいなかっただけです」
あっさりとライリーが答えた。
「も……」
その答えにナイジェルは呆れてものが言えなかった。
これも初めてのことだ。女性には常に愛想よく接してきたのに、最初からなぜか彼女にはそれ以外の表情ばかり見せている。
「使用人の働き方についても、無駄が多すぎます。屋敷の維持管理にはある程度必要ですが、お二人の世話をするためだけに、この人数は必要でしょうか」
ライリーは別の紙を差し出す。
「これはなんだ?」
「本宅と別邸の使用人の勤務表と、給料の割合です」
彼女の言う通り、そこには執事長や侍女頭を筆頭に、使用人達の名前がずらりと並んでいた。
それこそナイジェルの覚えがない名前まで。
それぞれ役割分担と、勤務年数や月額の給料も書かれている。
「ここに書かれている印はなんだ?」
本宅別邸、どちらの紙にも名前の横に丸が付いている者が何人かいた。
「勤務時間中にさぼったり、仕事の手を抜いたりしていた者たちです」
「こんなに……」
本宅では約三分の一、別邸に関しては半数近くに丸が付いていた。
「休憩もせず働く必要はありませんが、殆どがその勤務時間の四割は仕事を放置していました。その分、真面目に仕事をしようとする者にしわ寄せが行っています。それではせっかく一生懸命働こうとする者を疲弊させ効率も下がります。悪くすれば彼らが辞めてしまうことにもなりかねない。若しくは働く意欲を萎えさせ、彼らも手を抜いてしまう恐れがあります」
とうとうと彼女は話し続けた。
「そんなことまで、こちらに責任があるのか? これは執事長や侍女頭の仕事だ。彼らにはその分の十分な給料を払っている」
ナイジェルも言い返す。自分の散財については少々耳が痛い部分もあり、納得はできないがある程度受け入れる気持ちになっていた。だが、これは違う。何のために執事長達がいるのだ。
「でも彼らも人間です。見落としもありますし、時に休みも必要です。彼らを四六時中ずっと働かせるわけには行きません。それに今のこの人数を管理するには、彼らだけでは無理があります」
「だが、世間では我が家が困窮して使用人を解雇したという噂があるのだぞ。家名に傷がつく」
ナイジェルは食って掛かった。
「それは解雇された者の逆恨みです。残った者達からは、お陰で仕事がやりやすくなり、働き甲斐があると評価はいいですよ」
「彼女の言うとおりだ。一部の者が、怠けていることで、やる気のある者の気を削いでいた。それにそういう者達は誤魔化すのもうまく、結果、真面目な者が損をしていた」
そこにスティーブンも助け舟を出す。
「解雇前に、一人ひとり面談し、やる気やこれからの希望を聞き取りました。それで侯爵家にとって、必要な人材を確保したつもりです。人手がいるなら、新たに雇用もしまく。働きやすい環境を整えれば、希望者は殺到するでしょう。改めて使用人の教育を見直します」
「教育?」
ナイジェルが問い返す。
「はい。まず、識字率を上げます。そのために文字の勉強や、簡単な計算も出来るように指導します。これは最低限の必須課程で、後は希望に応じ、専門的な知識や技能を習得できるように考えています」
「文字や計算を教えるのか?」
「そうです。これまで文字が読めない者は、書類を見ても読めないため、読める者にお願いする必要がありました。それでは効率が悪い。計算もできないと、出入りの業者に足元を見られかねません」
「その費用はどこから?」
「もちろん、侯爵家から出してもらいます。これは必要な投資です。使用人の質を上げることで、侯爵家全体の質も上がるというものです。それに、お金が必要なのは最初だけです。いずれは使用人同士教え合いできれば、教師を雇う必要もありませんから」
「ライリーの言葉で言えば、『損して元を取れ』というらしい」
ナイジェルは手元にある書類をもう一度見つめ直し、ライリーの語るレックス侯爵家改善計画について、熟考した。
祖父を抱き込み、好き勝手していることは気に入らないが、今のところナイジェルには、彼女の起こした改革と称する手腕に対する弱点を何も見つけられなかった。
というか、これまで彼女のようなことを考えたこともないので、まったく検討もつかないというのが正しいかもしれない。
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