第10話・暴君令嬢、騎士のごとく
オルタロス公爵家・練武場
武勇の誉であるオルタロス公爵家には、敷地内に武術を嗜むための建物が存在します。
ここではおじいさまに指導を受けるべく、連日正騎士だけでなく騎士見習いである従士たちも通ってきているそうで。
今日も指導教官のもと、素振りや剣術の型を学んでいるそうです。
エリオット兄さまも仕事の合間を見つけてはここに通い、剣の腕前を磨いているとか。
「それじゃあ、好きな武器を使って構わない。俺はこの木剣で十分だからな」
「では、私も木剣で……」
──グゥゥゥゥ……ピタッ
突然お腹が鳴り始めたので、素早くしゃがんでポケットの中のミスリル飴を口の中へ。
そしてゴリゴリっとかみ砕いて飲み干すと、体から金色の煙が立ち上ってきました。
「はぁ、このタイミンクでオーラのチャージとは……では、行きます」
静かに木剣を構えます。
(
脳裏で技の開放を宣言。
これは領都での日々の訓練のたまもの、必要な能力だけを開放する方法です。
こうしないと、能力解放はすべての力を一気に際限なく開放するので、急激な空腹状態に見舞われることになります。
それを防ぐために、それぞれの能力を個別に開放するための訓練を行っていました。
まだ若干微妙な部分もありますが、身内と訓練生しか見ていないので、よし。
──シュンッ
「シルヴィア、どこに消えた?」
「ここですよ、兄さま」
一瞬でエリオット兄さまの背後に移動しますと、その肩にポン、と木剣を載せました。
私の声が背後から聞こえたこと、そしてその肩に乗せられた木剣の重みに気が付いたのか、兄さまは突然振り向いて私の木剣を払い飛ばすと、そのまま袈裟切りに切りかかってきます。
「今のは無効だ、どんな卑怯な手を使った?」
「卑怯もなにも、私は一瞬で兄さまの後方に飛び込んでから、その肩に剣を乗せただけです。ほら、ほかの門下生の皆さんも見えていましたよね?」
兄さまの乱撃を全て躱しつつ、壁際で座って見ていた門下生の方々に問いかけます。
はい、全員が頭を左右に振ったり手を振って見えていないことをアピールしています。
「ほら見ろ、お前の動きなど誰も見ていないじゃないか!!」
「それじゃあ、見える速度まで下げますから」
後ろに飛びずさって木剣を拾い上げると、今度は私の乱撃タイム。
素早く踏み込んで私が次々と打ち込んでいくのを、兄さまは必死に受け止めたり躱そうとしていますが。
──ビシッ
その一瞬の隙をついて、胴部を横薙ぎ一閃。
これは素直に認めて貰えますね?
「なるほどな……認めよう」
そう呟いて、お兄様は木剣を片手に道場を後にします。
「うん、認められましたよ」
「まあ、それでもシルヴィアが劣勢であったことは事実じゃがな」
ニマニマと髭をさすりつつ、おじい様が告げましたが。
私が劣勢だったので……え?
──ビシッ
突然、木剣が砕け散り、私の訓練用に借りていた布製の鎧もあちこちが裂けていました。
いつのまに、これだけの反撃を?
「初手はシルヴィアの勝ちであったが、そのあとはエリオットは飛剣を交えて攻撃していた。しかも最後は剛撃、相手の武器を破壊する技。それに対してシルヴィアの攻撃は速度重視の手数で攻める戦い。最初の約束通り勝負はシルヴィアの勝ちであったが、まだまだ学ぶものは多かったということじゃ」
満足そうに呟くおじいさまと、引き攣った笑顔のおとうさま。
あ……実践を見せたのはこれが初めてでしたか、そりゃあ驚きますよね。
「うん。より精進します」
「それでよい。どうやらオルタロス公爵家は、次の代も安泰のようじゃなあ」
「はぁ。これだけの実力を今まで隠していたというのなら、シルヴィアを養女になど出すべきでなかったと今更ながら後悔していますよ」
落胆するお父様ですが、別に名前が変わったからと言って親子の縁が切れる訳ではありませんよね。
名義上はどうあれ、このシルヴィアはお父様とお母さまの間に生まれた子供なのですから。
その魂である私の存在については、言及されるとは思えないのでノーカンということで。
………
……
…
祖父母の家で楽しい時間を過ごし。
放っておいたら王都滞在中は毎日祖父母の家に通うどころかずっと泊まっていきなさいといわれそうになったので、うまく話をごまかして王都のランカスター伯爵邸にどうにか帰宅。
翌日からは近隣の散策から始まり、商業区でドワーフの鍛冶師を探してミスリルを『祖父母からいただいたお小遣い』で購入したり古書店で錬金術の本の書写版を購入したり、それを自室でこっそりと実食して【錬金の理・分離1融合1結合1加工1異端合成1】という訳の分からない知識を手に入れたりと、実に楽しい毎日でした。
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