第13話 サシャ嬢とルーファス

月に一度の癒しの日…もとい、サシャ嬢とのお茶会で今回はトランドラッド家へ招かせていただいた。

義弟になったルーファスを紹介するためだ。

『気安く他人を家に入れるな』

「サシャ嬢は未来のお嫁さんだよ?そんなこと言っててどうするのさ」

僕がルーベルトの悪態に溜息を吐くとまた叱責される。

「ルーベルトはサシャ嬢のこと嫌いなの?」

『政略結婚に好きも嫌いもない』

「ならいいじゃない。サシャ嬢はいい子だよ」

『いっそ悪女だったのならばな』

ルーベルトはルーベルトなりにサシャ嬢を気に入っているらしい。

そもそも、本当にどうしようもなく嫌いならば一方的に破棄することだって出来たはずだ。

それほどサシャ嬢とルーベルトの家との力関係の差はある。

たまたまルーベルトのお父上が欲していた産業がサシャ嬢の家が得意なだけの政略結婚だ。

しかもまだ幼い。

破談になることもよくある話だ。

……破談になんて僕がさせないけどね!


サシャ嬢が来る当日までずっと楽しみで仕方がなかった。

一ヶ月振りにサシャ嬢に会えるのだ。

しかも今回は大切な義弟ルーファスの紹介。

絶対に失敗は出来ない。

自室のベッドの上で、小さくえいえいおー!と拳を握り締めて右腕を上げて鼓舞する。

『公爵の威厳を持て』

「君と僕しかいないじゃないか」

『ふんっ』

ルーベルトはそれきり黙ってしまった。

おもてなしの準備は抜かりなく。

当日、サシャ嬢を招いて応接室でルーファスと並んで対面した。

「こんにちは、サシャ嬢。お久し振りです。こちら、この度義弟になりましたルーファスと申します」

「初めまして、カサンドラ侯爵令嬢。ルーベルト義兄様の義弟になりました、ルーファスと申します。今後ともよろしくお願い致します」

ルーファスと交互にサシャ嬢と握手を交わした。

「お久し振りです、ルーベルト様。息災のようで何よりですわ。初めまして、ルーファス様。ルーベルト様の婚約者を務めさせていただいております、サシャ・カサンドラと申します。ぜひサシャとお呼びください」

サシャ嬢がカーテシーをしソファに座ることを勧めたところでメイドがノックをし、入室の許可をすると紅茶とお菓子を持って入室してきた。

「先日の手紙でご紹介させていただきました街に新しく出来た菓子店のものなのですが、とても美味しくてサシャ嬢にはぜひ食べていただきたくて」

本当は豪華な菓子や屋敷の者の手製も考えたけれど、サシャ嬢に大切な領地の物を好きになってもらいたかった。

クッキーを細い指でひとつまみし、口に運ぶと「美味しい」とサシャ嬢が微笑んでくれた。

僕はもうそれだけで嬉しくて、「サシャ嬢が領地の街の物を美味しいと思ってくださって嬉しいです」と微笑み返して答えた。

ルーファスはそんな僕らを微笑まし気に見ていた。

まったく、どちらが兄か分かったものじゃない。

だけれどとてもいい感じの空気だと思う。

僕はサシャ嬢もルーファスのことも褒め称えた。

大好きな二人が仲良くなってくれたらとても嬉しいので、少しでも親しくなってくれたらいいな。


「すみません、少し退室します」

ルーファスがそう言って応接室から退室すると、サシャ嬢は少し不機嫌だった。

一体どうしたのか尋ねると随分と可愛らしいことを言われた。

「……わたくしとルーファス様のどちらがお好きですか?」

「どっちもとても好きで大切ですよ」

サシャ嬢の言葉が可愛くて嬉しくてにこにこ微笑みながら答えるとサシャ嬢はソファに座り直して謝罪した。

「申し訳ありません!ルーファス様と張り合うつもりはなかったのですが、あまりにルーベルト様がルーファス様を褒めるものですから…」

「やきもち、焼いてくださったんですか?」

とえば小さく頷かれた。

サシャ嬢の見えるすべてが赤い。

えっ、かわいい。

「サシャ嬢、とても愛らしいですね」

僕も真っ赤になりながらもなんとか言葉にするとお互いこれ以上ないくらい赤くなって沈黙が落ちる。

ああ、僕がもっと言葉の上手い人だったのならサシャ嬢にもっと素敵な言葉を掛けられるのに。

『おい、これ以上くだらない寸劇を見せつけるな。私の体でするな』

勝手に見ているのはルーベルトでしょ!

それに、サシャ嬢のことを任せたのはルーベルトじゃないか。

僕が心の中でルーベルトとやり合いつつも僕は先程以上にサシャ嬢を褒め称えた。

僕の婚約者が可愛いのが悪い。

戻ってきたルーファスは赤面している僕とサシャ嬢を見て首を傾げた。


日が暮れないうちに自宅へ着くようお茶会を切り上げてサシャ嬢を見送った。

窓からこちらに身を乗り出し手を振る姿も可愛い。

僕がにこにこしながら手を振り返している横でルーファスも手を振っている。

馬車が見えなくなったところでルーファスに尋ねた。

「ルーファスはサシャ嬢と上手くやれそう?」

「本日が初対面で、正直まだよく分かりませんが優しそうでお義兄様にお似合いの方だと思います」

「そっか。ありがとう」

サシャ嬢もルーファスも優しくていい人だ。

そんないい人に囲まれて、将来は幸せな家族が出来そうだ。

僕が嬉しくてにこにこ笑っているとルーファスも釣られて笑っている。

『ふんっ』

うん。幸せだなぁ。

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