第2話 初仕事
「ルーベルト、この大量の書類はなんだい?」
朝食が終わり、ルーベルトに案内されるまま入った部屋は執務室だと説明された。
その部屋に大きくある机には大量の書類が重ねられて置かれていた。
『私の仕事だ』
「こんなにたくさん。誰かに手伝って貰えばいいのに」
『領主の仕事を他人に任せられん。いいからやるぞ』
そう叱責されて渋々座り心地のいい椅子へと腰掛けた。
「どれからやればいい?」
『最優先は左の箱に入っている。私が読んでサインをするか決めるからお前は私の意見を聞いてサインしろ』
「分かった」
サインの練習は昨夜やってみたけれど、これも体が覚えているようでこちらも普段のルーベルトと違和感なく書くことが出来た。
何せ、本人の太鼓判付きだ。
僕も一応書類を読んでみるけれど、内容はさっぱりだった。
それでも僕が読み終わるより早くサインをするか決めて可、不可を裁決してどんどん書類が捌かされていく。
「ルーベルトは仕事が早いねぇ」
『慣れだ、こんなもの』
そうは言うけれど、最優先の箱はすぐに空になり次の箱に指示は移されていた。
「ルーベルトはまだ若そうなのに領主なの?」
『父も母も早くに亡くなったからな。跡を継ぐのは私しかいなかった』
「それは……聞いてごめん」
『いい。昔の話だ。それより手を休めるな。今日はこの書類を半分にする。すぐまた増えるからな』
その言葉に僕は驚いた。
「ええっ!?こんなにあるのにまだ増えるのかい!?」
『それが仕事だ』
ぴしゃりと言い切られてはどうしようもない。
ルーベルトの言葉に従って手を動かすのが僕の役割だ。
ルーベルトは、お父さんとお母さんが亡くなって悲しくはなかったんだろうか?
僕は、いるか分からないけど僕のお父さんとお母さんが亡くなったら悲しい。
一晩中と言わず一週間以上泣いて暮らしそうだ。
泣かなくなっても悲しみは引き摺る。
同一の存在なのにルーベルトの心は読めない。
それがひどくもどかしい。
ルーベルトが悲しみを耐えているのなら泣かないでって言ってあげたい。
でも、実際のルーベルトは使用人に酷い態度を取る悪いやつだ。
いいや、悪いやつでもルーベルトは今は僕なんだ。
僕が少しずつ悪い印象から良い印象を周囲に与えていけばいい。
「ルーベルト。この書類にはなんて書かれているの?」
『この地の作物をすべて私が買い取り、領民には多少値上がりするが他領から仕入れた食材を与えるという書類だ』
「ええっ!?なんでそんな事わざわざするのさ?この地で採れた食材ならこの地で食べればいいじゃないか」
『うるさい。そう決めたんだ。お前は黙って手を動かせ』
意味が分からない。
なんでルーベルトはそんなことをするんだろう?
ルーベルトは賢いから僕が分からない理由でもあるのかな?
考えても考えても分からない。
そして考えるとルーベルトから叱責されるので僕はやがて考える事をやめてルーベルトの言う通り、サインをするかしないかそれだけの作業に没頭した。
没頭している間に時間が経っていたようで、やがてノックの音がした。
「どうぞ」
『そこは、入れ、だ』
ルーベルトからすかさず訂正されるが言ってしまったものは仕方がない。
入って来たメイドに昼食だと言われそういえばお腹が空いたなぁと思い出したように空腹感が出てくる。
「分かった。すぐ行く」
「かしこまりました」
メイドは一礼するとドアを閉めた。
「どう?今のはルーベルトっぽかったでしょう?」
『ふん。まだまだ薄いな』
「薄いってなにさ」
『公爵としても私としても薄いという意味だ。さて、午後からの仕事もある。さっさと食堂へ向かうぞ』
その言葉で腹の虫がぐぅと返事をした。
『貴様…他人が聞こえる場所でそんな真似をしたらどうなるか分かっているんだろうな』
ルーベルトはあきらかに怒っている。
まあ、お腹を鳴らすなんてルーベルトらしくないか。
「ごめんごめん。また鳴らないうちに食堂へ急ごう」
『ふん』
短い返事だが許されたようだ。
またぐちぐちと言われないうちにたくさん食べて午後の仕事も頑張ろう。
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