第200話 領地奪還作戦
旧エンデロア王国の領地奪還作戦が開始された。
領地からすべての不死者たちを倒すことが勝利条件と言えるだろう。ヴァーミリオン軍も不死者を増やそうとしているが、トレーディの城にいるパトリシアがそれを許さない状況だ。
エンデロアの領地に不死者を増やすことができないので、徐々にではあるが拠点となる場所を奪い返している。
一番貢献しているのはフランさん率いる闇百合とカロアティア王国の黒百合騎士団だろう。元々護衛が専門の騎士団ではあるが、市街戦も得意なのか、ゾンビたちをあっという間に倒しているらしい。
それに侵攻時は朝から昼の間だから隊長格の吸血鬼にも引けを取らない。さすがに夜は危険なのだが、こちらは花火による足止めで拠点を奪い返されるようなことはないらしい。
他にも聖国の女王コルネリアが聖国の南側からエンデロア領地に攻め込んでいるし、魔国南の森林地帯からゴブリンのバウルやアラクネが攻め込んでいる。破竹の快進撃といえるだろう。
アランは聖国の中央部に一部の兵士を残して、千人くらいの兵とともに領地奪還作戦の方に出向いている。なかなか活躍の機会がなくてへこんでいたようだが、最近は暴れられるので嬉しいそうだ。
問題はエンデロア城だろう。そこにヴァーミリオン軍の幹部クラスがいる。これまでの情報から推測するとヴェールだ。
UR死の花嫁ヴェール。
全身黒の花嫁衣裳を着ている人工吸血鬼というプロフィールだったような気がする。生前は高位貴族でわがまま放題の令嬢だった。その言動が目に余り、結婚式当日に毒を飲まされて殺されたが、その副作用で吸血鬼になったとか。
とはいえ、吸血鬼としては劣化版というか、眷属を作ることはできず、あくまでも血を飲むことによる不老でしかないらしい。強いことは強いんだけど、微妙な感じではある。
そんな同情できそうでできない感じの吸血鬼がエンデロア城にいる。昼間に攻め込むらしいから、そこまで強敵にはならないと思うが、ヴァーミリオンが幹部として置いている以上、油断はできないだろう。
もしかしたら救援要請が来るかもしれないから、その準備だけはしておこう。
宮廷薬師であるスコールさんに呼ばれて砦の中にある薬品製造室までやってきた。
スコールさんは俺を歓迎すると、テーブルの上に大量の瓶を置く。
「回復薬を大量に作っておいたよ」
「ありがとうございます、スコールさん」
「ただ、エリクサーの方はもう少し時間がかかる」
「もちろんです。作ってもらえるだけでも助かります」
「パンドラ君が調合の情報を教えてくれたからね」
パンドラに言われたとおり、大量の小細工をするために色々と準備をしている。パンドラに強力な回復薬のことを聞いたら、万能回復薬エリクサーの調合方法を教えてくれた。もともと古代魔法王国が作り出した薬なので、パンドラが調べてくれたのだろう。
調合方法を知っていても作れるかどうかはまた別の話だが、それに関してはスコールさんがやってくれることになった。パンドラから教わった時の狂気的な顔はいまだに忘れられないトラウマだ。
それはいいとして、やはり作るにはそれなりの時間がかかるし、材料が希少な物ばかりだ。メリルとメイガスさん達に依頼し、パンドラたちが運送を行ってくれている最中だ。
現在でも数は少ないが作れるということでスコールさんが作ってくれているのだが、それなりの時間がかかる。そんなものが簡単にできるわけがないよな。
「そうそう、お願いされた通り、クロス君の装備や魔道具などは帝国でも調達中だ。皇帝が貴族から徴収しているようだよ」
「反乱とかされませんかね?」
「古代竜がいるから大丈夫だよ。それに徴収とはいっても対価は払っているそうだ」
「対価?」
「爵位とかそういうものだね。それに私が作った薬などを代わりに提供しているようだ。貴族は常に毒に怯えているから重宝されているそうだよ」
貴族って毒殺とか多そうだもんな。良くは知らないけど。
帝国の皇帝であるヴィクターには色々と迷惑をかけているな。宝物庫から大量の金貨を奪ってきたし。まあ、ウィーグラプセンの呪縛を解いたからそれで貸し借りなしにしてほしいところだ。
そうだ、ウィーグラプセンにヴァーミリオンの城を破壊してもらおうかな。基本的にあそこにはヴァーミリオン配下の不死者しかいないだろうし、いきなり破壊しても問題ないような気がする。
うん、あとで要請しておこう。帝国も吸血鬼に色々やられていたのだから、その復讐をするチャンスだとか言えばやってくれそうな気がする。
「ところでクロス君はエンデロア奪還作戦に参加しないのかね?」
「今のところ行く予定はないですね」
エンデロア奪還作戦に出なくていいと言われている。エンデロア城には幹部のヴェールがいるが、俺が出る必要がないくらいにメンバーが揃っているからだ。
接近戦に強いフランさんやアランがいるし、バウルやアラクネもいる。それにコルネリアやオリファスがいるからな。特にオリファスのメタトロンは吸血鬼にも有効だろう。
俺が小細工で倒す必要がないくらい強い人たちがエンデロアで戦っているんだから、そう簡単に救援要請は来ないと思う。むしろ危険なのは北側だ。
湿地帯の南側の不死者たちが減ったとはいえ、不死者たち全体の数が変わったわけじゃない。むしろ南側に侵攻できないので、北側と中央部に不死者たちが集まっていると聞いた。
ジェラルドさん達がいる魔国北の山岳地帯や、テデムたちがいる魔都、それにグレッグやアマリリスさんたちがいる聖国北の戦場ではこれまで以上の不死者たちが襲ってきたという話がある。中央部はトレーディの城が近いと言うのもあって、以前よりは減った感じではあるけど。
激戦区が北に移ったってことだから、俺はそっちにも行けるようにしておかないとならないだろう。幹部クラスが出てきたら俺がやるべきだろうし。
「行く予定がないのではなく、エンデロアの方は来ないように言われたんだね?」
「確かに言われましたね。遠慮なんかしなくていいのに」
「クロス君ばかりに負担をかけているから、休んでもらいたいのだよ」
「それを言ったら俺よりも皆の方でしょう。三年間も不死者たちの侵攻を食い止めていたんですから」
この三年間、俺は色々なところへ行って神の残滓や遺産を手に入れた。それはそれで大変だったが、むしろ毎日のように不死者たちと戦っていた皆こそ休めと言いたい……戦いが続いている以上、休めないだろうけど。
それなのに俺がトレーディを倒したから多くの人が発憤しているらしい。アランあたりは「次は俺がやってやるぜ!」とか言ってたからな。カガミさんにいいところを見せたいだけかもしれないが。
ヴォルトがいれば領地奪還も確実なんだけど、アイツは今、サンディアと一緒に聖国に入ったという吸血鬼を追っているからな。いくら機動力があっても聖国の北からエンデロアに行くのは遠すぎる。
というわけで、どこにでも駆けつけられるようにと思ったら、この中央部しかない。なので、俺はここで情報を集めながら小細工の発注をしているわけだ。
「皆も頑張っているが、クロス君が頑張っているのもみんな知っている。そしてクロス君だけがこの戦いに終止符を打てると思っただろうね。トレーディに勝ったことでそれを確信した人は多いと思うよ」
「プレッシャーを掛けないでくださいよ」
「はは、すまないね。だから休めるときには休めと皆が言っているのさ。良かったら質の良い睡眠がとれるアロマを渡そうか?」
「アロマですか。そうだ、吸血鬼だけが嫌いな匂いって何かありますか?」
「また君はそういう……しかし匂いか。人間の嗅覚と変わらないのでは?」
「何か作れます?」
「そういうのは薬師ではなく、調香師が専門だろうね。分かった、できる人がいないか探してみよう……ああ、なるほど、これがクロス君がいう小細工なのだね?」
「ええ、相手が嫌がることをなんでもやってやろうと思ってまして」
「色々な意味でクロス君とは敵対したくないね」
スコールさんはそう言って笑うと、すぐに人を探すように連絡を入れてくれた。
なんか俺が性格が悪そうな奴に思われていないだろうか。色々終わったらちゃんと訂正しておかないとな。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます