第174話 亡国の女騎士
SSR放浪騎士ミリアム。
女騎士でフランさん達と一緒にパーティを組むと、スキルの相乗効果からどんな相手もぶっ殺すと言われたほどだ。単体だとそこまで強くないし、フランさん以外と組んでもあまり効果はない。ただ、フランさんや他の女騎士属性のキャラと組ませると手が付けられなくなる。
持っているスキルは「ヴァルキリー」。女騎士属性キャラが持つスキルの効果を1.5倍に引き上げるのだが、そもそも女騎士のキャラが微妙なので、本人も微妙な評価だった。
そこに突如実装されたのがフランさん。スタータス5倍でやりすぎなのに、ミリアムがいるとステータスが最終的に7.5倍になるという弱体化待ったなしの状況になった。一時期は運営がやけくそになったとか、バランス調整していないだろと噂されていたほどだ。
というわけで、フランさんと三人娘のルビィ、サフィア、シトリー、それに聖騎士アドニア、放浪騎士ミリアムの六人パーティは運営お気に入りのパーティと言われていた。
ルビィ、サフィア、シトリーはそれぞれ、物理攻撃力、魔法攻撃力、防御力を向上させ、アドニアはホーリースラッシュで攻撃しつつHPを回復、フランさんのステータス向上にミリアムのスキル向上で向かうところ敵なしの状態となった。
女騎士ガチャが来たときは皆で回してたよな。俺も無課金でコツコツ貯めたガチャ用アイテムで祈りながら回したっけ。フランさんだけは来なかったけど。
そんな少しだけ残念な記憶があるが、そのミリアムを族長たちと会合をしていた場所に連れてきてくれた。ここは森の中でも比較的広々としているからそこまで圧迫感はないだろう。バウルとアラクネが俺の後ろに控えているからちょっと威圧的なところはあるかもしれないけど。
連れてこられたミリアムは俺の方を見ている。もしかして俺が強いかどうか見ているのだろうか。一応こっちもミリアムのことを確認しておこう。
見た目はゲームのイラストと変わらない。黒髪をおさげにしていて、肌がちょっと浅黒い。背が二メートルほどあり、俺は見上げる感じだ。騎士というよりは狩人って感じもするのだが、エンデロアの紋章が入った鎧を身に着けているので女騎士なのだろう。
知らなかったけどエンデロア王国の騎士なのか。これはフランさん達とひと悶着あるかもしれない。フランさんが一時的に騎士を辞めていたのはエンデロア王国の貴族が原因だからな。
とはいえ、今はそんなことを言っている場合じゃないはずだ。フランさんも話せば分かってくれるはず。問題はミリアムがどう思っているかだな。プロフィールはゲームで見ていたから大体わかるけど、性格までは書かれていなかったし。
「貴方がクロス殿か?」
「ええ、初めまして。貴方がミリアムさんで間違いないですね?」
「エンデロア王国で騎士をしていたミリアムだ。よろしくお願いする」
ミリアムはそう言って頭を下げた後、俺をジッと見つめた。
「貴方が私たちを人間の国へ送ってくれると聞いたのだが」
「はい。できればミリアムさんにはカロアティナ王国にいる闇百合の騎士団に所属してほしいのですが、可能ですか?」
ダラダラとやり取りをするつもりはないので、単刀直入に確認する。特に交渉が必要とは思えないし、ダメならダメですっぱり諦めよう。ミリアムがいたら助かるが、いなければいないで何とかなる……はず。
いきなり聞かれたからか、ミリアムは驚いている感じだ。しばらくそのままだったが、眉間にしわを寄せてうつむき加減になる。
「闇百合の騎士団は聞いたことがある。ただ、クロス殿は知らないと思うが、カロアティナとエンデロアには確執があった。滅んでしまった国とは言え、私はエンデロアの騎士だ。認めてはくれまい」
知っているどころか、その確執にものすごく介入したよ。でも、そう言われるとフランさん自身はともかく、三人娘たちや公爵のお嬢様あたりが許さない可能性はある。
ミリアムのスキルを知っているからこそ一緒に戦って欲しいとは思っているけど、知らない人から見たらわざわざ一緒に戦う必要があるのかと言いたくなるのも間違いじゃない。ゲームじゃないんだからスキルの恩恵が数値で見えるわけじゃないし。
「なら、向こうが認めてくれたら一緒に戦ってくれると思っていいですか?」
「それはもちろんその通りだが」
「ならちょっと連絡しますのでお待ちください」
「連絡するとは?」
遠隔通話用の鏡を取り出してからフランさんを呼び出す。多分、今くらいの時間なら食事中だろう。フランさん、食べるの早いから微妙だけど。
「クロスじゃないか。急に連絡をくれるなんて何かあったかい?」
「ちょっと聞きたいんだけど、今いいかな?」
「なんだい、何でも聞きなよ」
「エンデロアの女騎士がいるんだけど、一緒に戦うのに抵抗ある?」
「あるわけないだろ。人手はいくらあっても足りないんだ。戦う意思があるならこっちにいくらでも送っておくれよ」
「皆もフランさんと同じ考えかな?」
「当たり前だ。それにエンデロアにいた女性の騎士たちの何人かはすでにこっちで一緒に戦ってるよ。まだいるって言うなら、どんどん送ってきな!」
相変わらずのフランさんだが、ヴォルトの奴が惚れるのもよく分かる。俺としてはフランさんが作ったカラアゲだけでも評価は高かったけどね。
おっと、それよりもミリアムの話だ。
「それじゃそっちに連れて行くよ」
「クロスも来るのかい?」
「三年近くほったらかしだったからね。それにお金の方は多分メリルやメイガスさん達が稼いでくれるからもう大丈夫かなって」
「皆から聞いてはいたけど、それをクロスから直接聞けたのは嬉しいね。それじゃ急いで来な。男は女を待たせるもんじゃないよ」
「それはヴォルトの奴に言って」
その後、フランさんの笑い声が聞こえると、三人娘たちやアドニアからも笑い声とお土産に酒を持ってこいというような声が聞こえた。エルセンにいた時よりも元気なのがちょっと怖いが楽しみでもあるな。
こっちを心配させないようにとか、カラ元気というわけではないだろう。フランさんが率いている闇百合や公爵家お抱えの黒百合は不死者たちに連戦連勝で、人間の国では聖国に次いで勢いのある騎士団だ。
ビジュアル的にも絶大な支持を受けていて、騎士団は戦場の女神とか言われているほどだ。三人娘も色々なところから結婚のお誘いがあって困るとか、全く困っていない声色で言ってた。
とりあえず、問題ないことは分かった。これならミリアムを連れて行っても問題ないだろう。
「ミリアムさん、話しは聞いていたと思――うお」
いつのまにかミリアムさんが涙を流しており、アラクネが背中をさすっている。フランさんとの会話中に何があったんだ?
「あの、ミリアムさん? どうされました?」
「……失礼した。話が聞こえたのだが、エンデロアの女騎士がすでに何人かいると聞こえて涙が溢れてしまった」
「ええ、エンデロアに対して今は別に何とも思っていないと――」
「それもありがたい話ではあるが、エンデロアの女騎士団は庶民を連れて散り散りに逃げたのだ。不死者たちの攻撃から誰も逃げ延びることはできなかったと思っていたのだが、別の場所で戦ってくれていたと思うと涙が――」
そういうことか。そういえば、騎士はミリアムさんだけで、他は普通の人だとか。生き延びる可能性を少しでも上げようと、戦力を分けて逃げたのだろう。仲間達が生きていると思ったら涙腺が崩壊したわけだ。
「おーい、クロス、ちょっといいかい?」
「あれ? フランさん、どうかした?」
一度通信を切ったのだが、フランさんの方から連絡が来た。何か聞き忘れだろうか?
「そっちの女騎士の名前を教えてもらってもいいかい? 確認してくれってエンデロアの娘たちが言ってるんだよ」
「ミリアムさんって名前だけど」
「名前はミリアムだってさ――うわ、なんだい!?」
フランさんを押しのけて俺が知らない女性たちが鏡に映る。その女性たちは泣きながら「ミリアム団長!」と大きな声で叫んでいた。これは俺が鏡を持っていたら危険だ。なので、すぐさまミリアムさんの方へ鏡を渡す。
黄色い歓声という言葉があるが、まさにそれだろう。鏡を渡した途端に聞こえた甲高い声に思わず耳を塞いでしまった。アラクネやバウルも同じポーズで耳を塞いでいる。そしてミリアムは鏡を持ったまま、また涙を流した。
全員が助かったわけではないだろうが、それでも多くの仲間が生き残っていたのだろう。この歓声を聞くだけで、ミリアムが皆から慕われている人だったと分かる。
これはリアルで女騎士たちの能力が上がりそうだ。今日の不死者たちはボコボコにされるだろうな。不死者たちに同情は必要ないけど、ちょっとだけ可哀想だと思ってしまった。
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