第11話「開院記念日」

―――翌日


 孤児院への距離も近いことから、この日はギルドの前で待ち合わせることにした。社会人の基本である5分前行動を心掛けてはいるが、やはり、先にエレナが来て待ってくれている。エレナの先導のもとギルドから15分ほど歩くと、孤児院が見えてくる。敷地は外壁に囲まれたロパンドの中で、更に2mほどの壁に囲まれている。中へ入ると、庭のような広い空間に教会と大きな平屋建ての建物が二つある。学び舎と宿舎だろうか。

 敷地内を進むと、一人の男の子がこちらに駆け寄り、声を掛けてくる。


「お帰り~、エレナお姉ちゃん!」


 綺麗な金髪に、大きな瞳が印象的な、小学校高学年くらいの男の子が出迎えてくれる。


「ただいま、トキア。」


「でも、あれっ??ついさっき、出掛けたばかりだったようなぁ……。」


「うん、こちらのお兄さんをお迎えに行ってただけだから。」


「そーなんだぁ。じゃあ、このお兄ちゃんは、エレナお姉ちゃんのカレシぃ??」


「ゴホッ……、ゴホ。」


 意表を突いた質問に、思わず咳き込む。


「こんにちは。お兄ちゃんはね、エレナお姉ちゃんのお友達なんだよー。」


 とりあえず、当たり障りのない返答をする。というより、『そうさ、ボーイ。僕がエレナたんの彼氏なのさ!』などと云おうものなら、この世界のどこからか、なっちゃんのドン引きの視線が飛んでくるに違いない。そして、きっとこんな辛辣なセリフを吐かれるのだ。『おにぃさぁ、18歳未満のコに手を出すとか犯罪だよ??』厳密に云えば、この世界の成人年齢は16歳なので、セーフではあるのだが、なっちゃん的にはアウト寄りのアウトだろう。……という訳で、妹より年下の彼女は、自分にとっても、泣く泣くアウト判定となってしまう。

 一方のエレナたんも、『セバスさん、困ってるでしょ~、もぉぉっ♪』と笑顔でやんわり否定している。


「そーなんだぁ、残念。お兄ちゃん、今日はゆっくりしていってね~!」


 何が残念なのかはよく分からないが、そう云って男の子は、屈託のない笑顔を自分に向ける。


(あぁ、なんて可愛いらしい男のだろう。……じゃなくて男の子だろう。)


 心の中で、『いいよなぁ。』と呟く自分がいる。一応、名誉のためにも云っておこう、自分にショタ属性はない。将来が羨ましいという意味での『いいよなぁ。』である。成長したら超絶イケメン、人生バラ色、勝ち組の仲間入りは確定だ。それと、自分のこの見てくれに怯えないところもポイントが高い。何なら、いっそのこと、瀬葉家に家族として迎え入れてもいいくらいだ。


ガヤガヤガヤガヤッ……


 庭では子供たちが賑やかに、今日のパーティの準備をしている。


「ど~も、ど~もぉ!」


 子供たちに挨拶をしながら庭を通り抜け、建物内に入ると、エレナは自分を職員室的なところの前に連れてくる。


「今、院長を紹介しますね。ここで、ちょっと待ってて下さい。」


「……あ、はい。」


(なんて挨拶しよう……。)


 突然のことだったので、当然、心の準備は出来ていない。

 彼女は職員室の中へ入っていくと、どう見てもカタギの者とは思えない見た目の男を連れて出てきた……。


「おう、ワレがエレナの云うとった傭兵かぁ。ワシは院長のタンガスじゃけぇ。よろしゅうのぅ。」


 『あのぉ、“仁〇なき戦い”の“菅〇文太”さんですよね??僕、ファンなんです。サイン下さい!!』と思わず口から出かかる。


 ……なるほど、日常的にこの人を見ているのだから、子供たちが、初見で自分に怯えないのも納得だ。じゃあ、何故、エレナが初めて自分を見た時、あんなに怯えたのかって??……まぁ、その件は一旦置いておこう。


「初めまして。セバスと申します。本日は開院記念日にお招きいただき、ありがとうございます。あのぉ、これ、つまらないものですが……。」


 そう云って、今朝、子供たちのために買ってきた菓子を手渡す。


「おう、すまんのう。後でテーブルに並べとくけぇ。」


「いえいえ……。」


「そげんより、おっとい、エレナがえっとぉ銭を院に寄付してくれたんじゃ。お前さんのお陰でもあったんじゃろ?ありがとーのぅ。……そげにしてもワシやぁ、エレナの成長が嬉しうて。ヒック……、ぶちええ子に育ってくれたわぁぁ!!」


「……え~っと、タンガスさん?」


 よく分からないが、アニキは突然、大号泣だ。その様子を見て、エレナはにっこりと笑みを浮かべる。恐らく、こーゆー人情味溢れるところが子供たちから慕われる要因なのだろう。


「それでは、またのち程。」


 そう云って、庭へ戻ろうとした次の瞬間、アニキは自分の肩に手を回し、ドスの利いた声で囁く。


「そいから、おんどれ、わかっとるじゃろなぁ?うちのエレナば、泣かせたらぁ、ただじゃすまんどぉ。」


「ヒャ、ヒャイ……。」


 思わず、情けのない返事が口から飛び出す。


 庭へと戻ると、パーティの準備が完了している。テーブルの上には、オードブルやデザートが並び、装飾も施されている。子供たちはテーブルの周りを囲み、キラキラとした表情で、パーティの開始を待っている。そこへ院長がやってきて、簡単な祝辞的なものを述べるが、子供たちの耳にはまるで入っていない。


「そいじゃあ、乾杯!!」


『かんぱ~い!!』


チィ~~~~ン!!


 オレンジジュースが注がれたグラスが一斉に音を立てる。パーティが始まってしばらくすると、子供たちが自分の周りに集まって来る。


「お兄ちゃんは、何のお仕事をしてるのぉ?」


「え~っと、悪い魔獣とかをやっつけるお仕事をしてるんだよ。」


(まだ、始めたばかりだけどね……。)


「すご~い。じゃあ、お兄ちゃんはすっごく強いのぉ?」


「まぁ、グリーズを倒せる程度にはね。」


「おいら、知ってるよ。グリーズってこ~んなにデカいんだぜ!」


 一人の男の子が両手を広げて、その大きさを体で表現する。


「へぇ~、お兄ちゃん、強いんだねっ!」


「そういえば。お兄ちゃんは、エレナお姉ちゃんのカレシなの??」


「ゴホッ……、ゴホ。」


 不意を突かれて、オレンジジュースが気管へと流れる。


「……いやいや、違うよ。ただのお友達。」


「え~、でも、狙ってるんでしょ?」


「狙ってない、狙ってない……。」


「おいら、エレナお姉ちゃん、かなりの優良物件だと思うけどなぁ。」


(優良物件とは、何ともおませな表現なこと……。)


「そうだとは思うけど。まぁ、大人には色々と事情があってね……。」


 子供たちと会話しつつ、30分ほど経過したあたりで、今度は、エレナ先輩から裏庭へ呼び出しをくらう。新参者が図に乗っていたため、裏番長に目を付けられてしまったのだ。……という訳ではなく、恐らくは、“例の件”についてであろう。

 実は、昨日の食堂で、エレナからロッドでの戦闘について指導を頼まれていたのだ。『や、オレ、剣とか棒とかさ、扱ったことがないんだけど……。』と訴えてはみたが、『でもぉ、セバスさぁん?ワタシのためなら、なぁんでも協力するって、云ってくれたじゃないですかぁ~♪』とあざとい感じで頼まれ、どうにも断れきれなかった。


(さて、どうしたものか……。)


 ここは、記憶の片隅にある、なっちゃんの剣道の試合での雄姿と自分の厨二センスを信じるしかない。


「稽古場所として、ここなんかはどうでしょう?」


「そうだね、広さもあっていいんじゃない。」


「じゃあ、よろしくお願いします。」


 エレナはいきなり、杖を構える。


「え~っとぉ……、今から??」


「はいっ!!」


 彼女の目は本気だ。『来週からにしょうよぉ。』などとは、云えた雰囲気ではなかったため、渋々、その場に落ちていた太めの木の枝を拾い上げる。


「ワシの修業は厳しいぞぃ。さぁ、どこからでもかかってきんしゃい!!」


 ……こうして、半信半疑ではあるが、剣術ならぬ、杖術の指導が始まった。ただ、何とも困ったことに、この杖術の稽古は、今後、毎朝の日課となってしまうのである。。





※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※


タンガスさん、なかなか濃いキャラしてますねぇ~。

そして、セバス君はまさかの師範デビューです。

次話からはロパンド編も中盤へと突入していきます。

物語の流れが一気に進むので、お楽しみに!


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