第6話 まどろみ

ネジはサイカの肩を借りて、

どうにか部屋まで戻ってくる。

とろとろうとうと。

どうにもごちゃごちゃしていけない。

サイカがネジをベッドに投げる。

「うー」

「酔いがさめるまで横になってろ」

「はーい」

ネジはおとなしく横になる。

違和感があった銃のラプターや、

ケープやコートをもぞもぞして取り外す。

そして改めて、ぐったり横になる。

地酒は意外ときつい。

何という酒なのか覚えておいたほうがいいかな。

ネジはまどろみつつ、そんなことを考える。


カーン…カーン…


遠くで鐘が鳴っているような感じがする。

「誰か死んだな」

サイカがつぶやく。

「うん?」

ネジはちょっとだけ意識を持ち上げて、問う。

「教会の鐘があんなふうに鳴るのは、誰かが死んだ合図だ」

「そうなんだ」

「この町の聖職者が、きっと明日あたり弔いをするだろう」

「ふぅん…」

ネジはまどろむ。

弔うってどうやるんだろうとか、

ネジの中で疑問はあるし、

聞きたいことだって、いろいろある。

でも、なんだか眠い。

かなり酔いが回っているらしい。


サイカがラジオをつける。

音楽が流れる。

どこの音楽だろう。

金属のような、または穏やかな木のような。

ここに声を乗せてもいいかなぁと考え、

ネジは夢の中に落ちる。


歯車が回っている。

大きな歯車だ。

青白く輝く歯車。

なんとなくではあるが、

ネジはこれが喜びの歯車である気がした。

何で喜びなんだろう。

ネジはそんなことを思う。

ああ、夢の中でも記憶がないんだと思う。


たん、たん、たん


歯車がステップするように回る。

誰かがリズムを取っているような気がする。

ああ、喜びのリズムだ。

ダンスしているんだ、

走っているんだ。


なのに、ネジは、夢の中のネジは、

喜びに乗れない。

喜んでいる、楽しんでいる。

そのスピードに合わせることができない。

なんでだろう。

喜ぶことはいいことなのに、

内側が合わさってくれない。

記憶がないからだろうか。

それよりもっと根本が同じで違う気がする。


こん、こん


ネジの夢はそこで途切れる。


こん、こん


「誰だ」

サイカの声が聞こえる。

足音。

サイカがドアまで行くらしい。

ネジは身を起こした。

ふらふらするが先ほどまでよりはよくなった。


「夜分すみません、聖職者様がいると聞いて…」

「いるが、祈りも忘れている」

サイカが答える。

相手は女性らしい。そんな声がする。

若いのかもしれない。

「弔ってほしいのです、お爺様を」

「それなら町の聖職者でも…」

「弔いの銃弾がないと言われて…」

弔いの銃弾?

それはなんだろうかとネジは考える。

「中央都市に問い合わせれば、銃弾の再受付ができるのでは?」

「お爺様は、あの戦争のときにすでに銃弾を使ったと聞きます」

「なるほど、それで」

「命を殺したものは弔ってもらえないと…」

「お爺様が、罪人と同じように腐らせてしまうわけですか」

「そんなの、耐えられなくて…」

女性が言葉を途切れさせる。悔しいようなつらいような。

そして、サイカが答える。

「わかった、祈りと弔い、引き受けよう」

「本当ですか!」

女性は、はじかれたように答える。

「聖職者の祈りではないが、俺も祈りは覚えている」

「弔いの銃弾は…」

「記憶をなくした聖職者が持っている。明日教会に行こう」

「では時間は…10時に」

「わかった」


女性が去っていく気配がする。

サイカがドアを閉めた。

「とむらい?」

「ああ、その銃で行う儀式だ」

「ラプター」

ネジが先ほど自分の身から離した銃を拾う。

大きな銃。

ネジの身にとてもなじむ銃。

「俺、何も覚えてない」

「祈りの文句と手順は俺がやる」

「でも」

「お前はそのときに指示するように引き金を引け」

「あ、銃弾…」

「心配するな。すべて大丈夫だ」

サイカは言い切った。

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