第17話 

学校に到着する。

靴箱を確認してみると今度は画鋲ではなく、1枚の紙が置かれていた。

メモの用紙のようで文字が書いていた。


『雫、本当にごめん!』


昨日、いじめてきた実行犯の友人達の名前も書かれていた。

 志穂は涙を流しながらも謝ってきた。

だがこの友人達は言葉を交わして謝罪をしようとはしないらしい。

 そんな友人など必要だろうか。

これも様子見だな、と私は考えて上履きを履いた。

 教室に入るなり昨日の女子達が一斉に私の元へ駆け寄ってきた。


「雫!本当にごめん。」

「ごめん!もう2度としないから。」

「本当にごめん…」


謝って済む問題だろうか。

 冷静にいじめられていた私は考える。

1度裏切られた人を信用するという行為はとても難しいものだ。

 この女子達…もとい友人達には少し、恐怖というものを味わってもらう必要だなと考えた私は問題の友人達が靴箱の中に置いた紙を見せる。


「こんな紙切れ1枚で許されると思った?」


ボウッと炎で紙が燃やされる。

 術で燃やしただけなのだが、その瞳があまりにも死んでいたからなのか友人達は怯えていた。

 なんて脆い生き物なんだろうと冷たく思う。


『誠意を見せるなら玄関前で私を待っていればよかったのに。まぁ、いいよ。信用回復頑張ってね。後ろでビクビクしてる志穂も』


あくまでも冷静なままで私は自分の席に着いた。

その日から何故か男子から視線を感じるようになった。


お昼。


「雫。お弁当、一緒に食べよう?」

『…いいよ』


 志穂と共にいつも昼食をとっている場所へと向かう。

終始、私は無言。

 特別話すことがないからだ。

志穂はまだ怒っているのだと勘違いをしているかもしれないけれど、私はもう怒っていない。

恐怖という名の制裁も加えたし、怒る理由はもうなかったのだ。

 単に陰陽師の一面を見せていなかったというだけの話。

私にとってこの態度はとても自然なことだった。

 今回のことで志穂のことに配慮していたことがバカバカしくなっただけだ。


「今日も美味しそうだね」

『不味かったらお手伝いさんなんてできないでしょ』

「そ、そうだね」


制裁はきちんと効いているらしい。

 あれだけのことをしたのだ。当然の末路と言えた。

 私は全く気にも止めていなかったが、志穂は内心まだビクビクさせていたのがわかった。そのままお昼の時間は終わった。

今日もお弁当は美味しくて幸せだったというくらい何も気にしていなかった。



 放課後。


「雫、一緒に帰ろう!」

『うん』


志穂といつもの友人達と含めて私は一緒に帰ることになった。

 今日も陰陽寮にて仕事がある。

あまり楽しく話をしている時間はなかった。

 声が出ない私は大抵は聞き手役というのが多い。

式神を通して感情的に声を出すことは可能だが、性格的にも聞き手役の方が私には合っていた。

 でも、とふと思う時はあった。


自身の声で自分の気持ちや言葉を伝えられたらどんなに良いかと。

自分の声を出すってどんな感覚なのだろうと。


 けれど人魚に呪われてしまった女性の呪いを受けている私は、諦めが早いためにそのことを何とも思ってはいなかった。

 声が出ないから何だというのだとバカにしてきた人物たちには思っていた。

別れ道が見えてくる。

 私は急ぎ足になりながら友人たちに告げる。


『私、仕事があるから急ぐね。じゃあまた明日』

「うん。またね。」

「またねー!」


それぞれ別れの言葉を言ってくる。

 その言葉に怯えはもう含まれているようには感じなかった。

また明日から普通に学校生活を送れるのだろうか。

 期待することを辞めてしまった私はあくまでも冷静に思っていた。

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