第4話 

翌日。


「おはよー!雫」

『おはよう。美穂』


 中等部からの親友の坂田美穂がいつもの合流地点で待っていると話しかけてきた。

私とは違い、明るい雰囲気の持ち主で髪型は黒髪のショートカットだ。

 美穂が明るい性格のおかげで私は普段の学校生活を普通に過ごすことができていた。

 美穂には家族の事や一族の事は言っていない。

明るい彼女の顔を暗くはさせなかったのだ。

 特異体質という事と声が出ないので式神で話させている陰陽師ということだけは知っている。

中等部に進学した時に初めて話してみたのだ。

 これからも友達としていてくれるなら特異体質くらいは話をしておきたかったのが理由だった。


「痛いものは痛いよね。普通の人と変わらないよ。自分の声が出ないのも辛いでしょう」


当時、私がその言葉に救われたのを美穂は知らないだろう。


普通の人。


そんな言葉、兄ちゃん以外に言われたことなどなかったのだから。

だからこそ美穂に何かあれば自分の全てを賭けてでも守ろうと誓っている。

嘘でもいい。優しい言葉をくれた大切な親友なのだから。


「見てみて!今月号も表紙になってたから思わず衝動買いしちゃった」

『好きだねぇ。烏丸遼のこと』

「雫は幼馴染だからそう思うんだよ!実際にお目にかかることがない私たち一般人にとってはそれは殿上人のような人だよ」


 いくら何でもそれは夢を見過ぎのような、と苦笑する私。

モデル業の中でもトップの座にいる兄ちゃんは雑誌の表紙を飾ることが多い。

 この親友は見事にモデルという職業独特の色気にやられてしまって、どハマりしているのである。

 実際、どんな人物なのか問い詰められたことがあったのでそのままを話をしたことがあったけれどギャップというものにやられたらしい。

ますますハマってしまったというのが現状だ。


「そういえば、さ。烏丸さんに好きな人っているの?」

『さぁ?わからないな。聞いたことないよ』

「そう、なんだ」


美穂の顔は少し頬が赤く染まっていた。

それに気がついた私は心配しながら、『熱でもあるの?顔が赤いよ?』と尋ねた。


「何でもないの!平熱だよ。平気平気!」


顔が赤いのに平気ってどいういうことだろう。

私には親友の言動が理解できなかった。


昼休み。


「はい、だし巻き卵!」

『ありがとう。いただきます』


 屋上で美穂と昼食をとる。

 私はお手伝いさんに、両親に1度もお弁当を作ってもらったことはない。

いつもコンビニ飯だ。別に私はそのことに虚しくは思っても傷ついたことはない。

 そんな私の食事事情を察したのか、私の分まで余計におかずを美穂は用意してくるようになったのである。

 最初こそ私は遠慮していたが、美穂が強引にでも食べさせてこようとするので珍しく折れたのだ。


『おいしい。美穂のお母さんすごく料理が上手だね』

「それ聞いたら調子に乗るから言わないでおくよ」

『いや言ってよ』


これが母の味ってやつだろうか。

私が知らない家族の味。

平気と思っていても少し、虚しい気持ちになった。


「見て見て!雫!これが烏丸遼の雑誌!」

『あー…なんかそれ撮るの大変だったらしいよ』

「え?そうなの!もっと裏話聞かせて!」

『いや、それ以上は聞いてない。興味ないし』

「雫のケチー」

『そう言われても』


 美穂からもらったおかずとコンビニのおにぎりを食べて言う。

兄ちゃんから愚痴を聞かされただけの話なのでほぼ聞き流していたのである。

 モデルという職業に興味がないので聞いていなかったのだ。

だが親友が興味がある人間ということをその時はすっかり忘れていた。

 きちんと聞いとくべきだったな…と私は後悔した。


「今度はきちんと聞いておいてね」

『覚えていたらねー』


簡単にそう答えた。

その返事になんだか親友は不満げだった。


 1週間後。

兄ちゃんが百済の家に来る日がやってきた。

私のスマホに今日来る旨の話がメッセージアプリに来たのである。

別に家族には知らせていない。


ピンポーン…


インターホンの音が屋敷に響き渡る。

私はすぐに兄ちゃんが来たのだと分かった。

恐らく自分には関係のない話だと思い、部屋に篭っていることにする。


「馬鹿な子。貴女、烏丸遼が来ることを知っていたのね」


母親の声がする。久しぶりに聞いた気がした。けれど私には関係ないことだ。

私は無視を決め込んだ。


「鬼天狗様がお呼びよ。来なさい」


(え?私に関係ある話だったの?兄ちゃん)


意外なことの話で少し私は戸惑った。

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鬼天狗の花嫁 天羽ヒフミ @hihumi6123

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