お披露目

第9話 

 朝食を済ませた私は学校に行く準備をした。

通学路は今までとは違うが、歩き慣れた道に変わりはない。

行ってきます、と式神に言わせると兄ちゃんが見送りをしてくれた。


「行ってらっしゃい。今日はお披露目あるからね。あと、お友達にきちんと話す事」

『はーい。行ってきます』


こんな穏やかな気持ちで学校に行ける日が来るとは思ってもいなかった。

朝、学校に辿り着くまで何をされたとか考えない日が来るとは。

何をされたではなく何をしてくれたかを考えていた。

小さな幸せを1つ1つ噛み締めながらいつもの通学路まで行った。


「おはよー雫。あれ、今日来る方向なんか違うね?」

『うん。住む場所が変わったんだ』

「へー。何があったかお昼に聞いても?」

『うん。私も話したいことがあるし』

「そっか。じゃあ決まりね」


 百済の一族に受けていた仕打ちを志穂には話をしていない。

これから先も言うつもりはなかったが、鬼天狗の花嫁となるのなら言わなくてはならないことなのかもしれない。

 少し、重い気持ちで志穂と話をしながら向かう。

大切な友人に暗い顔はさせたくなかった。


 お昼休み。


「うわー。綺麗なお弁当箱じゃん!」

『うん。自分でも驚いている。お昼まで開いちゃダメだって言われてたから』


 煌びやかに輝いて見えるお弁当箱。

派手というには言葉が過ぎるがとても綺麗な漆黒のお弁当箱だった。

 そっと開けてみると、志穂などがよく食しているだし巻き卵など定番なお弁当料理が沢山入っていた。私は烏丸一族の気遣いに感謝した。

 当主命令だったのかもしれない。

それでも、こんな当たり前のようにお弁当が食べれるということに私には感激という感情しかなかった。


『い、いただきます…』

「雫の分のおかずいる?」

『うん、食べたい』

「欲張りさんだなぁ」


そう言って志穂は笑う。

一方、言われた私は生まれて初めての手作り弁当を緊張しながらお弁当を口にしていた。


『美味しい…』

「良かったねぇ」

『うん。良かった』


ゆっくりと味わいながら食べる。

香ばしい肉の香りや舌に広がる独特の甘い卵などを感動しながら食べいてた。

そんな様子を志穂は嬉しそうに見ている。


「幸せそうに食べるね」

『うん。本当に幸せだから』


 そう言いながら私は食べ進める。

美味しくて箸が進むのが止まらなかった。

 やがて食べ終わると、『ごちそうさまでした』と綺麗に手を合わせて昼食を終えた。

志穂もその頃には自分の弁当を食べ終えていた。


『志穂。あのね、話があるんだ』

「朝に言ってたね。どうしたの?」

『まず、鬼天狗のことについて話さなくちゃならないんだけど』


 一般人である志穂には鬼天狗のことは知り得ていない。

せいぜい妖が普通に暮らしている程度の情報しかないのだ。

 だから、基本的な説明から必要だった。

志穂にも分かりやすく説明するようにする。

 すると、志穂はどんどんと暗い顔をするようになってきた。


『志穂?』

「なんでもないよ。鬼天狗のことについては話はよく分かったよ。それで雫はどうなるの?」

『…私は今日、正式に烏丸一族にお披露目される。将来、結婚するの』


 その言葉を聞いた途端、志穂は俯いた。

兄ちゃんが話をした方がいいからと私は志穂に話をした。

 何か間違えたことを言ったのだろうか。私は不安に思う。


「烏丸…もしかして、あのモデルの烏丸遼?」

『そう。よく分かったね』

「………。」


志穂は黙ったままスッと立ち上がった。

そして私を見下ろす。


「あんたって本当に馬鹿だよね。」

『…え?』


 見たことのない志穂の怒りに満ちた瞳。目が見開いていた。

 親友の見たことのない表情に言葉が出ない。

何が起こっているのさえ理解が追いつかない。


「私が、どう思ってるのかなんて、本当にわかってなかったんだね…!!!」

『志穂?何を言ってるかわから』

「声が出ないくせに話しかけてこないでよ。」


 まるでそれは百済の一族が投げかけてくるような言葉で。

そんな言葉を親友から聞きたくなくて。

 私は身体が固まった。


「だから嫌なんだよ、あんたのこと。」


 そう言って志穂は弁当を持ってそのまま私を置いて行ってしまった。

志穂の背中を黙って見届ける。

 親友が一体何に対して怒っているのか、まるでわからなかった。


(こんなことになるなら言わないほうが良かったんじゃないの…?兄ちゃん)


 何故、兄ちゃんがわざわざ自分との結婚のことを言えと言ったのか考えが追いつかない。

こうなることを予想していたような言い方もしていたような気がする。

 ぐるぐると頭の中が巡りに巡って混乱してしまう。


(昼休み、終わる…)


私は重い気持ちのまま、弁当を片付けてその場を後にした。












 






































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