罪人たちの英雄譚~イセカイノツクリカタ~
透谷燈華
プロローグ バトン
時計の短い針が8の文字に触れようかという頃、本来ならもう眠くなっているであろうその少年はとても興奮していた。
一体何が無垢な少年の胸をそこまで駆り立てているのか?
答えは、彼が今日図書館で借りてきた「えいゆうたん」にある。
まだ自分で読むのも難しいような本だが、ベッドに入ればお母さん、いや”母”が読み聞かせてくれるのだ。
もう夕飯はおろか歯磨きまで済ませ、待ち切れずに母を呼ぶ。
「お母さんはやく、はやく読んで!」
言い終わって自分が幼いことに気づいた。
いけないいけない、と思い直す。
もう子供ではないのだ。
「はいはい、ちょっと待ってね~」
母親はエプロンを外し彼の横に腰かけた。
「でも、なんでこの本にしたの?いつものよりかなり難しいよ?」
母親は暗にまだ早いのでは、という意図を込めて少年に問いかける。
「もう僕も子供じゃないんだから、いい加減絵本はやめないとね」
「確かにこの本全部読めたらだいぶ大人っぽいかもね~」
そう、彼がこの本を選んだ最大の理由はそこにある。
おそらく彼の幼稚園の友達は誰も読んでいないであろう文字だけの本。
読んでもらう、とはいえ彼のような年頃の子供には少し特別な優越感、「おとなのあかし」を与えてくれる存在だった。
しかし、なぜ彼は「大人」にこだわるのだろうか。
「僕ももうすぐおにいちゃんになるからねっ!」
「あらあら、頼もしいお兄ちゃんだこと。」
もうすぐ生まれてくる妹のため。
そんなほほえましい親子の会話ののち、母親はゆっくりと、その本を読み始めた。
「これは、遠い遠い昔の物語…
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