厄介ストーカー参上!!
「あの人です、今ちょうど誘拐しようとしています!!」
という声が聞こえ、足を止め後ろを振り向くとそこには、40後半はいっているやつれたおっさんと警官らしい格好をした若い女性がいた。
「それっておれのことか?」
周りを見渡したが、四人以外誰もいない。もしかしたら、勘違いしてるのかもしれねぇなと思い、一応確認してみた。
「そ、そうに決まってるだろ!お前以外にだれがいるっていうんだ!」
「だったらそれはかんちが……」
「ひぃーーー!来るなーー!警官見てました?今殴ろうとしてましたよ!」
「は?」
勘違いだと指摘しようと近づくなり、そのおっさんは大げさに怖がると、俺を指さしながらそんなことを言った。
「は、何言ってんだ?」
「そ、それはこっちのセリフだ。い、今誘拐しようとしてるところをちゃ、ちゃんと見たぞ」
「はぁ、そっちの勘違いだし、もう学校まで時間がないから行くぞ。」
朝っぱらからめんどくさそうなやつに絡まれたなと思い、早く逃げようとしたのだが
「逮捕されそうになったからって逃げるんじゃない!さっさとその幼女を下ろして逮捕されろ!」
「っ……!!」
今度は強気に押してくるストーカーにイラついて切れそうになった時、腕が…いや、正確に言えば唯華が小刻みに震えていることに気づいた。
何とか切れる前に落ち着くことができ、話し合おうとした。
「そういう言いがかりはやめろよ、おっさん」
「誰がおっさんだ!」
「どっからどう見たっておっさんじゃねぇか」
「まだ30前半だ!」
やつれた顔や少し薄くなってる頭を見て、マジかと思ったがそんなことは関係ない。
「そんなんどっちでもいいだろ。こいつが怖がっているのが見えねぇのか?」
「それはこの娘が誘拐されそうになったからだろ。さっさとこちら側に渡せ!」
「ち、ちが…う」
唯華もおっさんの言葉に小さな声で反論していたが、その声はおっさんに届くことはなかった。
何言ってもこっちの言い分を聞こうとしないおっさんに嫌気がさしていると、やっと今まで道のわきで何か違うことをやっていた警官が入ってきて、
「どっちが正しいかわからないから、とりあえずその子を下ろしてあげろ。」
といわれた。
「わかりました。」
本当は震えている唯華を離したくはなかったのだが、警察のいうことに逆らったらどうなるかもわからないので、嫌がってる唯華をなだめながら、ゆっくりと下した。
「よし、じゃあとりあえずお前から事情徴収していくから、おっさんはその少女のことを少し見とけ」
「ちょっと待ってくれ!(俺はおっさんじゃない!)」
この怪しさ満点のおっさんと唯華を一緒にさせるのは嫌だったので反論したのだが、ちょうどおっさんというタイミングが重なり見つめあってしまう。
その様子を見た警官はため息をついて
「お前はどっからどう見ても見た目おっさんだし、大体名前知らないから、見た目で呼ぶのが一番だろ。そして、お前…ヤンキーのほうはなんか問題でもあるのか?」
その返答に言い返せない様子のおっさんを無視して、俺は警官に答えた。
「すんません、俺から見たらこのおっさんただの不審者にしか見えないんすよ。そんな人に唯華と二人っきりにするのは気が引けるんで、できれば唯華と一緒に事情徴収を受けたいんすけどダメっすか?」
すると、警官は少し考えた様子をして、
「いや、すまない。やっぱりだめだ」
「な、なんでです……!」
その言葉を遮って、警官は言葉をつづけた。
「まず、私からしたらどっちが正しいかわからない。もし、お前が誘拐犯だった場合、一緒に事情徴収を受けたら、それがこの子にとって脅しになってしまう場合がある。そして、もしあのおっさんが犯人だった場合だとしても、この場で変なことをすることはできない。それでも変なことをしだしたら、私がすぐに逮捕してやる。」
そういって、警官はおっさんのほうをにらみつけた。おっさんのほうは「ひぃぃー!」とか言って怖がっていた。
「わかりました。でも心配なんで、できるだけ早く終わらせてください。」
「了解だ。早く終われるよう努力しよう。じゃあ、早速事情徴収をするからこっちに来てくれ」
そういって、警官が後ろを向いた瞬間ガッツポーズをしたおっさんが目に入って、俺はいち早く終わらせないとな、と思った。
ぎり俺たちの声がおっさんに聞こえないくらいのところに移動して、事情徴収が始まった。
「じゃあ、まず私たちが来るまでの流れを教えてもらっていいか?」
「えっと、いつもあいつ……名前は唯華っていうんすけど、唯華はいつも学校ある日は俺が登校してくるのをここの交差点で待ってるんすよ。」
「それは、その子の親に学校まで送ってもらうように頼まれたのか?」
「いや、そういうわけじゃないんすけど、唯華の親も知ってるので確認してもれればわかると思いますよ。」
「そうか。でも、通報があってからある程度時間がたっているはずだが、ほとんど移動してないみたいだけど、どうしてだ?」
「ずっと、唯華と話してたんすよ。」
ナイフ持ってきたから注意してたとか言えるはずがないのでもちろんごまかした。
「じゃあ、私が来たとき少女を抱え上げてたのは?」
警官はメモ帳に書き込みながら、質問してくる。態度から警官ぽくなかったきちんと仕事してんだなぁとかどうでもいいことを、あのおっさんが唯華に何もしてないか監視しながら考えていた。
ちなみにおっさんは色々唯華に話しかけているようだが、ガン無視して俺のほうを向いている。少しおっさんがかわいそうになるくらいだ。
「唯華と話していたら、学校までほとんど時間がなくなってしまったので間に合うように抱っこして走ろうとしていたすよ。」
そういうと警官はにやにやとした笑顔を見せて、唯華のほうをちらっと見ると俺のほうに視線を戻してきた。
「なるほど、なるほど」
「なんスカ」
「いやいや、抱っこするのはいいけど落とさないように気を付けるんだぞ」
にやにや見てくる警官にちょっとした苛立ちを覚えていたが、あることを思い出し俺は急激に顔が青ざめていった。
ちょっと待て、そういえばあのナイフカバンに入れっぱなしだ!
いや、警官から見て俺はだいぶ白いはずだ。
カバンの中身までチェックされることは……
「じゃあ、最後にカバンの中身だけ見せてもらうぞ?」
と、警官が言ってきた。最後にという言葉が聞こえた瞬間おれはっ心の中でガッツポーズを上げたが、崩れ落ちた。
「あの……カバンの中身までは……」
「気にするな。軽くしか見ないからエロ本とか入っていても気づかないし、見えてもそれをとやかく言うつもりはない。」
いや、違うんです。ナイフが入ってるんです。引っ込むおもちゃだけど…。
しかも、あの時てきとうに入れたから一番上に。
おもちゃだと弁明しても子供はそれがおもちゃだと気づかないから、俺が脅すために使った可能性があると勘違いされるかもしれない。
唯華からの話を聞けばわかるかもしれないが面倒になることは確実だ。
俺がかばんを渡すのをためらっていると、
「早くしろといったのはお前だぞ。さっそとみせろ。」
とカバンを取り上げられた。警官はカバンを開けると、少し目を見開いてナイフを取り出した。
そして、そのナイフの刃を押して引っ込ませたり、一通り見まわしたりすると、カバンの中に戻した。
俺が戸惑っていると、
「事情徴収は終わりだ。今度はあのおっさんを呼んで来い。」
といわれた。
「えっと、このナイフについてはないも聞かないんすか?」
「なんで聞く必要がある?」
「え?だって、誰でも引っ込むナイフなんか持ってたら気になりますよね?」
警官の態度に困惑しながら、この質問しなかったほうが良かったかなと後悔と戸惑い半分の気持ちでいると、警官は鼻で笑った。
「ふん、そうだな。しかし、そんなかわいい文字で名前を書かれて、ハートのシールまで張られていれば、誰の持ち物かは一目瞭然だ。しかも、二人の様子的に嫌がっているのを無理やり奪ったというわけでもなさそうだ。どうせ、学校に持っていこうとするから、心配して預かったんだろ。」
「そうっすけど」
俺は何でも見透かされているような気がして、少し恥ずかしくなり目をそらしながら、軽く返事すると、警官は今度は顔に笑顔を浮かべた。
「なら、これ以上聞く必要はない。ほら、唯華ちゃんがお前が戻ってくるのを待ちぼうけにしているぞ。」
「ありがとうございます。」
そして、唯華の元に戻ると唯華は勢いよく俺に飛びついてきたと思うと、顔をあげ、頬を膨らませ
「遅い」
と文句を言いそれに対して、俺は「悪かったな」と答えるのだった。
それから、おっさんは俺にしがみついている唯華を横目に寂しそうに警官のもとに事情徴収を受けに行き、10分くらいたって警官とおっさん一緒に戻ってきた。
「じゃあ、これで事情徴収は終わりだ。」
「唯華の事情徴収はしなくていいんですか?」
「今聞いた情報からお前は誘拐しようとしたわけではないと判断した。つまり、このおっさんの勘違いってわけだ。ほら、なんか言うことあんだろ」
警官がおっさんのほうを見ると、おっさんはおびえた感じでためらいながら頭を下げた。
「すいませんでした。」
そういうと、おっさんは逃げるように去っていった。
「本当にありがとうございます。」
「気にするな、あぁ、もしかしたらあのおじさんまたストーカーしてくる可能性があるから、その時は呼んでくれ。」
「わかりました。」
「私の名前は灰原あかりだ。一応、名刺またしておくから、この電話番号にかけてくれ。110番すると違う警官が来て余計面倒くさくなる可能性があるからな」
「本当にありがとうございます。」
その言葉にうなづき、警官は後ろを向き戻ろうとしたとき
「あ…あの!……ありがとうございます。」
その声に警官は振り返った。小さい声だったがしっかり頭を下げて、お礼を言う唯華を見て、警官……あかりさんは唯華の前に立ち、膝を曲げて目線を合わせ、微笑んだ。
「ああいう変な人は気を付けるんだぞ」
「うん」
「あと、いいお兄ちゃんだね」
「お兄ちゃんじゃない!」
さっきまでおとなしかった唯華がいきなり大きな声を出し否定したことにあかりさんは驚いたような顔をしたが、再び微笑み、
「そうか。じゃあ、何かあったらいつでも私を頼ってくれ。」
そう言って、口を唯華の耳元に近づけた。
「あと…好きな人を捕まえられるように頑張ってね」
「……!!うん!」
笑顔でそう答える唯華を見て、警官は去ろうとして、振り返った。
「あ、そういえば、忘れてた。ここについてすぐ学校に連絡入れてしまったから、なんか個別で聞かれたりするかもしれない。一応、こっちから勘違いだったっていうことは伝えておくが」
「わかりました。」
「じゃあ、気をつけてな」
「ありがとうございます。」
時間を見ると、もうすでにHRが始まってから30分近くたってしまっていた。
「もうどっちみち遅刻だし、ゆっくり歩いていくか」
「うん!そうする!!」
「で、最後あの警官はなんていったんだ?」
「ひみつ!」
そんな会話をしながら俺は唯華と手をつないでゆっくりと学校へ向かったのだった。
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