第27話 魔王様の誓い
「………はっ!」
ポン、と眠りが途切れ、一気に意識が浮上する。
ぱっと目が醒めた僕は、緻密な絵が描かれている天井を見上げ物凄く混乱した。
この天井画……。ここ、魔王様に頂いた僕の部屋だ……。
ーーえっと、何が起きたんでしたっけ?
魔法陣でユオ様に王宮に移動させられた事も、殿下とお会いして『抱けんこともない』とかキモチワルイこと言われた事も……。
「夢、じゃないですよね?」
「ーー何が夢だ?」
囁きが耳を擽る。
ぱっと隣を見ると、寝起きらしい魔王様が気怠げな様子で僕を見ていた。
うわぁ〜……、寝起きの魔王様なんて、レアですよ、レア!!
普段はキリッとしていて、凛々しく勇ましいイメージの魔王様だけど、目醒めたばかりの物憂げな様子は退廃的な色気が漂っていて正視に堪えない。
思わずそろりと視線を逸らす。すると魔王様の腕が伸ばされ僕の頬に掌を当てると、目を逸らすのは許さないとばかりにグッと力を籠めてきた。
「えっと……おはようございます?」
「ああ、おはよう」
観察するように金赤の瞳が僕を見据える。
今まで気付かなかったけど、どうやら僕は魔王様の腕を枕にして寝ていたっぽい。
だから、もう片方の手が頬に当てられている状況は、まるで腕の中に囲われてるみたいで、僕は一気に恥しくなってしまった。
「顔が赤いな。熱があるのか」
頬を覆っていた掌がそろりと移動して前髪を掬い上げる。そしてコツンと僕の額と自分のそれを合わせてきたんだ。
目の前にっ!目を閉じた魔王様の秀麗なお顔があるっ!!
意外に睫毛か長いなぁと見惚れていたら、ふっと目を開けた魔王様と視線があった。
「熱はないな。傷はどうだ?痛むか?」
「傷?」
僕は首を傾げた。そして自分の身体を見下そうと、魔王様の胸に手をつき間を空けようとして……。ズキリと身体の内部に響くような鋭い痛みが胸に走り、僕は顔を歪めた。
「あ………つぅ………っ」
「まだ完全には癒えていない。無理をするな」
ズキズキと痛む胸を押さえて身体を丸めた僕を、宥めるように抱きしめ優しく背中を擦ってくれた。
その労るような抱擁に、痛みで強張っていた身体から力が抜けていく。
ふぅ……っと息をついてから、そろりと顔を上げた。
「あの、一体何が……?」
記憶が断片的すぎて、僕の身に何が起きたのかよく分からない。
ただ魔界に行けばいいって殿下が言ったのに、ユオ様が僕を呼び戻したのは場所は王宮内だった。
王宮内で魔法を使うには厳しい制限がかかる。
なのに、転移の魔法陣の座標は王宮内に指定されていたんだ。
……ということは、王族の誰かが僕を人間界に戻したかったんだと思う。
「何で僕を呼び戻したのでしょうか?」
「成り損ない」と散々貶めていた僕を今更必要とする意味が分からない。そんな僕に魔王様はゆるりと甘い微笑みを見せてくれた。
「……知りたいか?」
柔らかな問にコクリと頷く。
今までの僕は、
でも、あの時。あの最後の瞬間に気付いたんだ。
魔界に、魔王様の側に居たいと思うなら、自分の人生を取り戻さなきゃダメだって。
ーーだから、知りたいんです。
じっと金赤の瞳を見つめていると、魔王様は優しく僕の髪を梳いてきた。
「オマエが望む事を妨げる事はできない。レイル、オマエが知りたいと願うなら、全てを話そう」
甘い睦言のような囁きが響く。
「だが、それは今じゃない。オマエが今する事は、傷を癒やし体力を回復させること。全てはそれからだ」
「……本当に教えてくれますか?」
「勿論」
疑わしげに眉を顰めると、魔王様は可笑しそうにくつくつ笑い声を洩らした。
「海の水が全て干からびる事がないように、天の月が空から無くなる事がないように、俺がオマエに嘘偽りを告げる事はない。もし俺がオマエを裏切るような事があれば、その時は自分の胸を掻っ捌いて心の臓を捧げよう」
心の臓を捧げる。
それは長い時を生きる魔族にとって、最大級の誠意の表し方だ。そんな大事な言葉で誓ってくれたんだ。
今まで知らずにいた事が何なのか、少し怖くはあるけど。
魔王様の誓いの言葉で、その怖さもキレイになくなってしまう。
その気遣いが嬉しくて、僕はそっと魔王様の胸元に額をくっつけて、スリスリと甘えるように擦り付けてしまった。
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