第237話 先輩たちとランチ

 食堂に戻ると夜の九時になっていた。


 G20の首脳会議は日本時間で夜の十時からだから、あと一時間くらいだね。

 杏さんは昼前から、首相官邸に呼ばれて、アメリカとの事前会議にも参加させられてるそうだ。

 事実を知る人が増える事を懸念した藤堂首相の判断でそうなったんだって。


 退職の意思は伝えてあるけど、今はまだ半官企業であるダンジョン協会の職員だから、こんな時は断りづらいっていうのもあるのかな?


 三人でお風呂に入った後で、希と日向ちゃんは早々に自室に引き上げた。

 私は日課の魔道具とスキルオーブの作成をしながら時間をつぶしたよ。


◆◇◆◇


 ニューヨーク時間の午前九時に始まった首脳会議は、結果として一時間ほどで終了していた。


 深夜十二時前には杏さんも食堂へ帰ってきた。


「お帰りなさい杏さん。遅くまでお疲れさまでした」

「ただいま、心愛ちゃん。こんな時間まで起きてたの? 明日も学校でしょ」


「会議がどうなったか気になって眠れませんよー」

「心愛ちゃんの立場だとそうだよね。でも会議はね、G20の首脳が集まって話したからって、そう簡単に決定できるような内容では無いから今日の所は何も決まらなかったって感じだよ」


「そうなんだぁ、でも他の国の大統領とかの反応はどうだったんですか?」

「そうだねぇ、感情的になって騒ぎ出す人は流石にいなかったけど、それぞれに深刻な表情で考え込んでいたよ」


「どうなるんですかね?」

「三日後にもう一度意見を出し合う事にして今日の所は終わりだったけど……昨日ロジャーが言ってたじゃない? 超国家の多国籍軍。それが一番現実的なのかな?」


「やっぱりそうなるのかなぁ? でも、色々な国の人を纏めるのって、とても大変そうですよね」

「だと思うよ。でもゼウス様ってどこにいるのかとか全然情報も無いんだよね?」


「そうですね、今の所はまったく情報は無いです。この間社長とも話したじゃないですか。神様を名乗っている人たちの本音がなにかわからないと、対処方法も全くおもいつかないですよね」

「ゼウス様のヒントだけでも手に入ればいいんだけど」


◆◇◆◇


 次の日に学校に向かっている時に、バスで河合先輩に声をかけた。


「河合先輩おはようございます」

「心愛ちゃんおはよう」


「先輩のクラスで薬師を取得している人を紹介してもらえませんか?」

「うん、大丈夫だよ。お昼休みの時に3のAの教室に来てもらえたら紹介してあげるよ」


「ありがとうございます。ではお昼休みにうかがいますね」


 お礼を言ってその場は別れた。

 サオリンが聞いてくる。


「心愛、薬師JOBの先輩に何か用事なの?」

「うん、ちょっと作れるかどうか試してほしいのが出来たからね。私だけが作ってたんじゃとても流通させる事は出来ないから、先輩たちに同じものが出来るか試してほしくてね」


「そうなんだ、それって内緒な感じ?」

「あー、あんまり考えてなかったなぁ。社長に相談しなきゃちょっとまずいかも」


 もし成功したら成功したで、結構大きな問題になりそうなのでとりあえずは、顔つなぎをしてもらうだけにしよう。


 お昼休みの時間になり三年A組に向かうと、河合先輩が教室の前で待っていてくれた。


「お昼休みだから、ごはん食べながら紹介するね。食堂に行こう」

「はい、了解です」


 河合先輩の外に女性二人、男性一人の先輩たちと食堂に向かった。


「二年生の柊心愛って言います。今日はお昼休みに時間取っていただいてありがとうございます」

「心愛ちゃんはもうこの学校でも、すっかり有名人だから、みんな心愛ちゃんが会いたいって言ってるって伝えたら大喜びで来てくれたんだよ」


 自己紹介をすると河合先輩がそう伝えてくれた。


「俺は佐藤隆さとうたかしだ。よろしくな」

光田多香子みつだたかこです。よろしくね心愛ちゃん」

桜華さくらはなです。ダンチューブ見てるよー。今度心愛ちゃんの手料理食べてみたいなー」


「よろしくお願いします。早速なんですけど先輩方は、それぞれ薬師のJOBを取得しているって聞いて、河合先輩にお願いして紹介していただきました。少しJOBの事を教えていただきたんですけど構いませんか?」


 三人とも頷いてくれたので、早速質問をさせてもらった。


「薬師のJOBで作ることが出来る薬なんですけど、どんなのが出来るんですか?」


「今の所は、ポーションかキュアポーションが出来ているね、ランクはほとんどが1なんだけど、稀にランク2や3が出来る事もあるって感じだね」

「それって薬の種類を変えたらランクが高いのが出来るとかじゃなくて、同じ作り方でたまに高ランクの薬が出来るって感じなんですか?」


「そうそう、結構失敗も多いから労力に対しての収入って考えたら特別に高いわけじゃないよ」

「JOBのレベルが上がれば確率が変わったりするかもしれませんね」


「そう思って頑張ってるんだけど、JOBレベルって中々上がらないよね。なにかいい方法は無いのかな?」

「恐らくなんですけど、狩りでの経験値とJOBによるポーション作成の成功率で変わってくると思いますから、運の数値を高めに調整する事がおすすめです」


「そうなのか? それは凄い参考になるぜ。ありがとうな柊」

「みなさんに、今度少しお願いしたい事があるんですけど、協力してもらえませんか?」


「ねぇ、それってD-CANの事業に関係するような事?」

「そうですね、まだ詳しくは言えないんですけど、成功すればそうなる可能性が高いです」


「すげえな、D-CANに就職とかできたら将来安泰になりそうだ。勿論協力させてもらうよ」

「私も協力します」

「勿論私も」


「みなさんありがとうございます。近いうちに連絡させてもらいますので、連絡先の交換お願いしてもいいですか?」


 そう言って、先輩たちと連絡先を交換して今日の所は別れた。

 河合先輩が最後に聞いてきた。


「心愛ちゃん。私の裁縫士のJOBスキルが生かせるようなのも何かないのかな?」

「そうですね。なにか考えてみますね。その時は河合先輩も協力お願いします」


「よろこんで!」

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