第219話 クリスマスホーリーの強化①

 魔法陣の発動を確かめた後は解散して食堂に戻ってきた。

 夜の九時頃になっていたけど、まだ杏さんは食堂でニュース番組を視ていた。


「お帰りなさい、遅かったね」

「咲さん達と名古屋の美味しいものを色々ご馳走になりました。もうお腹いっぱいです」


「へー良かったじゃない。いいお店はあったの?」

「いいお店って言うか、名古屋って感じのするお店ばかり連れて行ってもらいました。あ、でも、ひつまぶしのお店はとっても高級な感じがするお店でしたよ。今度、杏さんも一緒に行きましょう」


「へー、ウナギは私も大好きだから是非行きたいわ。楽しみにしとくね。そう言えばさっき社長が来てたんだよ。御札を渡したら興奮して、すぐ帰って行ったけどね」

「気に入ってもらえたかな?」


「そりゃあそうだよ。めちゃくちゃ売れそうだもの。もしかしたらプリンターを増やして御札工場作るとか言い出すかもね」

「でも、出来上がる商品の価値とかが高くなっちゃうから、造幣局並みのセキュリティが必要になりそうですね……」


「まあ心愛ちゃんの場合は、契約魔法があるから働いてもらう人のお給料を高めに設定する代わりに契約魔法でちゃんと制限を付けるとかすればいいんでしょうけど」

「それなら、何とかなりそうですね」


「御札を売り出すときには、偽物が出回らないようにするのが一番重要かもしれないけどね……見た目だとコピー用紙に黒一色で印刷してあるだけだから、それを普通にコピー機でコピーして売り出す人が絶対出てくると思うの。それを防ぐためにはやっぱりオリジナルな要素の高い紙を用意するとかの対策は必要になると思うんだよね」

「それは……困りますよね」


「まあ、そういう事は心愛ちゃんは気にしなくても大丈夫だよ。社長と私で対策は考えておくわ」

「はい、よろしくお願いします」


 その後は、希と日向ちゃんと杏さんと四人でお風呂に入った。

 お風呂に使っていると、杏さんが何か気づいたようで聞いてきた。


「希ちゃんの左胸どうしたの?」


 その声に反応して私も希の左胸を見ると、お風呂で温まったら透明な魔法陣がうっすらと視認できる程度に浮かび上がっていた。


「あー、温まると見えちゃうんですねぇ。もしかして銭湯とか駄目な感じかな?」

「うーん、うっすらとだから断られやしないだろうけど、ちょっと気になる人もいるかもしれないね」


 日向ちゃんも確認してみたら、やっぱり浮かび上がっていたけど、日向ちゃんは首の後ろだから、普段は髪の毛で隠れるし問題無い事が解った。


「女性の場合だと日向ちゃんと同じ位置にするのがいいかもね」

「ですよねぇ、でも、お風呂で女性同士でも胸をガン見するとかあまりないから大丈夫だと思いますよ」


「そっか、気にするほどでもないかな」


 そんな話をしてると、杏さんが聞いてきた。


「その模様って、御札と同じ魔法陣を直接、肌に描いてあるの?」

「あ、はい。そうです。直接肌に描きこむと、永続的に使えるから、試験的にエスケープを刻ませてもらいました」


「そうだったんだ。それは便利ね。でも、他の人に知られちゃうと困りそうね」

「ですよね……でも、クリスマスホーリーのメンバー限定とかで、活用するのはありかな? って思ったんですけど、どうでしょうか?」


「それは全然ありかも知れないわね。社長とアンリさんを呼んで一度打ち合わせをするべきだと思うわ」

「はい、明日にでも社長と話してみますね」


 お風呂から上がると日課の魔道具とスキルオーブの制作を一時間ほどして、TBに腕枕をしながら眠りについた。


 翌日、授業が終わるとすぐに食堂に戻り、冴羽社長に来てもらった。


「心愛ちゃん、この御札は凄いね。これだと今まで魔石の在庫の問題とかで断っていた海外からの需要にも対応できるし、もっとリーズナブルに対応できるのは間違いないよ。ただ、パーフェクトヒールの御札は当面売りに出すことは出来ないけどね」

「それは、やっぱり医療機関とかへの配慮ですか?」


「そうだね、勿論それもあるんだけど、これを使う治療を俺や心愛ちゃんが行うとほぼ間違いなく、業としての医療行為に抵触するって熊谷先生も言ってたから、不特定多数の人に使う可能性がある以上、医師免許を持った人しか日本の法律の中では使えないからね。それに……この御札でランク5の赤ポーションと青ポーションの両方の効果があるとか、ポーションの買取価格が崩壊しちゃうし、そうなると探索者自体の絶対数も減る可能性がある。それはD-CANにとってもダンジョン省にとってもプラスにならないからね」

「そうなんだ……法律ってややこしいんですね」


「そうだね、ほとんどの法律は既得権益を守るために用意されてる様な背景が大きいから、現代社会でうまい事やっていくためには、ある程度、社会との協調性を保たなければならないのはしょうがないよ」

「わかりました。アンリさんの方はどうしますか?」


「ああ、そっちの件は是非、前向きにお願いしたい。早速、杏と一緒にジャフナへ行こう」


 それから早速、転移ゲートをくぐってジャフナのクリスマスホーリーの本部へ向った。

 アンリさんと合流して魔法陣の話をした。


「お嬢、そいつは凄いな。うちのメンバー達にぜひ魔法やスキルの習得をさせたい。お嬢の方で提供できるスキルの一覧を作ってもらえるか? それをうちのメンバーたちに自分で決めさせたいと思う」

「わかりました。少し時間を下さいね。提供できるスキルの一覧を書き出しますから」


 そう言って、自分の持つスキルを改めて確認した。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る