第199話 ふかし過ぎじゃないかな?
伊藤マネージャーと約束していた二十時が近くなり、私たちはダンジョンから出て協会併設のカフェに向かった。
カフェに到着すると、四人の女性が待っていた。
伊藤マネージャーの横にはサオリンが居て、後は私は初めて見る人だけど希と日向ちゃんは誰だかすぐわかったようだ。
「先輩! 女性ダンチューバーとしては国内トップの登録者を誇る、咲さんと麗奈さんですよー、後でサインとかもらえないかな?」
「きっと頼んだらもらえるんじゃないかな? でも、冴羽社長との話が済むまでは邪魔しちゃだめだよ?」
「はぁい」
咲さんが挨拶をする。
「初めまして、Dライバー社の麻宮と申します。隣に居るのが副社長の田中、その隣はお昼にご挨拶を差し上げました専務の伊藤です。もう一人はそちらの柊さんの同級生で鮎川沙織と申します。私共の会社で今、一推しのダンチューバーです」
「えっ? 伊藤マネージャーって専務さんだったんですか?」
思わず声が出ちゃった。
「あ、言ってなかったわ。ごめんねー、サオリンと一緒に居る時はマネージャーで統一しているので」
「でも、社長の幼馴染でずっと一緒にやってるんだったら、その方が自然ですよね」
そんな話をしてると杏さんから「心愛ちゃん、冴羽社長が困ってるからその話は後回しにしてね」と言われちゃった。
「あ、はい。ごめんなさい」
やっと冴羽社長が、挨拶をしてサオリン達四人と握手をして名刺を渡した。
その間に希が小声でボソッとつぶやく。
「綺麗どころばっかり八人の女性に囲まれた冴羽社長って、傍目からはどう見えてるのかな? やっぱりハーレムキング的な感じですかね?」
確かに浅黒い肌でやたら真っ白な歯の冴羽社長はそんな風に見えるかも?
と思うと笑いがこみあげてきて、こらえるのに必死だったよ。
カフェだとちょっと目立ちすぎるので、場所を移す事にした。
協会の会議室よりも、うちの食堂の方が話しやすいから、マンションに行って転移ゲートで博多へ移動したよ。
麻宮社長が少し驚いて「転移ゲートをD-CAN専用で設置しているんですか? 一組二十億円と伺っていましたが……さすがですね」
「ああ、これはうちの商品ですし、ダンジョン省からも当社内部で使う部分に関しては許可をいただいておりますので」
杏さんが早速、全員分の飲み物を用意してくれる。
コーヒー希望は冴羽社長、田中副社長、伊藤専務と杏さん。
他の五人は紅茶を希望したよ。
紅茶もジャフナダンジョン産のダンジョンセイロンティだから、香りからして全く別物だよ。
コーヒーは杏さんが、紅茶は日向ちゃんが「私の出番です!」って言って張り切って淹れてた。
メイドレベルが上昇して覚えた、リラックス効果と脳の活性化をする紅茶なんだって。
一口含むと、確かに頭がすっきりした気がしたよ。
「早速ですが、D-CANがDライバー社と提携する事によって得られる、当社の利点をあげる事は出来ますか?」
冴羽社長が咲さんにそう質問をした。
「一つ確認なんですが、D-CANとして今後、柊さんたちのパーティ以外でチューバーをデビューさせる予定はございますか?」
咲さんが質問を返す。
「いえ、チューバーは心愛ちゃんたちだけです。今後も増やす予定はありません」
「えっ? それですとD-CANほどの企業がDチューブに取り組む意味合いが薄くありませんか? 国内でトップクラスと言われる私のチャンネルであっても、どんなに頑張った所で年間所得は先ほどの転移ゲート一組に及ばないのが、この業界の実情です」
「麻宮社長、見ている世界が小さいね。うちの心愛ちゃんは世界中の人が注目を集めるように必ずなります。登録者十億人が当面の目標ですから!」
「十億人……根拠があるんですよね?」
「勿論です。ただ現状では、ようやく五万人に届く程度でしか無い事も一つの事実です。別に急ぐわけではありませんが、より効率よく登録者を増やすノウハウは是非欲しいとも思っています」
「冴羽社長、私に心愛ちゃんのチャンネルのプロデュースを任せてもらえませんか?」
「それは、心愛ちゃんがDライバー社に所属するという提案でしたら答えはNOです」
「そうですか……では、どのような条件でしたら認めてもらえるのですか?」
「そうですね、会社ごとうちに来ますか?」
「えっ? それはどういう意味でしょうか」
「D-CANグループの配信部門としてDライバー社があるというのであれば許容範囲です」
「今、Dライバー社が抱えている五組のチューバー達も全員連れてきて構わないと言う事ですか?」
「勿論です。本社は名古屋ですよね? そこと、博多の本社を繋ぐ転移ゲートも用意しますので、事務所なども当面今まで通りで問題ありません。社長も麻宮さんのままでお願いします。ただし、心愛ちゃんのチャンネルのプロデュースに関しては、責任もって麻宮さんが行っていただけるという一点だけがこちら側からの条件ですね」
「話が凄すぎて、ちょっと混乱しています。一度持ち帰って私たちで協議させていただいてよろしいでしょうか?」
「勿論です。返事は急ぎませんよ。明日から月曜日まではイタリアに出張がありますので、それ以降にまた連絡をいただけますか?」
「はい、かしこまりました」
話がひとまず終わったけど、話の展開が急すぎて流石の希も「サイン下さい」とは言えなかったよ。
転移ゲートで麻宮社長達を金沢へと送り届けた。
今日は四人でサオリンのマンションに泊まるんだって。
麻宮社長が、どんな結論を出すのかはちょっと気になるけど、冴羽社長も私に十億人のフォロワーが付くとか、ふかし過ぎだよね……
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