第191話 冴羽社長危機一髪

「冴羽君だね。こんな形でお会いする事になった事を勘弁してほしい」

 

 気が付いた冴羽は窓の無い部屋で椅子に手足を縛られて拘束されていた。

 周りを見渡すと覆面をした人間が六人ほどで囲んでいる。

 一体何があった……


 冷静に思い出してみる。

 島長官との会談の後、澤田と一緒に博多に戻り杏に電話して心愛ちゃんに少し鍛えて欲しいという話をした後の事だった。


 ダンジョン協会博多支部から西新の事務所に戻るまでのわずか三百メートルほどの距離を歩いている時に、黒塗りのミニバンが横に止まったと思ったら、なにかを首筋に当てられた。

 恐らくスタンガンだろう……

 一瞬で意識が飛び、気づけば今の状況だ。

 代表らしき男が言葉を続ける。


「君の会社で扱っている商品の件だが、世に出すにはまだ百年ほど早すぎる。運輸業界が大変困った状況に陥っている事を理解しているかね?」

「それは、ダンジョンシティとダンジョンの間に限定してしか利用出来ないようにしているので、すぐに運輸業界に影響をもたらすとは思えませんが?」


「君は何もわかっていないね。ダンジョン間の移動というだけで日本国内でもほぼ主要都市にはダンジョンが存在する。ダンジョンのランキングカードを持っているだけで現状では無料で使わせている転移ゲートにより、時間的にもノータイムで移動できるのであれば誰も飛行機や列車での移動を選択しないのは目に見えているではないのかね?」

「そ、それは……私に対して要望があるのでしたらうかがいましょう」


「今の所、君の会社以外ではこの技術を実現させる事は不可能だそうだね。それでは君さえいなければ問題は無いという事だろう。だが、私たちも、腑に落ちない点があるんだ」

「なんでしょうか?」


「君が個人でこの技術を生み出しているとは到底思えないという事だ。今君を殺すのは簡単な事だが、それでこの技術の流出が止まるという確証が無い以上、安易に手を下す事もできん。君が居なくともこの技術を他に世に出せるものは存在するのかね?」

「さぁ? それはどうでしょうね。話の内容からして国内の運輸関連の企業かと思っていましたが、どうやら国外の方の様ですね。グッドエクスプレス社のデイビット・タイラーさん」


「な、なぜ、私の名前を……」

「因みにですが、私は鑑定と言われる能力も使えますし、テレパシーも使えます。すでに今の話の内容も、筒抜けですよ」


 そのタイミングで心愛がグレッグと青木警視、遠藤警部補、冬月一尉、香田二尉の五人と手を繋いだ状態でテレポによって現れた。


 現れた瞬間に、冴羽を中心に結界を張る。

 周りを囲んでいた覆面を被った男たちが一斉に自動小銃を発射してきた。

 しかし結界がすべてを阻む。


「心愛、やっちゃっていいのか?」


 グレッグが聞いてきた。


「どうなんですか? 青木さん」

「ああ、立派な正当防衛だが……グレッグ少佐は殺さずに捕まえる事とかできるんですか?」


「いや、それは自信が無い」

「じゃぁ、グレッグは駄目!」


 心愛が並列魔法でエレクトリックを六個並べて発動した。

 全員が、白目をむいて気絶した。

 青木警視が猿轡さるぐつわをはめる事と手足の拘束を指示する。

 自殺防止のためなんだって……

 心愛以外の五人が猿轡をする間に心愛が冴羽の拘束をほどいた。


「大丈夫ですか? 社長」

「ああ、大丈夫だ。ありがとう心愛ちゃん」


◆◇◆◇


 心愛たちが、博多ダンジョンでの狩りを終えて食堂に戻ると、グレッグが食堂でコーヒーを飲んでいた。


「グレッグ、暇そうだね」

「ああ、日本国内のダンジョンは君川たちと一緒じゃなきゃ潜らせてもらえないからな」


「あ、ちょっと待って、社長からテレパシーが入った。えっ、拉致られてるって……」


 杏さんがすぐに表の車に待機してた、青木さんを呼びに行った。


「青木さん、うちの社長が攫われて、ヤバい状況なんですけど手伝ってもらっていいですか?」

「どこにいるかわかっているんですか?」


「どこかは、わからないですけど、社長のそばにテレポは出来ます」

「緊急事態なんですよね?」


「はい」

「行きましょう」


「えーと、テレパシーで聞いた情報では相手は六人で、武装して覆面してるって言ってます」

「心愛、俺も手伝うぜ」


 グレッグがそう言うと、美咲さんと香田さんも手伝ってくれるって言ってくれた。


「えーと……心愛ちゃん。武装した六人組が相手で随分落ち着いてるけど平気なんですか?」

「多分……私やグレッグや美咲さんなら弾丸くらいなら大丈夫だと思いますが、社長は大丈夫じゃないので急ぎますよ?」


「私と遠藤も大丈夫じゃないと思いますが……」

「テレポしてすぐに結界張るからきっと大丈夫です」


「頼みますよ……」


◆◇◆◇


 拘束が終わって、外に出ると博多ふ頭の倉庫の中だったようだ。

 青木さんがすぐに警官を呼んで、十分ほどでパトカーが五台けたたましいサイレンを鳴らして到着した。


 青木さんと遠藤さんとグレッグと社長はパトカーで一緒に警察に行った。

 犯人がアメリカの人間らしくて、グレッグは本国からの指示を伝えるためについて行くんだって。

 

「無事でよかったね」

「ありがとうございます。美咲さんと香田さんに来てもらって助かりました。社長を鍛えるの急がないとやばいですね」


「相手はどこかわかってるの?」

「んー、社長が流通業界や軍需産業から狙われる可能性もあるとか言ってたから、その辺だと思うんですけど」


「心愛ちゃんの技術は凄すぎるからね」

「どうしたらいいんでしょうか?」


「その辺りの事は偉い人たちに丸投げでいいんじゃないかな。ただ、心愛ちゃんが自分以外に対して技術を提供するのは、その辺りをちゃんと調整を付けた相手だけにする事が大事だと思うわよ」

「はい、気を付けます」


 この事件は、夜のニュースで大きく取り上げられたけど、私が現場に現れた事なんかは内緒になってたよ。

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