第181話 ダンジョンホエールのシャブシャブ

 社長とアンリさんと東郷さんの三人がそれぞれの仕事に戻っていき、私は杏さんと二人で寛いでいた。


「心愛ちゃんは、探索者養成学校の授業が始まるまであと五日間あるんだよね? その間は何か予定は決めてるのかな?」

「うーん、あんまり考えていなかったんですけど、ロジャーとグレッグの手伝いでアメリカのダンジョン二つほど終わらせてこようかな? って思ってます」


「そうなんだ、たまにはのんびりと身体を休める事も大事だからあまり無理はしないでね」

「はい、でも私の疲れはお料理さえできれば、十分に癒されますから大丈夫です。今日はジャフナで手に入れたダンジョンホエールのお肉を使った料理を作ろうと思ってるんです。昨日のうちにペットボトルの牛乳をまた、お出汁に入れ替えて今日の夜には使えるようになりますから、それまでゆっくりしてます」


 そんな話をしていると、ロジャーとグレッグがやって来た。


「ヘイ、心愛、長官からシャイアンとホノルルの攻略のGOサインが出たぜ。明日の朝、横田から飛び立つからよろしくな」

「私と社長は直接シャイアンに行ってもいいのかな?」


「おい、心愛、まさかステイツに転移で行くつもりか?」

「だってぇ、移動時間が超無駄じゃん。ダメかな?」


「一応、長官に確認してみる。こっちのダンジョン省と話が通っているならOKな気もするけど、確認しなけりゃヤバいかもしれないからな」


 そう言ってマッケンジー長官と連絡を取り合っていたけど、結果はダンジョン以外の観光を一切しないなら問題ないと言う事になったよ。

 パスポートはちゃんと持って行かなきゃいけないらしいけど、スタンプは免除でいいんだって。


 意外と緩くてよかった。


 ロジャーとグレッグも一緒にテレポで行く事にしたから時間が節約できたね。


◆◇◆◇


 夜になってデリシャスポーションも使えるようになったのでお料理を始める事にしたよ。


 日向ちゃんには事前に言っておいたので、すでにキッチンスタジオの準備は整っている。


 今日のお料理はダンジョンホエールを使ったシャブシャブを作る事にしたよ。


 今回手に入ったダンジョンホエールのお肉は、尾の身の様に奇麗なサシが入っている。

 さえずりと呼ばれるクジラの舌も凄く美味しいんだけど、ジャフナダンジョンに通い続けたら、手に入らないかな?


 クジラのお肉は最初に摺り卸した玉ねぎの中に三十分ほどつけておき臭みを抜く。

 冷凍庫で半分凍った状態にしておいて、スライサーで1.5ミリメートルの厚さにスライスしてお皿に綺麗に折りたたんで盛り付ける。


 牛肉だと1ミリメートルの厚さにスライスする事もあるけど、サシの多いクジラのお肉は薄すぎるとお箸で泳がせている時に、お肉が破れやすいからこの厚さがギリギリなんだよね。


 お野菜は、白菜、春菊、水菜、エノキ、シイタケ、葛切り、手毬麩、人参を用意しておく。


 白菜と春菊はさっと湯がいて、巻き簾で巻いておく。

 お鍋に綺麗にお野菜を盛り付けて、デリシャスポーションをお鍋に注ぐ。

 鯨から十分なうまみが出るから、余分な味付けをしない方がいいとお父さんは言っていた。

 デリシャスポーションを使わないバージョンは、昆布出汁を使う。

 お父さんがお出汁用の昆布は函館の真昆布で白口浜産の二級の折り昆布が一番だって言ってたから、うちで使うのは当然それだよ。


 煮立たせないギリギリの温度まであっためて、ダンジョンホエールのお肉を静かに泳がせてからポン酢でいただくよ。

 ポン酢は萩の橙酢を博多のお醤油で同割に割って真昆布と鰹節をたっぷり入れて一週間寝かせた自家製だよ。

 博多のお醤油を使うと味醂で味を調節する必要もなくて、すっきりしたポン酢が仕上がるんだよね


 お鍋のお出汁をポン酢に倍量くらい入れるのが丁度いい美味しさだと私は思ってるよ。

 薬味は紅卸と小葱を寸葱に切り揃えた物を用意したよ。

 今は一年中、紅葉卸と呼ぶ人も多いけど、本来、紅葉卸って表現する場合は紅葉の季節にだけ使う言葉だってお父さんは言ってた。

 柚子胡椒も捨てがたいけど、今日はクジラの風味を純粋に楽しみたいからね。


 いつもの様に杏さんと希と日向ちゃんには昆布だしバージョンで、私はデリシャスポーションバージョンでいただく。


「どうかな?」


「凄いとしか言えない味だわ」

「手毬の形をした生麩が超可愛いし、クジラから出たお出汁が染み込んでて最高ですぅ」

「お肉で水菜を巻いて食べたらシャキシャキした食感も加わって素敵ですねー」


「うん。ダンジョンホエールのお肉は口の中でとろけるような食感で最高に美味しいなぁ。大満足だね。このお肉で今度はカツレツも作ってみたいなぁ」


「聞いただけでも、よだれが出てきそうですぅ」


 その後は締めでお雑炊を作ったけど、もう本当にほっぺたが落ちそうなくらいに美味しかったよ。


 予定通りにスキル強化を取得して、鑑定を強化してみたらバージョンアップして【心眼】って言うスキルになったよ。


 鑑定の時は意識して鑑定を発動しなければ見えなかったのが、無意識に興味を持った物が見えるようになっていた。

 見たいと思わない部分はちゃんと遮断してくれてるから邪魔にはならないし、これなら鑑定を発動してないから弾けないんじゃないかな? って思った。


 次にイージャを見かけた時が楽しみだな。

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