第177話 黒田の野望

 くそっ、ダンジョン協会を辞めてから何をやってもうまくいかん。

 俺を公認すれば、ダンジョン協会が抱える莫大な余剰金を吐き出させることも出来るというのに。


 第一野党の奴らでは駄目だな、もっと俺が操りやすい政党に公認を出させるか。

 弱小政党であれば、俺ほどの実力があればすぐに党首まで登りあがれるだろうし、そこから野党の統合を目指せば、ゆくゆくは俺が総理大臣になる事だって夢では無くなるな。


 俺の学生時代から官僚時代に築き上げた人脈を甘く見るなよ。

 警察官僚から司法に渡るまで俺に頭の上がらない連中はまだ沢山いる。


 ダンジョン協会にいる間に接待漬けにしておいたから、俺の頼みを断る事は出来ない連中だ。


 俺が目を付けたのは、俺の秘書をしていた冴羽の野郎がダンジョン協会を辞めて、社長に就任した会社D-CANだ。

 設立から僅か二か月もたたないうちに、ダンジョン協会との取引だけでも五十億ドルを超えるという情報を手に入れた。


 勿論協会内部にまだ残っている俺の餌付けした連中からのリークだ。

 五十億ドルか……七千億円近い額を設立間もない会社が売り上げるなど、当然まともな取引をしているはずもない。


 必ず付け入る隙があるはずだ。

 そこを突けば、そっくり巻き上げる事もできるかもしれんな。


 徹底的にD-CANの事業内容や、金の流れを調べさせた。

 スキルオーブの取引に魔道具の開発、販売、ダンジョン攻略にダンジョンシティ構築業務だと? ダンジョン協会ですらそんな技術は持って無かったはずなのに、なぜ奴らには可能なんだ。


 まぁ業務内容の詳細などには興味もないがな。

 俺が興味を持つのは、それによってD-CANに流れた金だけだ。


 調べ始めて一週間が経過した時に、D-CANの致命的な問題点を見つけた。

 一企業が、組織だってダンジョンの攻略を行うだと?

 そんな馬鹿な事を日本の法律で実行できるはずはないだろう?


 ダンジョン攻略に必要な戦力などは、大国が軍を投入して最新兵器を使っても難しいのだ。

 それを可能にする組織など軍隊以外の何物でもない。

 日本国内で軍隊を組織して武力を行使するなど、ちょっと見方を変えればテロ組織として嵌める事も出来るな。


 更に手に入れた情報によるとD-CANの実働部隊『クリスマスホーリー』の構成員は、純粋な日本人など一人もいない。

 こいつは傑作だ。


 外患誘致罪を適用できる案件だぞ。

 話題作りのインパクトとしては十分だな。

 そうと決まれば、いかに素早く動くかだな。


 まず、罪状を並べ立てた上で、世論を味方につけて、その上で抜け道を用意してやる。

 勿論D-CANが手に入れた莫大な資金との引き換えでだがな。

 資金を手に入れた後で、結局世論に負けて自滅する事までは面倒を見る必要もない。


 我ながら完璧な計画だ。


 俺の息のかかった連中を動かして、まず逮捕状を請求させた。

 適当なところで罪状は有耶無耶にするんだし詳しく調べたりする必要もないからな。


 やつらは早速雲隠れしやがった。

 逃げると言う事は罪を認めたも同然だ。


◆◇◆◇


「黒田康夫、お前に逮捕状が出た。冴羽純平氏とD-CANに対する流言飛語による偽計業務妨害が罪状だな。お前が動かした警察官僚や司法当局の連中も既に拘束されている。さらにお前の前職であったダンジョン協会からの告発状と横領の被害届が出されている」

「なんだと? 木っ端役人風情が俺様を逮捕だと? フザケルナ」


「ふざけてなどいない。お前が濡れ衣を着せようとしたD-CANに関しては、ダンジョン省と綿密な連絡を取り合った上で、島大臣も活動内容を容認した形での業務を行っている。お前の言うような違法行為は一切存在していない。諦めるんだな」

「弁護士を呼べ、お前ごときに一切何も喋らんぞ」


「勝手に言っておくがいい。俺も勝手に独り言を喋ろう。お前の年齢で今回の諸々が有罪判決を受ければ、お前の寿命が残っているうちに堀の外に出てくる可能性はまずない。勿論事件の重要性から考えて保釈が認められる可能性も限りなくゼロだ。この国のためには大変喜ばしい事だな」


「ま、まて……」


「連れていけ」

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