第168話 覗き魔
大結界の強化を終えてゆっくりテレビを見ていたら希が帰ってきた。
「お帰り希、桃ちゃんはちゃんと乗りこなせるようになった?」
「はい! それはもうばっちりです。桃ちゃんに二十三層のフルーツをおなか一杯に食べさせてあげたら、超幸せそうでしたよ」
「それはよかったね。モンブランとビーフストロガノフがあるから、希も食べなさい」
「わーい、モンブラン超好きなんですぅ」
テレビで放送していた番組は明後日に迫った新月の日に、果たしてどこのダンジョンがスタンピードを起こすのかを有識者たちが集まって予想する内容の番組だった。
実際は私たちの様な鑑定スキルを所持するか、鑑定タブレットを使って世界中のダンジョンを鑑定しないと正確にはわからないんだけど、一次スタンピード前にまだ各国が攻略情報を発信していた時のデータを基にした予想を並べていた。
それでも中国やロシアを始めとした共産主義的な国は元々情報を出していなかったし、今回問題になってる対中国の債務でダンジョンを担保に取られている国もたくさん存在するから、この番組で正解を導くことは難しいだろうね。
でも、この番組の趣旨はきっと今回は日本は大丈夫であるって事を確認したいのだろうと思う。
あまり話題には上がっていないが、第一次スタンピードでは日本で五十人、ケニアで五千人、天津では十万人にも及ぶ被害が出ている。
ケニアと天津では、今もまだ被害は拡大中でもある。
勝手に手を出すわけにもいかないからなぁ……
そんな事を考えていたら、食堂の表が騒がしくなった。
何事かな? と思って私、杏さん、日向ちゃん、希の四人で外を覗くと警察庁の青木さんと遠藤さんが、男の人を取り押さえていた。
「えーと……何事ですか?」
「彼が、外から店内を勝手に撮影していたので職務質問をしようとしたら抵抗されましたので、取り押さえました。お知り合いではないですよね?」
「私は知りませんけど、杏さんや日向ちゃんの知り合いでもないですよね?」
「知らないよ、ここだとちょっとご近所さんに迷惑だから、とりあえず中に入ってもらおうか」
青木さんが、犯人? を立たせて店内に連れてくると椅子に座らせた。
「あの、抵抗とかしませんから拘束は止めてください」
「っていうか、なんでうちの写真撮ってたんですか?」
「あ、それは、私の女神様の大島さんの姿をお見受けして、思わず写真に収めてしまいました」
「青木さん……やっぱり、すぐ連れて行ってください。どう考えても危ない人です」
「ちょ、ちょっと待ってください、私はこういう者です」
そう言いながら出してきた名刺にはダンジョンマガジン編集部専属ライター『東郷弓弦』と書かれていた。
ダンジョンマガジンは発行部数百万部を超える業界では一番人気のある雑誌だ。
すぐに遠藤さんが、ダンジョンマガジン社に在籍確認の電話を入れていたが、どうやら名刺は本物のようだった。
「でも、杏さんの盗撮が目的でここに来たんだったら、ダンジョンマガジン関係なくただの犯罪者ですよね?」
「ですから、目的はそうじゃなくて、そこの色々ちっちゃいお嬢さんに話を聞くために来たんです」
「先輩、色々ちっちゃいって……明らかに悪意がありますよね、やっぱり逮捕でいいと思います。出来れば死刑で」
「だから、ちょっと話を聞いてください。お嬢さんが今日博多ダンジョンの二十三層で飛竜に乗って空を飛んでいたとの情報をもらってすぐに、二十三層に見に行ったんですけどその時にはすでに誰もいなかったので、急いで一層に戻って情報をくれた商社系の探索者の方と待っていたんですが、話しかける暇もなくこちらに戻られたので、私は必死で付いてきたんです」
「希? なんか気づいてた?」
「なんか、居るなぁと思いましたけど、直接話しかけてきたわけじゃないし勘違いだと嫌だと思って放っておきました」
「そうなんだ……ってあの、今、東郷さん二十三層に見に行ったって言いましたよね?」
「あ、はい。その通りです」
「普通の人が二十三層に行くなんてできないと思いますけど、おかしくないですか」
「商売柄、日ごろから商社系の方とは仲良くさせてもらってまして、攻略の最先端まで行けるようにしてましたので」
「とりあえず、今、撮影したカメラを出してください」
東郷さんがカメラを出すと、青木さんが撮影した写真をプレビューさせた。
「なんで見事に杏さんの写真ばかりなんですか? しかも胸のアップがほとんどだし、やっぱり仕事は関係ないですよね」
「あの、これは本当に出来心で、最近大島さんをダンジョン協会で見かけなくなって寂しかったので、その姿をお見受け出来た嬉しさででつい……」
「杏さん、どうしますか? 杏さんに任せます」
「そうねぇ、勝手に撮られるのは、やっぱり嫌だから、さっき撮ったその写真をとりあえず全部消去したら話を聞きましょう」
「ありがとうございます。やっぱり大島さんは私の女神さまです」
そう言いながら、写真を消去した。
「で、希に何を聞きたかったんですか?」
「勿論、飛竜の事です。本当に飛竜に乗って飛んでいたんですか?」
希が私の方を向いて、いいんですか? って感じで目を合わせた。
まぁそのうちどうせ噂は出回るし、別に構わないかな? と思って返事をした。
「そうですね、希の飛竜はテイムモンスターですから、その話は本当です」
「凄いです。世界初ですよね? テイムモンスターなんて」
「そうなのかな? モンスターじゃなかったらこの子の方が先だけど……」
そう言って肩の上に乗ってるTBと目を合わせた。
「その黒猫も、テイムされてるんですか? そう言えば子猫がずっと肩の上に乗ってるっておかしいですよね。本題なんですけど希ちゃんと飛竜をぜひダンジョンマガジンで取材させてください。これだけのインパクトがあれば巻頭カラーで特集ページが組めます」
「先輩、どうしましょうか? 私有名人になっちゃうんですか?」
「希が出てもいいなら構わないと思うよ? Dチューブの宣伝にもなるだろうし」
「でも……この人変態っぽいから少し考えますよね」
「だよね」
「そこは絶対に大丈夫です。私の守備範囲は極めて狭いので」
「先輩、やっぱり覗きで突き出しましょう」
ちょっとゴタゴタはしたけど、明日は一応一日空いているので、明日の午前中に博多ダンジョンの二十三層でなら取材を受けるという話になった。
勿論、一緒に私たちのダンチューブチャンネルの宣伝をしてもいいという許可も取り付けたよ。
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