第153話 パンチェッタの作り方

 千葉ダンジョンの移設を終えて食堂に戻ると希と日向ちゃんがダンチューブを見ていた。


「先輩、日向ちゃんと話してたんですけど、そろそろダンチューブの動画でも魔法とか解禁しても大丈夫じゃないのかなぁ? って思うんですけどどう思いますか」

「今日の千葉ダンジョンの移設で一般の人でもJOBにつきやすい環境は整ったし、そうなると魔法も特別な手段では無くなるから大丈夫かもしれないね」


「あれ? 先輩、千葉ダンジョンって報酬六十九層になったんじゃないんですか?」

「それがね、君川さんが二か所目のダンジョンマスターになった事で、二十層以下なら好きな階層にダンジョンクリア報酬を設定できるようになったんだよ。勿論、君川さんがマスターになったダンジョンだけだけどね」


「へー、それは便利ですね。っていう事は、お蔵入りにしていた攻略動画も、公開して大丈夫ですか?」

「でも、まだ学校とかで騒がれちゃったら恥ずかしいし、転校してからにしようよ」


 日向ちゃんと希もそれで納得したので本格的なアップはもう少し先になった。

 

「そういえば先輩、ダンチューブの収益化も許可が下りたので、本格的なアップを始める時に一度ライブ配信やりたいんですけどOKですか?」

「そうだね、照れくさい気もするけど折角やるなら沢山の人に見てほしいし、やってみようか」


「やったー、先輩のライブ配信ならぜったい投げ銭とか凄い額になると思いますよ」

「そんな事にお金使う人っているのかなぁ? 勿体ない」


「たくさんいますって、今ダンチューブのトップ配信者なら年収十億近い人もいるんですから、先輩ならすぐ追い越しちゃいますよ」

「そんなに稼げるの?」


 そこで杏さんから突っ込みが入った。


「心愛ちゃん? そんなにとか言ってるけど、最近の心愛ちゃんは毎日七十億円くらい稼いでるよ?」

「あー、それは私じゃなくて会社のお金ですから」


「まぁそういう事にしておくわね。熊谷先生が『経費をもっと使ってください』って言ってるけど何か考えてる事とかあるの?」

「そこは、冴羽社長にお任せです。私は女子高生のお小遣い程度の額があれば十分ですから」


「先輩……なんか会話の規模が違いすぎて、超びっくりなんですけど」

「そういえば希、明日からは札幌ダンジョンに行ってみようと思うけどいい?」


「えっ本当ですか? もしかしてテイムとかできる感じなんですか」

「うん、おそらく大丈夫と思うよ。やってみないとわからないけどね」


「楽しみだなー」


 その後は、前回の動画撮影で言っていたパンチェッタの作り方の動画を撮影する事にした。


 パンチェッタの見た目は生のベーコンっていう感じだけど、燻煙を当てていないので乾燥塩付け肉と思ったらいいよ。


 オークのバラ肉を用意し、余分な水分をしっかりと拭き取ってフォークで満遍なくつついて味を染み込みやすくする。


 お肉の重さに対して3パーセントの分量のお塩を用意して全体に擦り込む。

 余分な水分がにじみ出てくるので、丁寧に吸水紙で拭き取る。

 ローズマリー、ローリエ、タイムの粉末と粗挽きのブラックペッパーを全体に擦り込み吸水紙で包み込む。


 この状態で保存パックに入れて上から重石をかける。

 一週間、毎日吸水紙を取り換えながら冷蔵庫に寝かせる。

 これで出来上がりだよ。

 

 勿論撮影で一週間も待てないから、アイテムボックスから出来上がったパンチェッタを取り出す。

 

 出来上がったパンチェッタをスライスすると、艶のある蝋の様なねっとりした断面に仕上がっている。

 このままチーズと一緒に食べても、ワインのおつまみには最高だと思う。

 私たちは未成年だからワイン飲めないけどね!


 今回はオークのバラ肉で作ったけど、オークジェネラルやオークキングのお肉で作ると、もっと濃縮したうま味を楽しめるだろうな。

 オークジェネラルの出るダンジョンを探しておこう!


「日向ちゃん、今日の動画はすぐにアップしてもいいからね」

「はい、昨日のカルボナーラの動画にリンクを貼って、すぐに見れるようにしておきますね」


◆◇◆◇


 翌日、学校が終わって食堂に戻ると見覚えのある車が食堂の駐車場に止まっていた。


「ロジャー、グレッグお帰りなさい」

「Hi心愛、やっと戻ってこれたぜ。ちょっと日本を離れてる間に随分色々変わってるな。なんだよあの、転移ゲートって。あれはステイツと日本の間でも使えるのか?」


「使えるはずだと思うけど、日本の外に繋ぐのは私たちじゃ判断できないから、頼むならダンジョン省の島大臣に言わなきゃ駄目だと思うよ?」

「そりゃそうだろうな。早速、マッケンジー長官から日本政府に申し込みさせよう」


「ロジャーたちはこっちで何をする予定なの?」

「あー、それなんだが君川と話したら、ダンジョンマスターになる事が凄く大事だとわかったからな。ステイツのDランクとCランクのダンジョンをいくつか攻略する予定になったんだ」


「じゃぁ、すぐにまたアメリカに戻っちゃうの?」

「いや、俺たちは犠牲を払わずに攻略できるほどダンジョンは甘くないと理解している。だから心愛に手伝って欲しくてさ。心愛のサマーバケーションはいつからだっけ?」


「えっ? 夏休みは七月の後半からだけど……私がアメリカに行くの? それって色々、言う人が出てこないのかな?」

「まじかよ、ステイツは六月に入ればすぐにサマーバケーションだから同じくらいだと思ってたぜ」


「アメリカって休み長いんだねー羨ましいな」

「心愛が希望すれば、いつでもグリーンカードは出るぜ? 心愛なら言葉の問題もないしな」


「えー、それはちょっと遠慮しとくよ」

「とりあえず俺たちは、心愛のガードをしながらサマーバケーションが始まるのを待たせてもらう。今、一番注意するべきなのがロマノフスキーの存在と……ザ・シーカーの存在だからな。必ず心愛のそばに現れるはずだ」


「えっと、ザ・シーカーって言うかアンリさんはもう、うちの会社で雇う事になったみたいだよ?」

「なんだって? どういう繋がりなんだYO」


「んー、なんかうちのお父さんの友達なんだって」

「良く分からないが、俺たちも会えるのか?」


「そのうち会えるんじゃない?」

「そいつは楽しみだ」


 なんだか騒がしくなりそうだな……

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