第131話 冴羽社長の目的

 大島杏に呼ばれて心愛ちゃんの自宅である食堂を訪れた。

 今日は心愛ちゃんが魔道具の作成を行ったという話だ。

 食堂に到着し早速、魔道具の実物を見せてもらった。


 俺の予想を斜め上に上回っていた。

 まず【鑑定スマホ】だが、これはその場で鑑定結果を記録でき、データベース化することもできる。

 今までの鑑定ルーペとは格段に鑑定効率が変わる。

 しかも今現在、国内ではダンジョンの存在する十二か所より少ない十個しか発見されていないアイテムを心愛ちゃん次第でいくつでも生産できるのだ。

 

 国内流通においては、簡易版で十分だろう。

 それでも、一台一億円が販売価格の最低ラインとなる。

 そして高機能バージョンだが、これは価値をつければ五十億円でも安い。


 今まで俺と杏と心愛ちゃん以外では鑑定オーブを使用しないと出来なかった人物やダンジョンなどの鑑定ですら、回数制限なしに行えてしまう。


 これは各国のダンジョン協会に台数制限の条件を付けた上での販売が妥当だな。

 まずはJDAとの調整を行い販売価格を設定しよう。


 マジックバッグも凄い。

 最大容量の一万リットル時間停止無しのバージョンなら、それこそ百億円の価値もある。

 安く流出させてしまえば、既存の流通業が壊滅的なダメージを受けてしまうために、安価な設定は出来ない。

 他に作れる人物が現れれば、その時になって考えればよい。


 これも各国のダンジョン協会に対してのみの販売となるだろう。

 小容量や時間停止を無しにしたバージョンだと、現状でもドロップ品で同等のアイテムは存在するので、わざわざ心愛ちゃんに作ってもらう必要は大幅に低下する。


 精々、心愛ちゃんが仲の良い方たちへ対して作ってあげる程度で構わないだろう。

 

 そして今日見せてもらった商品から予想すれば心愛ちゃんが作れる商品は、もっと幅広く存在するはずだ。


 攻撃力を高めたり魔法を発動できる武器。

 防御力を始めとした各ステータスを上昇させることのできる装備品。

 そして転移の機能を持つアイテムなども可能だろう。


 これで文句なしにD-CANがダンジョンに関するあらゆる面で世界の中心となるようにコントロールしていける。

 

 だが俺には一つの懸念があった。

 それは今回のケニア、ガリッサダンジョンで行われたWDAの主導による招集。

 ダンジョンスタンピード鎮圧作戦で目の当たりにした事実だ。


 WDAと名乗っても内実はほぼアメリカ主導と変わらない。

 これでは各国が従い続ける事に無理がでるだろう。

 実際ロマノフスキーの様な行動に出られても、それをコントロールする権限も何もない。


 招集に応じて参加していただいているという立場だからだ。

 これを防ぐにはどう対処するのが正解なのか。


 俺なりの回答を探して一つの結論に辿り着いた。

 ダンジョン攻略に特化した会社組織を創設してしまえばいいのではないかと。

 攻略班を会社で抱え、事業としてダンジョン攻略やスタンピードの鎮圧に対して部隊を派遣すれば、各国の思惑などを気にする必要もなくなる。


 そしてD-CANのあげる莫大な利益に関しては、ダンジョン被害にあった国々の復興に充てていきたいと考える。

 これがダンジョンとともに成長する企業の在り方だと俺は信じる。

 オーナーである心愛ちゃんが許可しなければ勿論できないが、彼女ならきっと同調してくれると思う。


 ただ、そのためには心愛ちゃんと希ちゃんだけが頼りというわけにはいかない。

 周りが納得するだけの実力を持った攻略班が必要だ。


 それにうってつけの人物として俺はザ・シーカーと契約をすることが出来ないかと考えていた。

 フランスのレジオンという傭兵を中心とした軍事組織に所属していた実績を持ち、現時点ではどこの国からも紐づいていない彼であれば、ビジネスとしてダンジョン攻略を請け負う組織を任せるのに最も適任ではないかと思ったからだ。


 しかし、彼が人格者であるかないかで計画は大きく変わる。

 そう思っていた時に転機が訪れた。


 またしても心愛ちゃんからの発信だった。

 ザ・シーカーことアンリ豊臣氏は、心愛ちゃんのお父さん、柊五郎氏と友達だと言うではないか。


 これは訪れるべくして訪れた運命というものだろう。

 早速心愛ちゃん経由でコンタクトを取る事にした。

 待ち合わせはダンジョン協会の会議室を指定し、早速翌日面会を約束した。


「アンリさんD-CANの社長、冴羽純平です」

「アンリ豊臣だ」


 心愛ちゃんから聞いてはいたが、体も大きく、とにかくイカツイ。

 反社の連中でも睨まれれば裸足で逃げ出しそうだ。


「単刀直入に用件をお話ししたいと思います。D-CANでダンジョン攻略部門を立ち上げたいと考えております。その現場を任せる立場としてアンリさんとアンリさんの抱える組織に所属していただきたいと考えます」

「俺の要件と基本的には同じだが、いくつか乗り越えなければならない壁があるだろう。その辺りはどうするつもりだ」


「具体的には、傭兵組織を日本国内で立ち上げる事への問題点と考えてよろしいでしょうか?」

「ああ、そうだ」


「この組織は別会社として、海外へ拠点を置こうと考えております。資本金は全額D-CANで負担し、社外からの出資も求めません」

「組織を維持するだけの収入のあてはあるのか?」


「それに関しては、ご心配に及びません。十分に潤沢な財務状況ですし、今後の組織の運営や訓練、武器、消耗品の調達に至るまでD-CANが責任を持って行います。アンリさんがダンジョンの攻略に邁進していただける環境を保証します」

「ほう、随分気前がいいな。現時点で俺の組織は俺を含め二十名の構成だ。攻略を主に行う十二名と諜報活動が主体の八名だが彼らの生活と立場の保証も出来るか?」


「勿論です。主な顧客は各国の政府とDAダンジョン協会になりますので、超法規的な交渉も可能と考えます」

「わかった。契約成立だ。組織の設立が出来次第活動を始めよう。それまでに現在手を付けている仕事を片付けておく」


「よろしくお願いします。具体的な報酬などは聞かれなくてもよいのですか?」

「俺たちは攻略班に関しては全員がブロンズ以上のランカーだ。ドロップアイテムの提供をしろとか言わなければ金は勝手に稼ぐが諜報の連中に関してはサラリーで月一万ドルプラス必要経費を保証してもらいたい」


「勿論個人で獲得されたアイテムは自由にされて結構ですし、諜報班のサラリーは約束しましょう。攻略班もミッションごとに報酬をご用意いたします」

「了解だ。話は変わるが、冴羽は下関の抱える危険性を理解しているか?」


「と、言われますと?」

「あそこはパブリックダンジョンだ。俺も先日最終層に行って来たが、ダンジョンコアを守る部隊の駐留すらされていなかった。例えば俺がダンジョンコアにギフトを発動すればどうなる?」


「……消失してしまいますね」

「そうだ。そして俺でなくてもゴールドランカーであれば誰でもできる」


「アンリさんはガリッサへ参加されていませんでしたが、どこでその情報を?」

「言っただろ、諜報組織を抱えていると」


「さすがですね。対処方法の答えをお持ちでしょうか?」

「そうだな、まだ日本でも法の整備が出来ていないから、今のうちに俺が獲得しておくのも一つの手段かと思っている」


「そ、それは……」

「他国に持ち出されてしまってからでは遅いぞ?」


「そうですね……ちなみにそのダンジョンはどうするおつもりですか?」

「俺が獲得した上でその場に再設置するか金沢のダンジョンシティへ移設するのが妥当と考える」


「面白い提案ですね。アンリさんのレベルだと六十九層のダンジョンへと変わるわけですか。パーティ作成のスキルを欲しがる人には厳しいですが、他国への流出の危険を考慮すれば非常に現実味があります」

「おい、冴羽。なぜ俺が再設置をすれば六十九層になるんだ?」


「ご存じありませんでしたか? 再設置されたダンジョンはダンジョンマスターのレベルによって成長します。そして今現在アンリさんのレベルが六十九ですので」

「なぜそれがわかる?」


「私は鑑定スキルを身につけていますから」

「お嬢からか?」


「そうですね。しかしアンリさんがダンジョンマスターになった場合、もしアンリさんの身に不幸があった場合はいったいどうなるのでしょうか?」

「それはわからねーな。まあ俺は簡単にはくたばらねーさ」


「ダンジョンが他国に持ち出される危険がある以上、早速最初のミッションとして下関ダンジョンの確保をお願いしてもいいでしょうか、設置に関してはこちらで調整させていただきたいと思います」

「了解した」

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