第105話 金沢ダンジョンの攻略

 樹里さんたちのスキル取得とステータス調整を終えると、澤田さんに連絡を入れてもらっていた葛城一佐のもとへ向った。

 金沢ダンジョン協会支部に到着すると、葛城一佐とマッケンジー長官、それにロジャーが迎えてくれた。


「心愛ちゃん、こんな時間に来てもらって済まない。だが、今回のスタンピードは日本国全体が危機に陥るほどの問題だ。特務隊だけで対処できる範囲を超える状況だと言える。その上で聞くが心愛ちゃんは今回の事態に対して対処はできますか?」

「百パーセント確実にと言われると『大丈夫です!』なんて言えるわけは無いですが、恐らく私たちなら対応できます。ベストは尽くしますのでやらせて下さい」


「Hey心愛、俺は心愛と一緒にダンジョン攻略に向かわせてもらうぞ。ステイツでのスタンピード発生の可能性を考えて待機になっていたからな」

「ロジャー、私たちは金沢ダンジョンにまだ入ったことなかったから、道案内をしてくれると助かります」


「任せろ、最速でボスフロアまで案内するぜ、十二時間以内だ。休みなしでの突撃になるから心愛は別として他の娘たちにはハードだと思うが大丈夫か?」


 そう問いかけられて希は頷いていたが、樹里さん、美穂さん、日向ちゃんの三人はポカンとした顔をしていた。


「あ……ロジャー英語しか喋れないから、言語理解持ってる希以外には話が通じてないんだ……」

「心愛ちゃん、ロジャー大尉はなんて言ったの?」


「えーと、休みなしで最終階層まで突撃するからハードだぞって感じです」

「あー、きっと大丈夫です。足手まといにならないように頑張ります」


「葛城一佐、樹里さんと美穂さんをお借りしますが大丈夫ですか?」

「進藤、相沢の両名の現時点の任務は柊さんと真田さんの護衛だ。任務をまっとうする事を望む」


 葛城一佐の言葉を受け、樹里さんと美緒さんはビシっと音がするような奇麗な敬礼を決めた。


「進藤三曹並びに相沢三曹は任務を全うし、護衛対象『柊心愛』さん『真田希』さんを無事に金沢ダンジョン最終層にお連れします」

「じゃぁロジャー案内頼むよ」


「了解だ」

「出発進行!」


 なぜか最後は希のあんまり場にそぐわない号令で金沢ダンジョンへと突入した。


 すでに最終層まで到達しているロジャーの案内で最短ルートを快調に走りぬけていく。

 すでにスタンピードが起こっているので入ってすぐの場所から二十層クラスの魔物も現れるが、現時点で私たちの能力であれば問題なく撃破していける。

 ステータス的に低めの日向ちゃんを除いてだけどね……


「日向ちゃんは撮影とドロップ回収に専念しててね! 美穂さんと樹里さんは出し惜しみなしで、さっき覚えた能力を活用してください」

「「「はい!」」」


 その言葉で、美穂さんたちも魔法攻撃をバンバン使い始めた。


「チョッなんなんだこれ、俺でもまだ使えない魔法攻撃を……心愛と希はわかるが、みんな使えるっておかしくないか? 心愛、俺も魔法使えるようにしてくれよ」

「ロジャーが魔法を使えるようにしちゃったら、グレッグや美咲さんたちも皆言い出すからそれは今のところ保留で!」


「世界ランキング二位の俺が一番雑魚な気がするぜ……」

「あーノドグロの魔物だよ。日向ちゃん帰ったら美味しく料理するからドロップの拾い忘れがないようにね!」


「はい先輩!」


 金沢ダンジョンは十五層以下に生息する魔物からは、日本海の海産物系の魔物の宝庫だった。


 越前ガニや、ノドグロ、氷見ブリなどの形をした魔物たちがダンジョン内をふわふわ泳ぐように浮遊している。

 急いでるんだけど、こんなご馳走たちを見逃すのは料理人としてダメだよね。


「心愛、もう少し緊張感があってもいいと思うぜ」

「ロジャーが真面目君になってる。意外だぁ」


「俺はいつでも超真剣なんだよ、希」

「絶対嘘だから」


「でも、ロジャーの言うことも正しいとは思うから、素材集めは積極的に狙わずに出たら拾う程度でいこうね」


「了解ですー」


 そんな感じで十時間ほどをかけて金沢ダンジョンを駆け抜け、最終二十九層に到達した。

 ボス部屋の前で、とりあえずダンジョンの碑文を確認する。


「前にロジャーたちから見せてもらった時の碑文から変化はある?」

「あー俺はこの文章読めないからなー……あ、前に写真を撮った時よりも文章が長くなってる気がするぞ」


「えっ? ちょっと私に見せてください読んでみますね」


 そこにはこう書かれていた。


『鬼の王の魂は、その体を駆け巡る。相対する度に異なる強さを見せるだろう。鬼の王を討伐せし者大いなる力を手に入れる』


 これは前に写真で見せてもらったのと同じだけど、その下に更に文章が増えていた。


『氾濫は怠慢により起こる。神は見る。六十番目の月より宵闇を迎えるたびにそれは起こる』


「ロジャーこう書いてあるけど、どう思う?」

「氾濫がスタンピードの事であるのは間違いないな。怠慢の意味が問題だが、恐らく今回の結果から考えて、ボス部屋にたどり着いて攻略に失敗している事と、七百か所のダンジョンの中でもっとも攻略が進んでいないダンジョンが該当するんじゃないか?」


「なるほどー……その後の文章はダンジョン発生から五年経過している事と、今日は丁度新月だったから、宵闇は新月の日で合ってるっぽいですね」

「そうだな、これから先、最終層にたどり着いて攻略失敗したままのダンジョンと攻略が最も進んでいないダンジョンが、新月の日にスタンピードを起こすとみて間違いないだろう」


「じゃぁとりあえずはボスを倒しちゃいましょうか」

「おい心愛、君川の看破のような弱点の特定方法はあるのか?」


「えっと……必ず体の中にはあるんですよねコアは」

「あー、そのはずだ」


「だったら大丈夫だと思います。みんな準備はいい? オーガキングは魔法無効で、コアを壊さない限り延々と再生して、咆哮でジェネラルとかの取り巻きを呼ぶからね」

「了解です、再生が間に合わないくらいに、滅多突きにしてやればOKって事ですよね?」


「……まぁ間違っては無いわ、ロジャーはとりあえずギフトで狙ってね。樹里さんと美穂さんは咆哮に備えて下さい。雑魚オーガたちが出てきたらよろしく願いします」

「了解、頑張ってね」


 現れたオーガキングをロジャーがギガントショットで狙い撃ち、心愛と希が二人で飛び掛かろうとした瞬間一瞬足が止まった。


「あ、見えました先輩!」

「うん、私も……額だね、あんな目立つ所ってさんなの?」


 綺麗な一本足打法で左打ちフォームに構えた心愛は、世界のホームラン王を彷彿させるスイングを飛び掛かって来たオーガキングの額に叩き込んだ。


「必殺『王がキング』だよ!」

 

『バキーーーン、グシャッ』


 派手に音が響き渡り、一撃でレベル五十八オーガは黒い霧に還元され消えて行った……


「先輩、ダジャレ口にしましたか?」

「私がそんな事言う訳無いじゃん」


「ぜーーったい嘘、心愛先輩意外に親父なんだぁ」

「お父さんが、基本そんな感じだったから……」


「すげーな心愛一撃かよ……水晶出てるから触りに行こうぜ」


「「「はーい」」」

『スキル【リミットブレイク】を取得しました』


 【リミットブレイク】ってなんだろ?

 早速取得して鑑定をかけてみた。


~~~~

【リミットブレイク】


 ダンジョン外でもステータスを有効にできる

~~~~


 これは凄いね、今一番必要な能力のはずだよ。


「ロジャー、このスキルを身につければスタンピードの対処も断然楽になるはずだよ」

「そうだな、助かるぜ。早速外に出てスタンピードの鎮静を手伝ってくる」


「特務隊の人たちにも覚えてもらいたいけど、明日までは他の人たちは入れないね」

「先輩がスキルオーブにしちゃったら大丈夫なんじゃないかな?」


「あ、その手があるか、希かしこいじゃん」

「へへー、お駄賃は先輩の匂い嗅ぎ放題でいいですよ」


「それは却下!」

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