第70話 制圧!したの?されたの?

「希、行くよ!」

「先輩、OKです!!」


 二十二層の攻略を開始したのが十八時半「最終層ってこんな物なの?」っていうくらいに、これまでの階層と大差ない感じでボス部屋の前まで辿り着いた。


 現在時刻は十九時三十分「希、ちょっとうさ耳バンド貸して、杏さんに連絡とってみる」


「はい、金沢ももう攻略始まってるんですよね? 無事に攻略出来たらいいんですけどね」

「そうだね」


『杏さん、聞こえますか』

『心愛ちゃん、聞こえてるよ。今は私は金沢のダンジョン協会の会議室の中で待機中だよ』


『そちらの状況はどうなんですか?』

『十九時に作戦が開始されて、二百六十四名の隊員で一気にボス部屋前まで進行して、先程一九二〇時に突入したそうよ。日本とアメリカの最強チームで一チームずつ突入して他の班は待機してる状況ね』


『そうなんですね、私達も今から突入するところです。それではまた連絡します』

『心愛ちゃん無理と思ったら、迷わず脱出してよ?』


『はい、解りました』


 二十二層のボス部屋の扉は、これまでの階層と違いとても大きかった。

 扉を開けようとすると、取っ手部分に文字があるのを見つけた。


「希、これ見て」

「字なんですか? 何語かな? 見た事無いですぅ」


「私も見当つかないわ、ちょっとスマホで撮影しておくね」


 取っ手の写真を撮ると扉を開け放った。


◆◇◆◇


「君川一尉、突入します」

「現在一九二〇時突入」


 日本国自衛隊ダンジョン特務隊第一班、君川班。


 国内最強を自負するこの班のメンバーは全員がダブル(二桁順位)の猛者であり、ランキングプレートの文字色から『チームシルバー』と呼ばれていた。


 同時に展開するのは、世界最強部隊アメリカの誇る【DSF】の中でも最高ランクを誇る『チームα』


 リーダーのロジャー大尉は世界ランキング二位、チームメンバーは平均順位では、チームシルバーよりも更に順位が高い。

 今回サブに回った、グレッグ大尉の率いる『チームβ』と共に世界中のダンジョン攻略者のトップに君臨し続けるチームである。


「ロジャー、心置きなく死ねよ!」


 グレッグの声に周りはどんびきしていた。


「グレッグ大尉、扉の取っ手を見て下さい。何か文字が刻まれています」

「ん、見た事の無い文字だな。撮影して置け調べさせよう」


「了解しました」


 内部に展開した二つの部隊はそれぞれに別れて、ボスの登場を待ち構える。

 中央部分に黒い霧が沸き上がり、その中から正にダンジョンボスと言える巨大な敵が姿を現した。


 全長十メートルにも及ぶ巨体のオーガ種である。


「オーガキングか?」


 恐らく下層階の中ボスで現れたオーガジェネラルの上位種であろう事は予測がつく、だとすれば咆哮が危険だ。

 取り巻きを召喚してくる可能性が高い。


「掃射!」


 君川の号令により、特殊装甲弾の一斉掃射が行われるが、弾丸が弾かれる。


「硬いな……」


「ヘイ君川、下がれ俺が行く。シングルの実力を目に焼き付けろ」


 ロジャーが一人でオーガキングの前に立ちはだかると、弩弓を構える。

 ダンジョン産武器でバリスタともいえるサイズの弩弓を構えると叫んだ。


「出し惜しみは無しだ『ギガントショット』」


 シングルランカーが身に付ける特殊攻撃を発動させた。

 打ち出された矢は、直径五十センチメートル長さ二メートル程のサイズへ巨大化し、オーガキングのどてっぱらに突き刺さった。


「今だ、空いた穴に火力を集中して一気に殲滅しろ」

「「「了解ラジャー」」」


 二つの部隊が一斉に傷口に攻撃を集中し、弾幕で視界が遮られる。

 その中から、オーガの咆哮が響き渡った「やばい取り巻きが出るぞ」


 咆哮と共に部屋中にオーガジェネラル四体、オーガ十二体が湧きだした。


 弾幕が晴れてくると、オーガキングもまだ健在だ。

 しかも傷口が既に半分程度塞がってきている。


「なんて、生命力だ。ロジャーさっきの攻撃はまだ使えるのか?」

「君川、あれはクールタイムが十分掛かる。キングが完全復活してしまう前に、取り巻きの殲滅を頼めるか?」


「解った、キングの動きを止めるのはそっちに任せるぞ」


 ジェネラル種までであれば、自衛隊の部隊も討伐実績はある。

 日本最強部隊が圧倒的火力で総攻撃を始めた。


 アメリカチームはオーガキングを取り巻きから引き離し、それぞれが装備するダンジョン産武器での攻撃へ移行した。


「恐らく傷口を塞ぐ超回復の様な能力を使用中は、攻撃してくることが出来ない様だ。今のうちに削り切ってしまえ」


「冬月二尉、鑑定オーブをキングに使用し、結果をロジャーに伝えろ」

「了解です」


 唯一の女性隊員『冬月』が持たされて居た鑑定オーブを使用してオーガキングを鑑定する。


~~~~

『オーガキング』LV58


HP 38486/58000

MP    48/58

攻撃力  580

防御力  580

敏捷性   58

魔法攻撃   0

魔法防御   0

知力    58

 

運      0


魔法無効

咆哮


コアを破壊しない限り、再生を繰り返す。

再生中は、咆哮以外の行動不能。

~~~~


「この感じだと、ギガントショット以外の攻撃は、せいぜい十程度しかダメージが与えられてないな。コアは何処だ」


 コアを特定して次のギガントショットで破壊するしか勝ち目はない。


取り巻きが半分ほどに減った所で再び咆哮して、取り巻きが更に十六体現れた。


「後五分か、これじゃぁ先に取り巻き達にやられてしまうな。『ジョン』半数は取り巻きの殲滅を手伝ってこい。残り半数は攻撃を加えながら、コアの位置の特定だ」


「ラジャー」


「ロジャー弾薬が底をつく。次のロジャーの攻撃で倒せなかったら撤退だ」


「あぁ、悔しいが、こいつとの相性はグレッグの方が向いていたな。あいつのは威力は俺より低いが、連射性が優れているからな」


取り巻きが十二匹まで減った時に、更に咆哮を放って来た。


 二十八匹のオーガの群れとの戦いだ。

 単純な数の勝負でも負けて来た。

 弾薬を討ち尽くした、メンバーから、順次直接攻撃武器へと換装していく。


「ロジャーまだか? そろそろ限界だ」

「もうちょい、良し行ける、キングから離れろ」


 一斉に他の隊員たちがオーガキングから離れて、再びオーガキングとロジャーが向かい合う形になった。

 α隊の攻撃により回復を遅らせ、かろうじてオーガキングからの攻撃は受けずに済んでいる状態だ。


 しかし再び弩弓を構えたロジャーを確認すると回復を諦め突撃して来た。


「クソ、こんな奴のコアは基本心臓か脳天って決まってる筈だ、心臓で勝負してやる」


『ギガントショット』


 突っ込んで来たキングが大きく手を広げ殴りかかって来た、それと同時に弓が放たれ、オーガの心臓部分を突き抜けた。


「「「やったのか」」」


 殴り飛ばされたロジャーが失いつつある意識の中でつぶやいた。


「まさか……掌だと……」


 再びキングは、体の再生を始め、咆哮を行い既に取り巻きが四十体を超える。


 君川が決断した。


「総員撤退だ」


 各パーティ毎に次々とエスケープオーブを発動して、ダンジョン外に退出した

 総員二十四名、全員が負傷はしているが、致命傷の者はいない。


 ロジャーも全身十二か所にも及ぶ骨折を負ったが生きてはいる。

 地上に戻った瞬間に一度意識が戻り「クソッもう一度だ」と叫び再び意識を手放した。


 日米合同チームによる最初のダンジョン攻略は失敗に終わった。

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