第65話 海外と日本ダンジョン協会の思惑②

「アメリカ大使と武官が到着されました」


 随員を伴い六名で訪れたアメリカ側の人員を日本側は五人で迎えた。

 この際に日本側が理事会全員での対応を行わなかったのは、責任問題になった際のリスク回避のためだ。


 今後もダンジョン協会に残る結城、轟、冴羽の三人はここが勝負処に成る。


「単刀直入に伝えましょう、既に【DSF】の最高責任者マッケンジー長官も二班の精鋭部隊と共に日本に向かっています。世界最高峰のダンジョン探索部隊です。今回の金沢ダンジョンの件、自衛隊ダンジョン特務隊だけで攻略は可能と思われていますか?」

「国内の部隊だけでは困難かと感じています。しかし日本の体制として我々には、特務隊への指揮権は存在していませんので要望を伝える程度の事しか出来ません」


「鑑定オーブのアメリカへの供与は可能でしょうか?」

「それは条件次第で可能です。これは私の判断で行えます」


「条件を聞かせて貰いましょう」

「オーブ一個に付き三百万USドルでの譲渡、最大五個までの供与、この情報を利用して最初のダンジョン攻略をアメリカが成し遂げた場合、スペシャルボーナス情報の共有、それが約束されるならお譲りします」


「OKそれはこちらで予測した要求の範囲内です。即決で契約書を交わそう」

「中国とロシアへは同じ条件を出されるのですか?」


「彼らは電話で話を済まそうとしたので、アメリカとの取引が全て終了した後での対応となります」

「うちのマッケンジー長官は幼少期を軍隊に入るまで横須賀で過ごしたので日本的な考え方が出来て、それが今回の結果だという事ですか?」


「その様ですね」

「話は戻りますが金沢ダンジョンを日本単独で攻略する可能性は協会としての見方で、どの程度の可能性があると思われていますか?」


「良くて五十パーセントです。二分の一で死ぬ可能性のある作戦など作戦とは言えません」

「随分低いですね……日本も現状三十一層の探索を進めているはずですが?」


「私は、この年齢ですがRPGと言われるゲームが好きでですね、中ボスとラスボスを同じに考えて良い訳が無いと理解しています。これがゲームであれば死んだ回数で経験を積み、倒し方を理解して行けばいいのですが、現実では死んだ回数で残される知識など存在しません。死ねば終わりです。ダンジョン内での通話方法すらない状態で死んだ後に残せるデータがどれだけある事か……」


「死ぬ前にメモを残して死んで行けと言う命令は出せないという事ですね」

「私は人でありたいと願っていますから」


 その場で鑑定オーブの受け渡しまで行い、アメリカ大使一行は戻って行った。


 当然その様子は中国、ロシアの諜報組織は確認していた。

 別に取引を断った訳では無い、こそこそせずに堂々と正面から申し込んでくればよかっただけの話だ。


 諜報組織の連絡を受けて対応を始めた両国にオーブが提供された頃には、既にアメリカ国内では攻略に値するDランクダンジョンの選定が行われた後であった。


 ◇◆◇◆ 


 オーブと入れ替わる様に日本にやって来たマッケンジー長官と【DSF】の最精鋭部隊はそのまま金沢に向かった。


「マッケンジー長官。ようこそ日本へ、日本のダンジョン特務隊の指令を務める葛城です」

「進行状況はどうなっている」


「現在日本国の特務隊隊員全員の二百四十名が、最終二十九層までのリフトでの移動が出来る状況になり、内閣総理大臣からの突入命令を待つだけです」

「危険は把握しているのか?」


「当然想定しています。最終階層の守護者の部屋へは二班だけが突入し、他は総てバックアップ要員として待機します。不測の事態に備え一名は書記官として状況を細やかに記録させる事に専念させます」

「了解した。友好国として世界最強の部隊と自負している【DSF】の部隊を作戦参加させて欲しいが、要請を受け入れる事は可能か?」


「私の判断ではお答えできません」

「では不測の事態に備え、バックアップに協力が出来る様、今からすぐにダンジョンに【DSF】の部隊を潜入させ、リフト移動ができるように準備させる事の許可は出せるか?」


「【DSF】としてではなく探索者として潜る事を、拒否する権限を有しておりません」

「解った。カラーズの優秀な探索者が、これから個人の自由で二十四名ダンジョンで探索活動をする」


 その言葉と共に一斉に【DSF】の二班二十四名が金沢ダンジョンへと展開して行き、二十時間後には二十九層のダンジョンリフトから地上へ戻って来ていた。


 この探索に掛かった時間は、日本の特務隊が突入から戻って来るまでの半分以下の時間だった。


 ◇◆◇◆ 


 一方初動に出遅れた中国国内のダンジョン討伐部隊は、一か八かの勝負に出た。

 Dランクと予想されるダンジョンの中で、現状二十層以下まで攻略が進んでいるダンジョンに限定して日本から手に入れた鑑定オーブを使用し、該当ダンジョンが一か所あった。


 二十四層までのDランクダンジョンで、現状二十二層までの攻略が進んでいたそのダンジョンを探索する部隊に、国内最強部隊が使用する装備だけを与え、一気に突入させた。


 その結果部隊は壊滅、四十八名の突入で生還者0の結果となったが、事実は秘匿された。

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