第58話 ダンジョン協会の新体制

 私と希でダンジョン内の最速ルートをひたすら進み、三時間をかけ十二層まで到達した。


「心愛ちゃん。知ってはいたけど魔法の威力ってつくづく規格外ですね。七層の魔物部屋に当たった時なんか私は生きた心地がしませんでしたよ。それを魔法一発でドロップの山に変えてしまうとか、びっくりしました」

「希の活躍もちゃんと見てくれましたかぁ」


「勿論見てたよ、私もカラーズの人の探索の様子を実際に見た訳じゃ無いから、はっきりとは言えないですけど、恐らく獲得するドロップ数から逆算しても、殲滅速度が全く別次元なんじゃないかと思うよ」

「やっぱり希も凄いんですかぁ?」


「魔法が使える時点で、今知られているだけでは世界に二人しかいないわけですし、逆に他の人と比べる事がナンセンスかもしれないですね」

「希、そんな自慢してる暇が有ったら、もう一階層降りて帰るからね」


 今日のD-CANメンバーの順位は!


柊 心愛 17歳(女) レベル32  ランキング 395,654,546位

真田 希 16歳(女) レベル27  ランキング 773,284,828位

大島 杏 25歳(女) レベル16  ランキング 1,425,687,531位


「ねぇ心愛ちゃん? 聞いて良いかな?」

「どうしましたか? 杏さん」


「成長速度って他の人も同じじゃ無いよね?」

「やっぱり判りますか?」


「ベテラン探索者の人達とかはね、もう五年以上の歳月を使って、やっと今の立場なの。それを考えるといくら魔法が使えたからとか言っても、順位の上がり方がおかしいもの」

「考えれば判っちゃいますよね。それもスキルです。超成長って言います」


「当然内緒だよね?」

「はい、今はまだ」


「杏さん、今日は三人でご飯食べて帰りましょうか?」

「先輩、ごめんなさい。今日はうち弟の誕生日だから急いで帰ります。ケーキの予約してあるし」


「早く言いなさいよ、弟君待ってるでしょ」


 大急ぎでダンジョンを後にして、一度食堂へ戻ると杏さんの車で希がケーキを予約していた店に行き、私と杏さんがそれぞれ、ゲーム機とゲームソフトを買い希に持たせて送り届けた。


「先輩、杏さん本当にありがとうございます。感謝感激です」

「もういいから、早く帰りなさいって。明日は朝早いんだからね」


「はーい」


「杏さん付き合わせちゃってごめんなさい」

「え、私も同じチームメートのつもりだから、そう言われちゃうとまだ仲間には入れてないみたいで寂しいかな?」


「あ、ごめんなさい。そんなつもりじゃなかったんですけど」

「冗談だよ、ご飯行こうか。何が良い?」


「気分はイタリアンですね。パスタが良いです」

「了解」


 ◇◆◇◆ 


 黒田常務理事の退出した後の会議は、それぞれの理事が秘書との意見調整を行い、最善の施策を語り合った。


 結果、アメリカ、ロシア、中国のダンジョン討伐において先頭を走る三国に対して各五個づつの鑑定オーブの提供を行うととして、対価として最先端の対魔物用の武器の供与を交渉する事となった。


 早速その場で三か国のダンジョン協会と回線をつなぎ、具体的な交渉が始まり、世界が一気にダンジョンの攻略に向けて動き出す。


 日本に現れた十二か所のダンジョンのランクの傾向から大都市程、難易度の高い傾向が強いので、三大国も、そのデータを参考に攻略目標を組み立て直す事になりそうだ。


 ダンジョン内で最も需要の高いドロップアイテムは現状、魔石とポーション類であるが、それぞれが既に世界中のエネルギーと医療の中心となりつつあり、今後を考えると世界的に均一な条件での魔石の買取は急務である。

 探索者の収入を安定化させ、より多くの探索者を育成していく方針が固められた。


 次期会長への内定が出された森専務理事が、その日の午後の会見で三潴会長と共に記者会見に臨み、内部の不祥事として黒田常務理事を懲戒免職処分にした事を発表。

 管理責任を理由に会長、副会長は引責辞任。


 森専務理事の会長就任と二人の常務理事がそれぞれ、副会長へ就任。

 理事会のメンバーへは、今まで秘書として、実質の政策を決定して来た六名がそれぞれ理事となり、会長秘書の結城と副会長秘書の轟は常務理事へと就任する人事が発表された。


 ゴールデンウイーク明けからの新体制となる。

 これまでの中央省庁からの天下り人事での理事から内部叩き上げの体制へと移行する大きな転機となった。


 ◇◆◇◆ 


 杏さんとの食事を終え家に戻ると玄関のチャイムが鳴った。

 自宅側の方だよ。


「誰だろうこんな時間に?」


 そう思って玄関に行くと希のお母さんが立って居た。


「どうされたんですか? こんな時間に」

「心愛ちゃん。今日はうちの潤の為に高価なプレゼントをありがとうね。一言お礼を言いたくて」


「あ、そんな気にされないで下さい。希が凄く頑張ってくれてて、私、本当に助かってるから、せめてものお礼です」

「うちはね、ずっと私が片親で育ててきて、今まで希にも潤にも全然、贅沢させてあげれなかったから、潤も本当に喜んで、その姿を見た私も涙が出ちゃったのよ、しかもその後に、希がお給料貰ったからって言って、家に四十万円も入れてくれて『私のお小遣いは先に取ってるから、全部お母さんが使ってね』なんて言い出すし、本当にあの子にそんなお給料出したの? 心愛ちゃん。疑いたくないけど何か悪い事してるんじゃないかと心配になっちゃったんだよ」


「あ、そうだったんですね。心配しなくて大丈夫ですよ。ちゃんと希が自分で稼ぎ出したまっとうなお金ですから、お母さんも遠慮なく受け取って上げて下さい。希は私にいつも『お母さんを少しでも楽させて上げたいんだ』って言ってましたから」

「心愛ちゃん、希と一歳しか違わないのに、そんなに立派な社長さんになってるんだね。叔母さんに出来る事が有ったら何でも言ってね協力させて貰うから」


「はい、ありがとうございます。じゃぁ早速お願いしちゃっていいですか? 希がいつでも笑顔で居られる様に元気でいて上げて下さい。お願いします」

「心愛ちゃん、ありがとう。希をよろしく頼むね」


「こちらこそです」


 何だか、ちょっとウルウルしちゃったよ。

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