第40話 魔法のオーブ
どうせまたすぐに掛かってくるだろうし、まっすぐとカフェに向かって歩いて行くと希が立って居た。
「先輩、今スマホ見てましたよね? その上で電話しないでそのままポケットに入れましたよね? 私見てたんですからね」
「ウザッ……」
「酷いですぅ、罰として三分間うなじ嗅がせてください」
「却下」
しかし回り込まれた。
希……後で敏捷下げておこうかな……
「いつから来てたの?」
「十一時前くらいですよ、凄い不安だったんですからね」
「どこが?」
「先輩が一人で狩ってる事に決まってるじゃないですか?」
「私、先週まで一年以上ずっと一人だったし何を今更だよ」
「あ、そう言えばそうだったですね」
「もうお昼は食べたの?」
「まだです」
「とりあえずご飯行こうか」
「はい!」
それだけでスッカリ機嫌の直っていた希と一緒にカフェでパスタとコーヒーを頼んだ。
私はペスカトーレで、希はカルボナーラだったけど、途中で交換して両方楽しんだよ。
「結構本格的だったよね、オリーブオイルの香りも良いし、これはエクストラヴァージンオイルだね」
「そんなのも解るんですか? 私は全然解んないですよ」
「まぁ慣れかな?」
「凄いですねぇ先輩の作ったパスタも食べてみたいです」
「今度作るね」
「ハイ、楽しみです」
「希はなにしてたの?」
「日向ちゃんと先輩の動画の件で色々と打ち合わせしていました。やっぱり日向ちゃんって感性が凄いっていうか同じ素材を使っても私が編集した動画より全然魅力的にできてましたよ。それに先輩のダンチューブの登録者数もまだ三日目なのに千件突破で再生数なんか一万再生超えてましたー」
「凄いね。そう言えばダンチューブって収益化とかあるの?」
「当然あります! このペースでいけば一か月後には認められて更にダンジョン外でのライブ配信なんかを挟めれば投げ銭機能もあるからガッポガッポですー」
「へー、そうなんだ。私もダンジョン素材のお料理動画とかもやりたいかな? って思ってたから、その辺りをどうやったらいいのか日向ちゃんと一緒に考えてて」
「了解ですー。先輩の家の食堂なら簡単にキッチンスタジオにできちゃうと思うからカメラだけ準備したらいいと思いますよ」
「そうなんだ。必要な物とかは私が資金だして揃えるから日向ちゃんと三人でお出かけして揃えてもらっていいかな?」
「了解です! あと、日向ちゃんの提案で先輩の視線での動画が欲しいねって話になったから、インカム形のダンジョンカメラも購入していいですか?」
「構わないよ。今日は希に試しても貰いたい事があるから行こうか」
「えぇどんな事ですか?」
「ダンジョンに行ってから教えるよ」
「了解です」
もう一度八層からの探索になっちゃうな、と思いながら『ダンジョンリフト』で一緒に八層へ降りた。
六層から下は一気に人は減っちゃうから、ほぼ他の人に会うことは無いけどダンジョン食材を調達する商社なんかは、結構十人程度のチームで二十層くらいまで派遣している会社もあるみたいだから出会わなきゃいいけどね。
博多ダンジョンは、自衛隊の部隊が潜っていないから、まだ最高到達階層は二十二層だって聞いたけど、初めて訪れた階層では、隠し部屋から結構いい物が入った宝箱が出る確率も高いっていう噂もあるから、ちょっと頑張って追いついちゃおうかな。
八層に着くと、さっき手に入れた魔石にスキルの能力を宿らせてみる。
一番役に立つのは、アイスランスだよね? と思ってアイスランスを指定してみたけど出来なかった。
「あれ? 何が駄目なんだろう」
あー魔石のランクが足りないのかもレベル十五で覚える魔法だから、十五層より下で取れる魔石じゃ無いと駄目なのかもしれないな。
アイスソードを指定してみると、問題なくオーブが作成できた。
やっぱりそうか。
レベル指定の無い能力はどうなんだろう? と思って、ステータス調整を指定してみると、無事に作成できた。
大体判ったな。
「希、敵が出たらこのオーブを使って、アイスソードってイメージしてみて、おそらく魔法が使えると思うから」
「マジですか? 私もついに魔法少女なんですか?」
「一度だけ、だけどね」
「そうなんだぁ、ずっと使えるようになりたいなぁ」
「それは、そのうち覚えるよきっとね」
「本当ですか? 楽しみです」
早速敵が出て来たので、希にアイスソードを使わせると、一撃でサンドスコーピオンの硬い装甲を切り裂いて倒せた。
切り口が氷結したような感じで、スライム系統やワーム系統の液が飛び散る様な敵を倒す時には有効な感じがするよね。
「先輩、魔法気持ちいですね。でもこのアイスソードは魔法って言うより、魔法剣ですね。飛ばせる魔法が使いたいです」
「一回だけしか使えないから、いざという時のファイナルショット用かな?」
「そうですよね、このオーブって言うのも貴重なんですよね?」
「貴重って言うより大変かな?」
「それってどういう意味ですか?」
「私が一個ずつ手作りしなきゃいけないから」
「先輩が作れるんだ。凄いなぁ」
「ここから先は、九層まで飛ばすから、足元には気を付けて進んでね」
「はい」
八層のボス戦も二度目の今回は、ちゃんとドロップが出たよキュアⅣだった。
キュアはⅥだと末期癌の根絶治療が確認されてる。
Ⅳでも世界中で流行を見せた新型肺炎は一本で完全に治療が出来たみたいだから需要は多い。
Ⅲでは呪いやゾンビ化の治療、Ⅴで石化が治せたはずだ。
ただ、ポーション系統と違って、上位互換では無いから、それぞれの症状に対しての特効薬的な感じで、結構臨床実験の数が必要な感じなんだよね。
九層に降りるとフロア全体が石造りで、いかにもダンジョンっていう感じのフロアだった。
出てくる敵は、マミー、ウルフマン、フランケンシュタイン、ゴーレムと言うオカルト系キャラが現れた。
私も希も武器攻撃で普通に倒していったけど、聖魔法も有効だろうね?
夕方近くまで周回を続け、最後に守護者の部屋へ向かって倒したら帰る事を決めた。
『アイアンゴーレム』レベル十二が現れた。
通常だと関節部分を攻めて、胸部に埋まったコアを破壊する倒し方が、マニュアルだったよね。
希の高い敏捷で、けん制して貰いながら、私は飛び上がって頭部を思いっきり金棒でフルスイングした。
『ゴギャアン』
と、何とも言えない音を出して、首がもげて転がると、黒い霧に包まれて消えて行った。
「先輩、なんだか相手が少し可哀そうに思えちゃいますよ……」
「相手も本気で殺しに来てるんだから、手加減は無しだよ」
最後に今日初めての宝箱が出た。
【鑑定】うん大丈夫。
「あ、杖だ」
魔法発動媒体に使える杖が出た。先端部分に何かをはめ込むような窪みがあるんだけど、どう使うんだろう。
帰ってから調べようかな。
「希、下に降りたら『ダンジョンリフト』で帰るよ」
「はい」
一層に戻ると、ダンジョン協会に拠って、今日は食材を出せなかったので、ダンジョン食材の販売フロアを覗いた。
ダンジョン産のサツマイモの様な野菜があったので購入してみた。
サツマイモ一個で三千円は高いけど、それだけ美味しいんだよね?
「希、ちょっとトイレに行くよ」
「私、別に今大丈夫ですけど? もしかして先輩も禁断のプレーに芽生えたりしちゃったんですか? 大丈夫です。いつでも覚悟は出来てますから」
「何馬鹿な事言ってるのよ、ちょっと試したい事があるだけだよ。目を瞑って」
そう伝えると、何故か希は「ンー」と言いながら唇をタコの様にすぼめて突き出した。
それを無視して、誰も居ないのを確認して『テレポ』と心で唱えると、次の瞬間には、心愛の家の食堂に転移した。
「うん、大丈夫。希、目を開けていいよ」
「あれ? チューしてくれるんじゃないんですか? ってここ先輩の家じゃないですか。もしかして転移魔法ですか?」
「うん、そうだよ。パーティで使えるのかを試してみたかったんだ」
「凄いですぅ先輩。私も何か使える様になりたいですよぉ」
「そのうち覚えるって」
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